5話
洗濯場に来てあたしは早くも後悔していた。
何でかというと。お化粧をしているからだ。でも仕方ない。ローザさんと2人で昨日に着た制服やベッドのシーツなどを入れた籠などを抱えながら洗い場に近づく。
「さ。まずは。桶に水を入れましょう」
「はい」
ローザさんが大まかに水の入れ方を教えてくれた。最初に井戸端にあった鉄製のポンプに近づき、取手を両手で掴む。桶を蛇口の近くに置き、取手に力を入れる。上下に動かすとザアッと水が出てきた。それを何度か繰り返すと桶いっぱいに水が入る。ローザさんのが入り切るとそちらに押しやり自分用の桶にも入れた。完全に入りきったら籠を持ってくる。まずはシーツを洗う事にした。
「……あの。ローザさん。シーツの洗い方を教えてもらえませんか?」
「いいわよ。じゃあ。シーツを洗い場の石床に置いて」
「はい」
「石鹸をシーツに全体的にこすりつけるの。そうしたら両足で踏むのよ」
「踏むのかあ。わかりました」
頷いてシーツを言われた通りに石床に広げた。石鹸を全体にまんべんなく擦りつけた。裏側もそうする。表側に戻すと恐る恐る靴や靴下を脱いでスカートの裾をたくし上げた。太ももの辺りまで上げて結ぶと。両足でギュッギュッと踏みつけていく。全体的に念入りに踏んだ。ローザさんが裏側も同じようにしたらいいと教えてくれる。裏側も同様にした。
「じゃあ、次は濯ぎね。私が水を出すからさっきと同じ要領でやってみて」
「……わかりました」
頷いて水を出してもらいながら必死でシーツを踏むために両足を交互に動かす。表と裏をやり終えたら今度は脱水――水気を絞った。ローザさんと2人でしたら木の枝に掛けてあったロープに引っ掛けて干した。黙々と洗濯板を渡されたら制服やブラウス、肌着類も水で濡らした。洗濯板に制服を乗せたら。石鹸を小さなナイフで削り桶にある水の中に落とす。それはローザさんにやってもらう。手でかき混ぜながら泡立てる。制服をそれに浸しながら板のギザギザした部分に当てながら揉み洗いをした。全体的にしたらブラウスや肌着類も軽めに揉み洗いをする。ローザさんも慣れた様子で済ませていく。全てが洗えたら桶の水を捨てて新しい水を入れた。それで洗濯物を濯いだ。2、3回は繰り返したらまたギュッと絞った。意外と重労働だ。そう思いながらもロープに引っ掛けて干していく。
「……ふう。やっと終わった」
「……ご苦労さま。案外、大変でしょう」
「はい。本当にそうですね」
頷くとローザさんは苦笑する。あたしは額に浮かんだ汗をポケットに入れたハンカチを出して拭いた。ふうと息をついた。
「じゃあ。お洗濯は終わったから。朝食を食べに行きましょう」
「わかりました」
正直、助かったと思う。もうお腹が空いて仕方なかった。そういえば、昨日は夕食も済ませずに掃除などをしたからな。本当にローザさんと出会えて良かった。あたしは呑気にそう思っていたのだった。
食堂に通う道すがら、あたしはどうしたもんやらと考えていた。今後は女官としてやっていくしかないのか。それとも陛下に直談判するかな。そう思ったところで無理だと気づいた。一度、後宮に入ったら決定的な何かが起こらない限り出るのは無理だと。なら、ローザさんに色々と詳しい事を聞いた方がいい。そう決めて足を速めた。
食堂に着いたらトレーを持って食器を乗せる。現代と似たようなビュッフェスタイルのようだ。まずはバターロールパンやクロワッサンもどきをお皿に盛り付けた。次はスープやサラダにスパニッシュオムレツっぽいおかずも同様にする。後はソテーやデザートもあったので盛り付けた。
「たくさん取ったわね」
「はい。お腹が空いていますから」
「まあ。それもそうね。あちらが空いているから座らない?」
あたしは頷いた。食堂の隅にあったテーブルにトレーを置き、木製の長椅子に腰掛ける。両手を合わせて「いただきます」と小さく言った。そうしたらローザさんが不思議そうな表情でこちらを見ている。あたしはどうしたのかと思いながら話しかけた。
「……どうかしましたか?」
「……いえ。ちょっとね。珍しい作法だなと思って」
「あ。故郷のお食事前の挨拶ですね。つい、習慣になっていたからしてしまったというか」
「そうなの。私もやってみようかしら」
「はあ。やり方を教えましょうか?」
「そうね。お願いするわ」
あたしは頷くと。ローザさんに両手を合わせるように言った。そうして「いただきます」と告げてから食べるのだと簡単に説明する。興味深そうにしながらローザさんは見様見真似でした。そうしてから黙々とお互いに食事を始める。なかなかにパンは柔らかいしバターの香りがして美味しい。スープやサラダもあっさりしているし野菜が豊富に使われている。オムレツはツナっぽいのとピーマンみたいのが入っていてコショウが効いていた。ソテーも美味しいな。デザートも食べきったのだった。
朝食を済ませたらまた自室の掃除をした。現代から持ってきた不織布マスクをローザさんが意外そうな目で見る。あたしは簡単に説明して彼女に1枚だけ分けてあげた。興味津々な感じで触っていて驚いたのだった。




