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第14話 場違いなモンスター

「ワイバーンが……四匹も……」

 ラピスは速やかに剣を抜いた。当然彼女も恐怖を感じているだろうが、騎士としての義務感の方が勝ったようだ。


「なあラピス、コイツらはこないだの襲撃の生き残りか?」

「そんなはずはない……。戦闘後に周辺の安全確認は慎重に行った。こんな化け物、どこにも見当たらなかったぞ……?」

「じゃあ、なんで……」

 と、俺が言いかけたところで、ノドカが声を張り上げた。


「最初からいたんじゃないんだよ~! この子たち、さっきいきなり出てきたの~!」

「いきなり出てきた……?」

 さらに、慌てふためくリラが早口でこう続ける。

「そ、そこに! パッと魔法陣が出て、ピカッと光って! そしたら、ドラゴンが……!」

(それは……転送魔法だな。きっと、魔王軍が送り込んできたんだ)


 よく見ると、どのワイバーンにも制御用の首輪が着けられている。おそらくは必要な時に暴れさせるため、ここで静かに待機させておくつもりだったのだろう。だが、転移先に偶然俺たちが居合わせたことで、混乱したワイバーンが暴れだしてしまったようだ。

 そして、転送魔法のような高等術を使えるのは、四天王クラス――いや、まず四天王の誰かと見て間違いない。近いうちに二度目の襲撃を考えていて、下準備としてワイバーンを先に送ってきたんだ。


 やけに魔物が少なかったのも、おそらく転送用の魔法陣の影響だろう。人間には何も感じないけど、魔物たちは警戒して離れたってところか。にしても、俺の探知スキルにも引っかからない魔法陣とは、厄介な隠匿能力を持ってる奴がいるもんだ。


 何にせよ、今はこの状況をなんとかしないと……。

 こんな化け物を放置するわけにはいかない。


「ソデコ! ノドカ! マルムとピルムを全力で守れ! あとリラも!」

「心得た!」「みんなにはもう、保護魔法はかけてます~!」

「じゃあちょっと下がってろ! 俺とラピスで片付ける……!」

 なんて簡単に言ったけど、心臓が口から飛び出しそうだった。


 俺は今まで魔物相手に、魔法を使ったことがない。ストーリー展開に関係のなさそうな魔物でさえ、殺したらサイレンが鳴り出すんじゃないかって警戒していたからだ。

 俺の魔法の威力なら十分通じるはずだが……それでも、めちゃくちゃ緊張した。


(四匹とも、今は様子見してる。今のうちに先制攻撃だ。まずは翼を傷つけて、遠くに行けないようにしないと……)


 四匹同時に狙える魔法で……ワイバーンの弱点は風属性だっけ?

 だったらエアスラッシュでいいか……?

 詠唱は……やった方がいいよな。

 フリだけでも、一応――


「えっとー……ゴニョゴニョ……《削旋風(エアスラッシュ)》!」

「グルッ……!?」

 一筋の突風。同時に無数の真空波が発生し、四体のワイバーンに襲いかかる。

「ギッ……ギシャアァァァァァッ……!!」

 森の木々ごと切り刻んで、翼だけでなく全身に大量の切り傷を付けた。思ったほどの深手は負わせられなかったが、ひとまず行動の自由は奪えたようだ。


「今だラピス! 相手が怯んだ!」

「任せろっ!!」

 ラピスもまた風のように動き、空中を滑らせるように刃を舞わせた。それぞれの竜の首元、俺の魔法で付けた傷を狙って、すれ違いざまに剣を入れていく。


 ドサリ、ドサリと、四つの首が落ちる。断末魔の叫びを上げることさえできず、全てのワイバーンが絶命した。

 それにしても、さすがはアルドルの弟子。鮮やかな腕前だ。

 俺も彼女に一発当てられてたら、こんな風になってたわけだな……。


「ふぅ……なんとかなったか」

「危ないっ!」

「えっ……?」

 首を回すと、こちらに突っ込んでくるワイバーン。もう一匹潜んでたのか……?

