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第15話 騎士団の会議

 あの後、ラピスが騎士団長に事の顛末を報告し、夜には緊急会議が開かれることになった。

 俺は辞退したのだが、ラピスに押し切られる形で同席させられることになって――


「騎士団長には、お前たちが異世界人であることは話しておいたぞ」

「ああ、うん……。他の人たちには、黙っててくれてるんだろ?」

「今のところはな。私としては、さっさと全員に話してもらった方が楽なんだが」

「いや、できたらなるべく秘密にしておきたい。過剰に頼られても困るし……全員に信じてもらえるとも限らないしな」

 ラピスと並んで騎士団の建物の廊下を歩いていく。リラとメイド二人は修道院で留守番だ。


 会議室はアルドルの執務室のすぐ近くにある。時刻はちょうど日暮れ前で、窓の外は見慣れた夕焼け色に染まっている。


「騎士団長はすんなり信じてくれたぞ。師匠がやたらとお前のことを褒めちぎっていたから、何者なのかと気になっていたんだろう」

「んー……まあ、それはよかった。というか、ラピスは疑わなかったのか?」

「信じるしかなかった、というところか。魔術師だと思っていた貴様に、あんな剣技を見せられてはな。おまけに、無詠唱魔法まで使えるとなると――」

「あっ……。アレ、気付かれてたのか……」

「当たり前だ。私はそこまで鈍感ではない」

 ワイバーン戦前に、さりげなく彼女を回復したのが無詠唱だった。切羽詰まった状況だったし、忘れているかと思っていたけど……。

「あの……まあ、魔法に関しては、割と得意なんで……」

「何が割とだ。無詠唱魔法の使い手など、この国では賢者様と他数名だけだろう。異世界人だと告白されて、いっそ腑に落ちたぐらいだ」

「う、うん……」


「貴様らが全力を出して戦ってくれるなら、我が軍にも勝機はある。活躍を期待しているぞ」

「いやいや、だから言っただろ……。魔王軍を倒すのは、この世界に住む君たちじゃないといけないんだ。俺たちに許されてるのは、あくまでサポート役なんだよ」

 もっと言うなら、【魔王を倒すのは勇者ミコ】って縛りもあるんだけど、対抗意識の強いラピスの前で話すのは控えた。こっちの事情をそのまま全部説明するわけにもいかない。


「まあ、私の個人的な感情としても……異世界人に頼り切りというのは、不甲斐ないと思うが」

「もちろん、できる限りのことはやるよ。でも、運命を捻じ曲げすぎることは……ソムニアの女神に認められていないんだ」

 ――ということにした。女神は嘘だけど、やり過ぎるとまずいというのは嘘じゃない。


 修道女であるマルムやピルムは当然として、この世界の人たちはみんな信心深い。神様の名前を出しておけば、特に深くつっこまれないようだ。そもそも異世界人っていうのを信じた時点で、俺たちのことを神の使いか何かだと思ったみたいだけど――

「むぅ……。女神の意志であれば、仕方ないな」

 ラピスも意外とすんなり納得してくれた。ほっとすると同時に、若干胸が痛む。


「おお、来たか」

 廊下の先で、黒髪総髪の大男が手を振っていた。騎士団長のヴィクトルだ。顎髭の似合うダンディな三十代騎士で女性ファンの人気も高い。

 若い頃からアルドルを慕っている後輩で、アルドルがいない間ずっと騎士団を守り続けてきた義理堅い男。彼への仁義を通すために、騎士団に戻ったアルドルは団長になるのを拒んで補佐の地位に就いたのだった。


