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第17話 国境付近の町へ

 翌朝――というか、ミコと別れて数時間後、俺たちは日の出の前に起き出した。

 俺は結局少しウトウトしただけで、ほとんど寝れてない。


 軽く朝食を摂って、リラとメイド二人は用意してもらった兵装に着替えていた。

 ノドカはいかにもザ・白魔法使いって感じのフード付きのローブに。

 ソデコは長い髪をポニテにして、モンクというか拳法家みたいな服に。


 そしてリラは――意外にも、派手な赤色の軽装鎧を装備していた。

 おまけに、アルドルやミコが使ってるような大振りの剣まで携えている。

「リラ、その剣は? 護身用にしちゃ大きすぎないか?」

「あ、あのね……。めちゃくちゃ言いにくいんだけど、実はあたし――」

「剣が使えるそうだぞ」と、横からソデコ。

「えっ!? なんで……!?」

「ご、ごめん……ずっと言いそびれててさ。あたし、【騎士の学校に通ってた】って設定にしてたおかげで、それなりに武術の心得がある……ことに、なってたみたいで」

「お、おう……?」

 なかなか衝撃の告白だ。確かに、昔ラピスと同じ貴族の学校に通ってたことになってたから、そこで訓練を積んだっていう前提で、能力が反映されていてもおかしくはないが……。


「魔法はあんまり得意じゃないみたいだけど……剣は、結構使えると思う」

 はにかみながら大剣を抜いた彼女は、それを容易く振り回してみせた。風圧で、離れて見ていた俺の前髪が動くほど力強い。それでいて熟練戦士のような美しさを備えた、見事な剣舞だった。


「す、すげぇ……。たぶん、ラピスと遜色ないぞ……?」

「さすがにラピスほどじゃないと思うけど……。今まで黙ってて、ホントにごめん!」

「いや、まあ……今さら、もういいや。リラがそこそこ強いなら、むしろ安心だしな」

 細身のリラが、鎧や剣を一切重そうにしてないのも設定帖の力。この様子だと、普通に戦力になってくれそうだ。

「なるべく、自分の身は自分で守るよ。ソデコやノドカみたいに何かの達人ってわけじゃないけど、お荷物にはなりたくないから」


「ところでポルタ様の装備は~、その鉄の杖だけでよかったの~?」

「まあ俺、基本的に後衛だしな……」

 杖をもらったのはオートパリィのためだ。便利なスキルだけど、素手だと使えないって弱点がある。ミコたちの前でレジサイドロザリーを振り回すわけにもいかないから、とりあえず耐久性のある武器ならなんでもよかった。


