13話
あたしがヴァルサリーニ王国にやってきてから、約1年が過ぎた。
もう、季節は7月になり夏になっている。いきなり、ローザさんから来客だと告げられた。
「……ローザさん、お客様って誰なの?」
「あの、私の兄のウェイリー公爵です」
「えっ、陛下以外の男の人が後宮に入ってもいいの?!」
「……兄は後宮の入口の門にて待っています、行きましょう」
「えっ、今から?」
はいとローザさんは頷いた。あたしは慌てて、付いて行った。
後宮の入口の門付近には妃や女官達の来客用の建物があるらしい。何か、昔の中国の後宮にはそういった場所が設けられているとは聞いたことがある。それと似たような感じだろうか。そう思いながら、あたしは建物の中に入った。こじんまりとしているが、なかなかに趣味が良い。ドアに取り付けてあるノブや壁にあるランプなども花に似た形で洒落ている。壁紙や敷いてある絨毯も白地に小花柄に統一してあり、可愛いながらに落ち着いた雰囲気だ。
ローザさんは、建物内のある一室のドアの前で立ち止まる。ノックをしたら、中から男性の低い声で返答があった。
「入りましょう、イツキ様」
「……わかった」
ローザさんに促されて、あたしは頷いた。ドアを開けて中に入る。
そうして、あたしはローザさん達に叩き込まれたカーテシーを行う。
「……ああ、あなたが側妃様ですか?」
「はい、初めまして。私はイツキ・サキタと申します」
「頭を上げてください」
心地のよいヴァリトンの声が言った。あたしはゆっくりと頭を上げる。
さらさらした黒髪を短めに刈り上げ、淡いサファイアブルーの瞳がまた綺麗な超眉目秀麗な男性がソファーに腰掛けていた。え、この人があのローザさんのお兄さん?!めっちゃ、イケメンじゃないの!
あたしはあ然とする。はっきり言って国王陛下のオルキスさんより、この男性の方が圧倒的に好みだわ。
「……あの、側妃様。話には聞いておられるでしょうが。私はそちらのマリーローズの兄でオーランド・ウェイリーと申します。公爵位を賜わっていますね」
「そうなんですか、改めて。よろしくお願いします、ウェイリー公爵閣下」
「ああ、公爵閣下ではなくて。気軽にオーランドとお呼びください。私もイツキ様と呼ばせていただきます」
「わかりました、オーランド様」
「そうしてください、イツキ様」
にっこりと男性もとい、オーランド様は笑う。あたしはホッとする。なかなかに優しそうな人だ。それに、爽やかイケメンだし。
「とりあえず、立ち話もなんですから。座ってください」
「はい、ローザさんも一緒に」
「……わかりました、すみません」
オーランド様に勧められて、あたしは向かい側のソファーに座った。ローザさんも一緒にだが。
「それはそうと、イツキ様。私との縁談についてはお耳に入りましたか?」
「はい」
「なら、話は早い。後半月程したら、婚約式だけでも行いたいと思っているのですが」
オーランド様は意外なことを告げた。あたしはあまりの急展開に頭が付いていけない。こ、婚約式だって?!
な、何でする必要があんのよ!
「……兄上、イツキ様はまだこの国にいらしてから1年程しか経っていませんよ」
「それでもだ、他の貴族達にイツキ様を掠め取られる危険性がある」
「それでも、陛下には話を通したのですか?」
「一応、伝えてはおいた。陛下は2つ返事だったが」
「……それはそれで、どうかと思いますけど」
ローザさんは呆れ顔だ。オーランド様も苦笑している。
「マリーローズ、とりあえずはイツキ様との婚約式を成立させるためにも。エレイン殿やアレクシア殿、女官方には伝えておいてくれないか?」
「わかりました、諸々の準備やお支度も任せてください」
「ああ、頼むよ」
オーランド様が言うとローザさんは頷く。それに念押しをしてから、こちらを彼は向いた。
「イツキ様、婚約式に着るドレスやアクセサリー、靴などは私から贈ります。何か、他にご入用の物があったら。手紙かローザに言って頂ければと思いますが。よろしいでしょうか?」
「……わかりました、あの。不束者ではありますけど、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。よろしくお願いします」
にっこりとオーランド様は笑った。不意に、手を差し出される。あたしは恐る恐る自身のそれを重ねた。思いの外、力強く握られる。いわゆる握手を彼はしたらしい。意味がわかると柄にもなく照れてしまうのだった。
翌日から、婚約式に向けて大忙しになる。オーランド様は多忙な人らしく、昨日は運良く時間が空いたので後宮に来れたのだとローザさんが教えてくれた。
「……ローザさん、あたしは何をすればいいかな?」
「そうですね、まずは。ドレスの注文に採寸に、招待客の選定。やることはいっぱいありますよ」
「うわー、目が回りそうだよ」
「ええ、私やアレクシアさん達も精一杯お手伝いしますから。頑張りましょう!」
「わかった、必要なことだしね」
ローザさんは「その意気ですよ」と笑いながら言った。あたしも頷いたのだった。