「久しぶりだな、ポルタ殿」

「ヴィクトル殿も元気そうで何よりだ。ところで、俺なんかが会議に出席していいのか?」

「ラピスの報告が本当なら、是非頼みたい。それにしても驚いたぞ、君が異世界人だとは」

「えっと……それはまあ、ご内密に……」


「さあ、重要な会議になるぞ!」

 と、ラピスが掌を打ち鳴らして言う。

「襲撃に備えて、少しでも多くの兵を出せるようにせねば……。これ以上魔王軍の好きにさせるわけにはいかん。ポルタよ、皆を上手く言いくるめてくれ!」

「う、うん……。まあ、やるだけ、やってみるけど……」

 彼女は意気込んでいたが、俺はひたすら憂鬱だった。



 ほどなくして、各小隊の隊長たち――つまりは結構な地位の貴族たちが集まってきて、会議が始まった。

 西の森でのワイバーンの発見報告、近い将来の魔王軍襲撃の予兆について、ヴィクトルから粛々と話された。それから俺も、部外者なりにアドバイスを送ったのだが――


「くそっ……あの腑抜けどもめ!」


 会議は案の定、まとまらなかった。

 他の隊長たちが帰った後、ラピスは廊下の壁を蹴飛ばしながら吠えまくっていた。

「国の一大事だというのに……各々の利益しか考えられんのか! 嘆かわしい!」

「お、落ち着けよラピス……」

「うるさい! これが落ち着いていられるか……!」


 各隊長たちは、ラピスが予想した通りの主張を並べた。

 今は兵の消耗が激しすぎる。怪我人が多すぎて動かせない。

 ワイバーンが魔王軍襲撃の予兆という証拠にはならない。

 そもそも、もうワイバーンは倒したのだろう? 当面の危機は去った。様子を見よう。

 ――といったことを全員が口々に言って、わずか三十分弱で解散となってしまった。


「やはり貴様が異世界人であること、未来予知できることを明かすべきだったのだ! そうすれば皆、腹を括っていただろうに……!」

「いや……それはそれで、『こいつが異世界人だという証拠はない』、『未来を知っている証拠がない』とか言われて、面倒なことになってただろうし……」

 というか、襲撃があるって予想する根拠は、ワイバーンの首輪の紋章と、ソデコの感覚だけだからな。あまり追及されるとこっちが困る。


「そうだぞ、ラピス。ポルタ殿に当たるな。大方予想はできていたことだ」

「……ええいクソッ!」

 強く地面を踏み鳴らしたラピスは、そのままの勢いでヴィクトルの方へ向き直った。


「騎士団長! 私は明朝、国境に向かう! 出撃の許可を!」

「わかっている。オレの部隊も半分は同行させよう。ギルドからも傭兵を派遣してもらえ」

「了解。まともな戦力は期待できそうにないが、ありったけの兵を連れていく。こちらの手勢は……全部で二百人強というところか」


 ソデコの予想通り、四天王が二人まとめて襲撃してくるなら、千人は超える魔族の狂戦士に、それ以上の数の魔物や死霊の群れがくっついてくることになりそうだけど――

「まあ、それでなんとか持ちこたえるしかないな……」


 俺がそこまで本気で焦っていないのには、理由がある。

 ラピスたち騎士団のプライドを傷つけるだけなので絶対に言わないけど、大勢の兵を出してもらえるかどうかは、実はそこまで重要じゃない。


 身も蓋もない言い方になるけど――

 いざとなれば、雑魚を駆逐するだけなら俺とメイド二人だけでもなんとかなりそうだからだ。

 目立ちすぎるからできればやりたくないが、俺たちが全力で魔法を撃ち続けるだけでも今回の敵軍は壊滅させられるだろう。


 じゃあ何が問題かっていうと――

 四天王の相手を、俺たちがしても大丈夫なのかということだ。


 原作では当然ながら、四天王との戦いは主人公の成長を促す大事なイベントだ。この世界でも可能なら、ミコに全員倒してもらった方がいい。俺たちが下手にしゃしゃり出て、仮に四天王を倒してしまったりすれば、ミコはこのまま永遠に覚醒の機会を失うかもしれない。