「でもさ、結構いい防具あったよ?」

「そんなローブで大丈夫か?」

「えっと、実は……この服、ただのローブに見えるけど、伝説の防具並みの性能なんだ」

「えっ……」「そ、そうだったんだ~……」

「うん……なんか、悪いな」

 ソデコはすぐさま「チート野郎」と罵ってきたが、例によって黙殺した。

 ちょうどラピスの軍勢がやってくるのが目に入ったからだ。



 ラピスと手短に挨拶を交わし、すぐさま出発。

 先導は騎士団に任せて、俺たちは最後尾からついていく。

 騎士は皆、馬に乗っていたが、俺たち四人は例の馬車での移動だ。


 出発からしばらく、三人はハイテンションで雑談を続けているようだったが、そのうちに無言になった。

 国境近くの目的地まで、馬車でひたすら走ること8時間以上。さすがに喋ることもなくなったのだろう。たぶん三人とも途中で寝てたと思う。



「着いたぞー。みんな降りろー」


「ふえ~……」「つ、つかれた……」

「ぬ、ぐぅ……尻が、痛い……」


「でもこの魔法馬車、普通のよりだいぶ衝撃とか吸収してくれるやつだからな。普通の馬車だったらもっとキツかったぞ」

「お馬さんも疲れたよね~。ありがと~、お疲れ様~」

「この馬は俺から魔力を吸って走ってるから、疲れてないけどな……」

 俺は結構疲れた。魔力は自動回復しているとはいえ、寝不足なのに座りっぱなし揺られっぱなしで8時間は相当堪える。


 到着したのは国境に接する地方都市で、長閑な田舎町だ。かつては交易で栄えた土地なので、街道沿いに寂れた宿が多く並んでいる。

 寂れてしまった理由は魔族の侵攻だ。この国境の先にある隣国はすでに魔族の支配下にあり、交流は断たれている。この土地を通る人もすっかり減ってしまっているのだろう。


 他の地域の国境沿いの町と同様、特に関所や防壁などがあるわけではない。防衛の拠点にするには心許ないが、近くにはここ以外に駐屯できそうな土地がないそうだ。


「おい、ポルタ。少しいいか」

 つかつかとラピスがやってきた。疲れはまるで見えない。やっぱり日頃から訓練してる軍人は違うな……。


「これからこの地の領主に挨拶に行く。貴様も付き合え」

「あ、ああ。こっちの事情はもう伝えてるんだよな?」

「魔法で伝令を飛ばしてもらってはいるが、改めて直接話しておく。国の存亡を左右する重要な任務だからな」

「そうだな……。じゃあみんなは休んでてくれていいよ」

 三人は声を揃えて「はーい」と答えた。よっぽど疲れているらしい。



 領主はおしゃべりで気のいい中年男性だった。血気盛んなところがあるのか、魔族襲来の恐れがあると聞いても、怯えるよりむしろ興奮しているようだった。

 でも、腹も出てるし全く強そうな風貌ではない。祭りの時だけやけに張り切る町内会長みたいな感じか。


 原作では具体的な描写のない人物なので、こんな人だったんだなと俺は思った。

 実は――領主を含むこの地の人々は、原作ではミセリア軍の襲撃で全滅することになっている。ミコや騎士団の軍勢が到着するまでの半日を持ちこたえるどころか、数時間ともたず蹂躙し尽くされるのだ。


 そう思うと、目の前で意気揚々と話す領主に対して、複雑な心情が湧いてきた。

 助けることで、過剰に運命を捻じ曲げてしまわないだろうか。

 とはいえ見殺しにしたくもないから、助けるしかないわけだが。


 領主は宿や兵糧の提供だけでなく、気前よくお抱えの兵約百人を全員駆り出してくれるという。騎士団の正規兵と比べると実力は見劣りするだろうが、今はありがたい。



 宿に戻った時にはすっかり日が暮れていた。

 正直、長時間の移動より、この世界の偉い人と会話する方がよっぽど精神的に疲れる。


 兵士全員が宿に泊まれているわけでもないのに、俺たちは個室を与えられるというVIP待遇だった。まあ、勇者の連れだからなんだろうけど。


 ただ、一人になってもやっぱり落ち着かない。めちゃくちゃ疲れてたはずなのに、ベッドに入った途端に眠気が飛んだ。敵の襲撃がいつなのかもわからない以上、しっかり休んでおいた方がいいのはわかっているのだが……。


 魔王軍がさっさと襲撃してきてくれないと、いつまでもこの拠点から身動きが取れない。というか、ここまで大勢の人たちに準備をさせておいて何もなければ、俺の面目丸つぶれということになるので、それも非常に困る。


 目を閉じて、開けてまた閉じてを繰り返すうちに、窓の外が白んできた。今夜も結局ろくに眠れなかった。

 そんな折、いきなりドアがノックされる。

「私だ」ラピスの声だった。


 ドアを開くと、彼女はいつでも出撃できそうな出で立ちだった。

「すまんなポルタ、起こしてしまって」

「いや、もう起きてたから……」

「そうか……。貴様に少し、話しておきたいことがあるんだ」

 わざわざなんの話かと思ったが、すまし顔をそっぽに向けたまま、ラピスは言った。


「その……なんだ。出撃の際には、ミコの傍にいてやってくれないか?」

「えっ……ミコの?」

「まあ、あんな奴でも、勇者は勇者だ。何かあっては、事だからな」

 歯切れ悪く話しながら、彼女は俺に背を向けた。照れ臭がっているのが見え見えで、思わず俺は少し笑ってしまった。


「……君も、ミコのことが心配なんだな」

「ち、違う! そうではない! 私はただ、国益を考えてだな――」

「あんまり大きい声出すなよ。まだ早いんだから」

「むっ……」

 ラピスは嘘を見抜くのは得意なくせに、嘘をつくのは下手なのかもしれない。

 正直で真っ直ぐな性格だもんな。ミコとも本当は仲直りしたいんだろう。

 そもそも幼馴染みたいなもんなんだから、当たり前か。


「貴様は……最近やっとわかったが、信頼できる男だ。師匠が貴様を友に選んだ理由も、今なら理解できた気がする」

「そ、そうか? 君には嫌われてるのかなって思ってたけど……」

「と、とにかく! ミコを頼んだぞ。絶対にあいつを死なせるな」

「わかってるよ。君こそ、絶対に無茶はす――」

 俺がそこまで言ったところで――

 まるで誰かがこの会話を聞いてたんじゃないかってタイミングで、異変は起こった。


 カンカンカンカンという、頭の奥まで響く鐘の音。

 ラピスはバッと顔を上げて叫んだ。

「敵襲だ……!! 総員、出撃準備をせよ……ッ!!」

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