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第25話 帰還

 戦いの後、拠点の町に戻ると――損耗の確認などもそこそこに、昼間っから勝利の宴が催された。原作でもこういう宴の描写は結構あったけど、この世界の習わしみたいなもんだ。


 読者としての俺はそういうもんだと思ってすんなり受け入れてきたけど、自分がいざ戦場に来てみて、よくそんなにすぐ切り替えられるなと思った。味方側にもそれなりの数の死者が出てしまったみたいなのに、みんなハイテンションで歌いながら酒を飲んでいた。


 俺はただでさえ騒がしいのは好きじゃないし、心底疲れ切っていたから、魔力が尽きたということにして宿で休ませてもらった。クラスメイト三人も町に戻るまでは元気だったが、やっぱり相当消耗していたらしく、宿に着いたらみんなして泥のように眠っていた。



 一夜明けてすぐ、ソムニア城に向けて出発。行きと違って休憩を挟みながら、十数時間かけて戻っていった。

 ……で、城に着いたらまた祝勝会があるとかいうから、面倒なことにならないうちに現実世界に戻っておくことにした。


 ソデコが燃やした例の小屋がある辺りで、それとなく一団から離れる。ミコには俺たちが異世界人であることも話していないので、別れの言葉は伝えなかった。ラピスにだけ『一旦元の世界に戻る』と話すと、わざわざ見送ってくれることになった。


「おい、ポルタ。本当に、近いうちにまた来るんだな? 絶対だな? 嘘じゃないな?」

「うん、だから嘘じゃないって……。次はたぶん、一週間後ぐらいかな」

 どんなに遅くても現実世界での一日後には様子を見に来るつもりだから、嘘は言ってない。ラピスは名残惜しそうにこう続けた。

「一週間か……。まあ、さすがに魔王軍もあれだけ手ひどくやられた以上は、しばらくおとなしくしているとは思うが……」

「次の襲撃までには時間があると思う。それまでにこっちも態勢を整えておいてくれ」

 ソデコもそう言ってるし、心配ないはずだ。

「なんにせよ、魔王を倒す日までは、俺たちがこの世界から離れることはないよ」


「魔王を倒す日まで、か……」と、ラピスが意味深に呟いた。

「そ、そうだけど、なんだ?」

「貴様、ミコのことはどうするつもりだ? 適当にあしらうつもりじゃないだろうな?」

「えっ……えーっと……」魔王を倒した後はこの世界に来る必要はなくなるし……。結婚しても、ミコに寂しい思いをさせることになるだけだと思うんだけど。

「あいつは本気だぞ。どう口説いたかは知らんが、蔑ろにするような真似をしたら私が許さん。命を賭して、貴様を斬る」

「そ、そんなこと言われても……っ」


「あー、ポルタ様、悪い奴ー」

「きっちく~!」「チート豚野郎」

「うるさいっ! お前ら、他人事だと思って……!」


「貴様はミコを愛していないのか? 妻にする気はないんだな?」

「いや、その……。そもそも俺、異世界人だし……」

「異世界人だから、なんだ?」

「だから、ミコは俺たちの世界に来ることもできないしさ。離ればなれになるぐらいなら、最初から結婚しない方が――」

「別に異世界人だろうと、この世界にいる間だけの夫婦になればいいだろう?」

「えっ……。そんな発想はなかったけど……」

「うんうん、だよねー」「そうだね~」

「通い妻ならぬ、通い夫だな」


「貴様の元の暮らしぶりは知らんが、この世界に住み続けるのも悪くないと思うぞ。貴様には、今回の功績で領地が与えられてもおかしくない。つまり、貴族の一員となり、悠々自適に暮らせる身分になれるということだ」

「あー……」

考えもしなかったけど、言われてみればそうか。

「……でも俺、貴族なんて柄じゃないしな。領地とかは、マジでいらないから」

「功労者に何も与えないとなると、他の騎士たちの士気が下がりかねない。何より、貴様が辞退を続けると王室のメンツを潰すことになるぞ? というか、実際にそうなると思うが、もし女王が貴様との面会を望んだ場合、私はどう対処すればいい?」

「じょ、女王様が……?」

「領地を与えるとなれば、当然式典が行われる。式典を引き延ばす交渉はできると思うが……女王や大臣にも貴様らの秘密は隠しておけというのか?」

「いや、その……。できれば、ギリギリまで秘密にしておいてほしいんだけど……」


「いいじゃん、ポルタ様! 貴族になっちゃえば!」

「ハァハァ、鬼畜貴族~!」

「お前らは黙ってろ! 俺は本気で焦ってるんだ……!」

「おい、拙者はどうなる? 拙者たちも貴族になれるのか?」

「君たちはキーエス家のメイドということになっているから、まずキーエス家に褒賞が贈られるだろうが……それでもこの活躍を続けていれば、いずれ領地は与えられるはずだ」

「よし! 拙者、俄然やる気が湧いてきた! 魔王を倒して、貴族になる!」

「なんか趣旨変わってないか……。俺はやだよ……目立ちたくないし……」


「ポルタ様~! 貴族になったらわたしを奴隷にして~!」

「何言ってんだお前! 大声でバカなこと言うなっ!」

 ラピスの前だっていうのに、また誤解されるようなことを……。

 恐る恐る様子を窺うと、彼女は平然と意外なことを言ってきた。


「奴隷ではなく、正式に側室にしてやればいいじゃないか」

「…………はい?」

「ああ、やっぱり知らなかったのか。この国では、貴族の当主には側室や妾がいるのは普通のことだ。私もまあ……妾腹の子だしな」

「は、はあ……。でもそんなの、ミコが怒るんじゃ……?」

「お前が平等に愛することができれば何も問題ない。この国では、そういうものだ」

「そういうもの……って言われても……」


 面食らって上手く言葉にできずにいると、リラとソデコがラピスをからかい始めた。

「ラピスはなんで、そんなことをわざわざ教えてあげてるのー?」

「え……。それはまあ、ポルタが知らないようだったから……。ミコと結婚したとしても、他に妻を持てる可能性があるという、話をだな……」

「つまりお主も、ポルタの妻になりたいという意味だな?」

「ちがっ、ちっ、違う……っ! 異世界人のお前らに、この国のしきたりを説明してやってるだけだ! 妙な勘違いを、するな……っ!!」

「もっと素直になりなよ!」

「そうだぞ、ミコに負けるな」

「わ~! ラピスちゃんも側室候補~!?」

「ち……ちが、ちが……」


「お前らもういい加減にしろ! ラピスを困らせるな!」

 強引に話を打ち切って、俺は光のゲートを出す。ラピスは顔を真っ赤にしていたが、ゲートを目にすると驚きの表情に変わった。

「これが……異世界への扉……」

「そうだよ。この世界の人に見せるのは初めてだけどな」

 本の中に入るようになってから何年も、秘密にするのが当たり前だったから。変な気分になるけど、サイレンは鳴り出さない。いつもの趣味の時間とは、何もかもが違う。


「じゃあラピス、またな。みんなによろしく」

「あ、ああ……」

「そうだ~ラピスちゃん! フォルトゥナさんに、『服燃やしちゃってごめんなさい』って、伝えておいて~!」

「……どうせ一週間後に来るんだろう? フォルトゥナはそんなことは気にしないだろうが、自分の口で直接伝えろ」

「うん、わかった~!」

「おい、ノドカ。もう行くぞ。リラとソデコも」

「は~い!」「はい!」「はいはい……」

 名残惜しそうな三人を引っ張って、俺たちはゆっくりゲートを潜り抜けた。

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