「でも今のアイツは四天王には勝てないだろうし、倒させようと思ったら、その前に覚醒させるしかないんだけど……。はあ、堂々巡りだな……」

「ポルタ、何をブツブツ言っている?」

「なんでもない、こっちの話だ」

「明日は早いぞ。夜明け前に修道院まで迎えに行くから、しっかりと準備しておいてくれ」

「うん……わかってるよ」



「ポルタ様、おかえりなさいませ」

「おかえりなさーい!」

「ああ、ただいま」

 一人夜道を歩いて修道院に戻ると、マルムとピルムが出迎えてくれた。


 彼女たちに連れられて食堂へ向かう。ちょうどクラスメイト三人は夕食を摂っているところだった。フォルトゥナさんの姿は見当たらなかったが、たぶん入院患者の世話でもしているのだろう。


「あ~、ポルタ様~! お疲れ様です~!」

 ノドカは、マルムたちと同じ型の修道着に着替えていた。そういえば、服を破られたんだったな。会議のことで緊張しすぎてたせいで頭から飛んでいた。


「おかえり、ポルタ様。それで……会議はどうなったの?」

「疲れたよ。大勢の前で話すなんて、やっぱ俺には向いてないな……」

「拙者たちは、そんなわかりきったことは聞いていない。騎士団の協力は得られそうなのか?」

「連れていけるのはラピスとヴィクトルの部隊だけで……合わせて二百人ぐらいかな」

「たった二百か?」「ちょっと少なすぎない~……?」


「まあ……しょうがないさ。こうなったら、俺たちがなんとかするしかない」

 ヴィクトルは『異常があればすぐに伝令を送れ。本当に襲撃があれば、オレが必ず他の部隊を動かす』なんて言っていたけど――戦場はここからかなり距離がある。実質、現地にいる俺たちだけで対応することになるだろう。


「ん……」

 キイと音が鳴って、ドアが開いた。様子を窺いながら中に入ってきたのは、ミコだった。

 彼女は俺たちの視線に気付くと、遅れて「た、ただいま……」と頭を下げた。


「ミコ、どこへ行ってたんですか……」

「おねーさまもピルムも、しんぱいしてました!」

「ごめんね……。ちょっと……うん……出かけてて……」

 はっきりと答えずに目を泳がせるミコ。俺は直感的に、たぶんアルドルとの思い出の場所でも巡って来たんだろうなと思った。


「なあミコ、聞いてくれ」

 俺が声をかけると、彼女の小さな肩が跳ねた。

「明日の夜明け前、俺たちはラピスの部隊と一緒にここを発つ。国境付近で、魔王軍の動きを探知したそうだ」

「そ……そうなの?」

「戦闘になるかどうかはまだわからないが、君にも一緒に来てほしい。急で悪いけど、準備しておいてくれないか?」

「…………」

 すぐに返事をしてくれなくて不安になったが、消え入りそうな声で「わかったよ」とだけ返ってきた。

 ミコはそのまま食堂を出ていった。自分の寝室に向かったのだろう。


「出撃の準備か~……。戦うならわたし、着替えがほしいかな~……」

 修道服の生地を引っ張りながら、ノドカが漏らす。少しきつそうなのもあるけど、確かに戦闘向きの服装じゃないな。

「拙者も、できれば着替えたい。戦場のメイドというのも絵的に悪くはないが……」

「あ、あたしも……ドレスで戦場に出るのは、さすがにね……」


「確かに目立ちすぎるし、防御力も皆無だもんな。ラピスに言えば鎧は借りられそうだけど、あんなの着て動き回れないよなぁ」

 俺がそう呟くと、マルムが小さく手を挙げた。

「ここにも装備の備蓄はあります。術士向けの兵装なら、騎士団より充実しているはずです」

「借りてもいいのか?」

「はい。院長先生も、『どうかお役立てください』と……」

「ほう、そうか。それは楽しみだ」「楽しみ~!」

「……お前ら、遊びに行くんじゃないんだぞ」

 俺が思わずツッコむと、リラは「あはは……」と苦笑いしていた。

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