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6話

 自室の掃除は夕方まで続いた。


 それが終わると夕食だ。また食堂に行き、ローザさんと2人でトレーに食器を置く。朝と同じようにパンやおかず類を取った。スープもだ。

 朝方と同じく端にある木製の長椅子に座る。そうしてゆっくりと味を噛みしめながら食べた。


 もうローザさんによると夜の7の刻らしい。大体、午後7時頃だろうか。あたしは途中でローザさんの部屋に寄らせてもらう。たどり着くと3着くらいのワンピース、肌着類や踵の低いパンプス、制服などをローザさんは譲ってくれた。あたしはそれらを同じくもらった大きめのボストンバッグに詰め込む。


「……わざわざすみません。けど。お蔭で凄く助かりました」


「いいのよ。また、時間があったら私があなたの服や細々とした物を見繕うわ。何か入り用な物があったら言ってちょうだい」


「ありがとうございます」


 お礼を言うとローザさんは「これくらいはどうって事ないわ」と笑った。何でもローザさんは裕福な伯爵家の出身らしい。また、あたしの()()()から差し引いた分で買うそうだから問題はないようだ。たぶんだが。あたしはもう一度お礼を言って自室へ戻ろうとした。が、ローザさんは心配そうに見てくる。


「イライザ。あなた、確か。まだ後宮には慣れていないでしょ。案内や護衛もなしで戻るのは危ないわ」


「……そうでした。どうしましょう」


「……仕方ない。私の部屋にしばらくいてちょうだい。すぐに戻ってくるから」


「え。ローザさん?!」


「大丈夫。ちょっと護衛の騎士を呼んでくるだけよ!」


 あたしは訳がわからないながらも頷いた。ローザさんは小走りで本当に部屋を出ていってしまう。見送ったのだった。


 あれから20分は待っただろうか。ローザさんは宣言通りに急いで戻ってくる。ドアを開けて入ってきた。傍らには髪を高い位置で一纏めにした背の高い女性が2人いる。


「……ごめん。遅くなったわね。女官長にごり押しをしてきたの。そしたら女性騎士が見かねて2人も来てくれたわ。どちらもイライザの事情は聞いているの。今日から護衛になってくれるわよ」


「え。護衛騎士さん。本当にお2人も来てくださったんですか?」


「そうよ。私の右側にいるのがアレクシアさんで。左側がエレインさんよ」


「……初めまして。私はアレクシアです。今日からよろしくお願いします。藍の君」


「同じく。初めてお目にかかる。私はエレイン。よろしくお願いしたい。藍の君」


 右側のアレクシアさんは鮮やかな赤髪で瞳は淡い青のキリッとした感じの美女だ。肌はちょっと日に焼けているがスラッとした健康的な女性騎士さんと言ったところか。左側のエレインさんは艷やかな薄い茶色の髪で瞳は濃い翠の厳格な感じの女性だった。肌は白いが体格はアレクシアさんよりも一回り大きい。割と女性ながらにガッチリした印象を受ける。


「……あの。藍の君って?」


「……ああ。わかりにくいわよね。藍の君というのは後宮に入った側妃の住居(すまい)やその当人をさすのよ。今のところはイライザ。あなたの呼び名ね」


「そうなんですね。教えてくださってありがとうございます」


 あたしがお礼を再度言うと。アレクシアさんやエレインさんは怪訝な表情をしていた。


「……藍の君。もうよろしいでしょうか?」


「そろそろ戻りましょう」


「……ああ。引き留めて悪かったわね。アレクシアさん、エレインさん。藍の君をよろしくお願いします」


 ローザさんは丁寧に言って頭を下げる。2人は頷くとあたしを連れて廊下に出た。


「藍の君。私はあなたの事情をローザ殿や陛下から聞いている。何か困った事があれば。いつでもおっしゃってください」


「ありがとうございます。エレインさん」


「……私やアレクシアに敬語やさん付けは不要です。どうぞ、呼び捨てでお願いしたい」


 エレインさんに言われてあたしは固まった。確かにここは現代日本じゃない。人権とか男女平等とかいう考え方はないに等しいと言っても良いのだ。ましてや、身分制度が存在するのを忘れたらいけなかった。そう考えてから緩々と頷く。


「……わかった。今日からよろしく。エレイン。アレクシア」


「それでいいのです。あなたからすると慣れない事はさぞや多いでしょうが」


「そうですよ。女官長にローザ殿が掛け合ってくれなかったら。我々も大事な側妃様の現状に気付けず仕舞いでした。本当に申し訳なく思っています。イライザ様」


 そうアレクシアさんは謝りながら頭を下げた。あたしは慌てて頭を上げるように言う。


「あ。謝る必要はないですよ。あたしも後宮にはまだまだ慣れていなくて。これから関わるとなると。凄く迷惑をかけそうだし」


「……イライザ様。ありがとうございます。私も一所懸命にお仕えさせて頂きますね」


「私もだ。アレクシアに負けぬように精進致します」


 あたしは何とも頼もしい味方ができた事に戸惑いながらもちょっとだけ安堵していた。それを女官長が悔しそうに物陰から見ていたのには気づかなかった。


 自室に戻りあたしは掃除を再開しようと物置部屋に行こうとする。が、2人――アレクシアさんやエレインさんに止められた。あたしは自分の事は一通りできると言ったが。なかなかに聞き入れてはもらえない。2人は代わりにメイドを数人呼んでくると言った。エレインさんは残りアレクシアさんが呼びに行く事になる。彼女が出ていくとあたしは見送ったのだった。



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