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14話

 あたしがヴァルサリーニ王国に来てから、1年が過ぎていた。


 ローザさんの兄でウェイリー公爵もとい、オーランド様に婚約式を挙げたいと言われたあの日から一週間が経っている。その彼から、ドレスやアクセサリー類、靴などが届けられた。いわゆる贈り物だが。そーいや、あの日にオーランド様は「ドレスなどはこちらから」って言っていたっけ。つらつらと思い出しながら、あたしはハンカチの刺繍の仕上げを行う。最近になってやっと、刺繍の腕がちょっとは上がったように思っている。指に針を刺す回数も1時間に4回から2回に減ったし。これはあたしなりになかなかの進歩だ。

 ニヤニヤしながら、針を丁寧に入れた。部屋には誰もいない。思いっきり、表情を緩めながら没頭するのだった。


 昼間になり、やっとハンカチが仕上がった。これでオーランド様にちょっとは御礼返しができる。そう、彼への贈り物用に作っていたのだ。ドアがノックされた。


「……はい」


「ローザです、入っていいですか?」


「入っていいよ」


「では、失礼します」


 ローザさんがドアを開けて入ってきた。あたしは出来上がったばかりのハンカチを見せる。


「んふふ、やっと。完成したんだ!」


「あら、あのハンケチーフですか。完成したんですね」


「うん、苦戦したんだけどね」


 あたしは頷いた。ローザさんはにっこりと笑う。


「良かったですね、では。包装してお贈りするのは私がやりますから。イツキ様は招待状を送るのをやってください」


「わかった、よし。頑張るぞ!」


 あたしはやる気を出しながら、ハンカチをローザさんに渡す。招待状の作成に取り掛かったのだった。


 まずは、招待状を1枚ずつ下書きをする。そうしてから、アレクシアさんやエレインさんにチェックをしてもらう。合格サインが出たら、清書だ。それをずっと繰り返した。出来上がったものはローザさんや他の女官さん2名が封筒に入れたりしてくれる。封蝋などはあたしがやるけど。


「イツキ様、後5件ですよ」


「わかった、頑張るよ!」


 ローザさんが名簿を見ながら教えてくれた。腕まくりをして、また招待状の作成を行う。気がついたら、夕方になっていた。


 今日の分はこれくらいだとすっかり仲良しになったルーナさんが言ってくれる。ローザさんも頷く。


「……イツキ様、お疲れ様でした」


「うん、皆もお疲れ様」


「では、夕食をお持ちしますね」


 ルーナさんが言って部屋を出ていく。部屋には、あたしやローザさんなど4人だけが残された。


「イツキ様、兄との結婚まで後2年ですが。まだ、私としては心配な面が多いです」


「……そうなんだよね、あたしもそれは思うよ」


「兄は構わないと言っていましたけど」


 ローザさんはふうと息をついた。あたしはというと、何故に?と思う。オーランド様が構わないってどういうこと?


「兄は早めに結婚したいと言っていますね、どうやら。イツキ様に一目惚れをしてしまったようですし」


「…………はい?」


「いえ、兄はイツキ様みたいにはっきりと物を言える女性が好きなようでしてね。また、外見も良かったとか後で独りごちでいました」


 あたしは苦笑いしかできない。オーランド様、あたしは絶世の美女じゃないよ?!普通の一般ピーポーだよ!

 心中で叫びながら、ローザさんに言った。


「……そう、気に入ってもらえたなら良かったけど」


「はい、兄の好みにあなたが合致していて良かったと今は思います」


「良かったですね、イツキ様」


「うん、公爵はああ見えて気難しい方ですし」


「そ、そうなんだ。教えてくれてありがとう。エレインさん、アレクシアさん」


 あたしがお礼を言うと2人はにっこりと笑った。ローザさんもはにかむように笑うのだった。


 夕食を済ませ、大浴場にて入浴も済ませた。後は寝るだけだ。暑い季節だからと、ローザさんとルーナさんが気を利かせてアイスティーを持って来てくれる。


「イツキ様、アイスティーを淹れてきました」


「あ、今は暑いしね。ありがとう」


「……イツキ様が以前に言っていたカキゴオリでしたか。同じような物は難しいので、削り氷を料理長が作ってくれましたよ」


「わ、本当?!」


「はい、ウメのシロップをかけたとかで」


 あたしはやったと両手を上げた。それくらい、嬉しかったのだ。削り氷は確か、元の世界の日本にもあったはず。平安時代くらいには削り氷はあり、甘葛(あまづら)というツタ植物から取った汁で作られたシロップをかけて食べたらしい。削り氷が盛りつけられたお皿を受け取る。ひんやりとした感覚が手から伝わった。スプーンを取って口に運ぶ。削り氷特有のシャリシャリ感にキンと頭にくる冷たさ。これよこれ!

 かき氷だわ、モノホンの。あたしは甘酸っぱい梅のシロップも味わいながら、堪能する。


「ん、美味しい!」


「お口に合ったなら、良かったです」


「うん、料理長さんにはお礼を言わないとね」


 あたしはまた、一口を含んだ。アイスティーを飲みながらしばらくはルーナさんやローザさんとお喋りに興じた。

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