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4話

 夕食後にあたしは女官用の大浴場にローザさんと一緒に向かう。


 着替えに洗髪用の石鹸、香油にタオルなどを持ちながらだが。大浴場に着くと脱衣場に入った。ちなみに洗髪用や身体用の石鹸、香油はローザさんが後宮の離宮に住まわれている王太后様付きの女官さんに分けてもらったらしい。何故、そんな事ができたのか?

 実は女官さん達の中にローザさんの友人がいるそうだ。その人に融通してもらったという。しばらくは必要だろうからと石鹸を7個、香油も小瓶で4本くらいはもらえた。この友人さんには本当に感謝しないと。それに会った事はないが。王太后様にも感謝だ。まあ、あたしの事はご存知ないだろうしこの件には気づいていないかもしれないが。


 さて。あたしは衣服を脱いでタオルや石鹸などを洗面器に入れる。大浴場に入った。

 ローザさんが浴槽のお湯を洗面器で掬い、髪や身体にかける。そうした上で海綿のスポンジに石鹸をつけて首筋などを洗う。ザザッとそうしてから再び洗面器で掬って泡を流す。あたしも見様見真似で洗面器でお湯を掬い、何度か髪や身体にかけた。そうした後で海綿のスポンジに石鹸をつけてよく泡立てた。首筋から下をゴシゴシと洗う。


「あ。イライザちゃん。あんまり強く擦りすぎると後で痛くなっちゃうわよ」


「……そうなんですか」


 あたしはそう答えると海綿で洗うのは程々にしておいた。次に髪にお湯をまたかける。石鹸を泡立てて髪につけ洗った。念入りにするが。ついシャワーを探してしまう。とっさにローザさんが洗面器からお湯を掬い、かけてくれた。


「……やっぱり異世界から来たのは本当みたいね」


「何というか。すみません」


「いいのよ。綺麗にすすげるようにしてあげるから」


 そう言いながら何度かお湯をかけてくれる。あたしは髪をすすいだ。泡が綺麗に流せたとローザさんが言ってくれる。目を開けると近くに置いたタオルを取り水気を拭き取った。髪を一通りそうすると。お湯を2、3回かけて浴槽に浸かった。


「あー。いいお湯だわ」


「ふふっ。確かにそうね」


 2人でゆっくりと浸かりながらポツポツと話をした。ローザさん曰く今の時間帯は大浴場が割と空いているらしい。だからあたしを連れてこれたとか。湯あたりしない内にと上がりバスタオルで水気を再び拭き取る。洗面器に使った石鹸などを仕舞い込み、タオルやバスタオルも持って脱衣場に出た。

 あらかじめ、持ってきていた着替え用の衣服に袖を通す。ちなみにローザさんが持っていた衣類からサイズの合う物を選んで譲ってもらった。ベージュの生成りの上着に同系色の長めのスラックスだ。足元には室内用の布製の靴を履いていた。


「……さ。戻りましょう」


「わかりました」


 脱衣場を出てあたしはローザさんと一緒にかつての物置部屋――自室に向かう。そこまで送ってもらってから自室に入る。ドアが閉まると内鍵があったので掛けておく。


(……はあ。色々あり過ぎて疲れた)


 あたしはため息をつきながらも部屋の棚にあった蝋燭やマッチを出して火を灯した。薄っすらと明るくなる。さて。眠気がやってきたので部屋にあった薄いマットレス付きのベッドに寝転がる。蝋燭をつけっぱなしだと危ない。仕方ないのでふっと息を吹きかけて消した。そのまま、ベッドに上がり布団の中に潜りこんだ。今はローザさんに聞いたら夏の季節らしい。確か、緑の月とか言っていたな。現代でいう8月くらいみたいだが。そんな事を思い出しながら瞼を閉じた。


 翌朝、あたしは明け方近くに目が覚めた。あ、お風呂で使ったタオルなんかを洗濯しなきゃ。そう思って起き上がる。不意に朝方特有のひんやりした空気にブルリと震えあがった。


(うう。意外と冷える。真夏のはずなのに)


 そうしてキョロキョロと辺りを見回す。……そうだ。ここはあたしのいた現代日本じゃない。寝ぼけて忘れていた。両方のほっぺたを軽く叩く。目が完全に覚めたわ。あたしは鏡台や洗面所を探すためにベッドから降りた。まずは閉めてあったカーテンを開ける。朝特有の日差しがガラス越しに入ってきた。窓も開けて外の空気を取り入れた。爽やかな感じがする。そう思っていたらドアをノックする音が聞こえた。返事をしたらローザさんが入ってくる。


「おはよう。イライザちゃん。よく眠れたかしら?」


「……おはようございます。おかげ様でよく眠れました」


「そう。なら。歯ブラシや磨き粉と。タオルも持ってきたの。今後も必要だろうから」


 あたしはローザさんが持ってきてくれた歯磨きセットを受け取った。洗面所の場所を訊いたら。この部屋の向かって左側にあるドアの向こうにあった。2つある内の右側が洗面所で左側は不浄処――トイレだった。鏡台も部屋の奥にあり後でローザさんに髪結いをしてもらえる事になる。あたしはまずは洗面所に行き、歯磨きや洗顔を手早くすませた。タオルで顔を拭きながら部屋に戻る。女官長が渡してきた着替えがあったので寝間着を脱いだ。着替え――女官用の制服を急いで着る。

 鏡台に行き、ローザさんが香油を髪に塗り込んでくれた。ブラシで梳いてくれたのだが。それは延々と続く。10分くらいは経ったか。やっと梳くのが終わり一本の三つ編みにしたら。それをくるくると巻いてピンで留めていった。お団子にしたらアシアナネットを被せてきっちりと纏める。


「……できたわよ。最後にお化粧をしましょう」


「え。そこまではいいですよ」


「あのね。あなた、お肌の手入れもろくにしてないでしょ。それじゃあ駄目よ。ちゃんと薄化粧でもしないと」


 ローザさんに怒られてぐっと詰まった。仕方なく頷く。ローザさんは手早く持ってきたらしいお化粧水や乳液などでマッサージをした。その上で白粉を薄く塗る。アイブロウにアイライン、ピューラーでまつ毛を上げた。チークを塗り口紅も塗る。仕上げに白粉を重ね塗りしたら。


「よし。お化粧も完了。これなら大丈夫よ」


「……はあ。ありがとうございます」


「明日も来るから。お化粧やドレスのコーディネートなんかを教えてあげるわ」


 再びローザさんにお礼を言った。今日も自室の掃除をしてから洗濯場に向かうのだった。


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