 猛然と突進してきて、俺ではなく――真っ直ぐにノドカたちの方へ突っ込んでいく。


「グギヤアアアアアアアッ……!?」

 ワイバーンの悲痛な咆哮が響く。突然出現した黒い炎に身を焼かれて。


「これは……闇の魔素……?」

 ラピスが困惑気味に呟いた。どう見ても、魔族専用闇魔法のヘルファイアだ。

 ということは、この魔法を使ったのは――

「フッ……油断するなよ、ポルタ=リヴェラリス。これは貸しだからな」

「……おー」

 つーか、ラピスやマルムたちの見てる前で闇魔法を使うなよ……。それに、初めて魔物を殺したはずなのに、何のショックも受けてなさそうだ。やっぱりソデコを自由に戦わせるのは、ちょっと危険な気がする。


 とはいえ、彼女に助けられたのは事実だ。一撃でワイバーンを焼き殺すヘルファイア……。もしかしたら、単発の火力だけなら俺の魔法より強いかもしれない。


「ひとまず……危機は去ったか。みんな、ケガはないか?」

 怯えきったマルムやピルムは声にならない様子だったが、コクコクと頷いた。


「それにしても、ワイバーンを五匹も転送してくるって……大盤振る舞いもいいとこだな」

 そして、俺が小声でそう呟くと、ソデコが耳打ちしてきた。

「だから言っただろう。その首輪の紋章を見ろ。トニトルスの物だぞ」

「ええっ……?」


 俺は見てもわからなかったが、魔王軍マニアが言うならそうなんだろう。設定資料集の片隅にそんな記事があった気はする。つまり、ラピスや他の騎士たちに紋章を見せたところで、このワイバーンがトニトルスの下僕だと信じてはくれないだろうが――


「……トニトルスはやっぱり、近いうちに攻めてくる気なのか?」

「拙者はそう確信している。おそらくはミセリアも便乗して挙兵するだろうがな。来るとしたら原作通り、南東の国境からだ」

「……そうか」


 こうして俺たちがヒソヒソと話し合う隣で、ラピスは独り言のように声を漏らした。緊張が解けないようで、まだ剣を鞘にも収めていなかった。

「何故だ……? 何故こんな魔物がこの森に……。何者かが召喚したのか……?」

「…………」

 彼女は今ひとつ状況を掴めていないようだが、無理もない。原作でも、ソムニア騎士団の人々はそうだった。魔王軍にもそれなりに損耗があったので、立て続けに侵攻してくるとは考えていなかったのだ。


 だが、原作では将官を一人失ってなお、四天王ミセリアが挙兵する。

 原作より犠牲が出ていないこの世界では、なおさら魔王軍は兵を出しやすい状況にある。


「ラピス。魔王軍は近いうちに、再び侵攻してくるつもりだ。下手すると、今日明日にでも攻め込んできてもおかしくないぞ」

「ど、どうしてそこまで言い切れる? 貴様、何か知っているのか……?」


 どう答えるべきか、一瞬迷った。だが俺は、こう言った。

「……まあな」

 以前はタブーがあったので絶対に教えられなかったが、今は違う。彼女たちに本来知り得なかった情報を与えたとしても、それだけではオルタナ世界は崩壊しない。物語をあるべき結末に導くことさえできればいいらしいからな。


「ポルタ様! それ、喋っていいの……!?」

 リラは慌てふためいてそう言ったが、やむを得ない。

「ああ、彼女には話すよ。状況が変わった。もう時間がなさそうだからな」


 近いうちに魔王軍が襲撃してくるのはほぼ確定。とにかく急いで対策しないといけない。現状、俺たちだけで迎撃するのは不可能だ。となると、協力者がいる。


 それに、俺たちの実力を隠し続けるのも無理がある。今回のワイバーンはあっさり退治できたが、もっと数が多ければ、もっと強い魔物なら、確実に被害が出ていただろう。

 俺たちが本気で戦っても問題のない状況を作っていかなければ、この先絶対厳しくなってくる。そのためにも、俺たちの正体を知っている――信頼できる仲間は必要だ。


「ラピス……それに、マルムとピルムも、驚かないで聞いてほしい。俺たちは、これからこの国に起こることを……ある程度まで、知っているんだ」

「は……? なんだと?」

「もうすぐトニトルスの軍勢が、南東から攻めてくる。おそらくは、ミセリアの軍もだ」

「な、何故そんなことがわかる? 貴様ら、魔族と繋がっていたのか……?」

「いいや、違うよ」

 三人の同級生たちは、みんな緊張した面持ちだった。でもたぶん、俺の方がもっと緊張していたと思う。


「実は俺たち、この世界の住人じゃないんだ。ソムニア王国を、平和な未来に導くためにやってきた……異世界の人間なんだ」

「なっ、いっ……異世界……?」


 半分は本当のことで、半分は嘘。嘘を見抜くスキルを持つラピスは――俺が本当のことを言っていると認識したようだ。

「し、師匠は……アルドル師匠は、そのことを、知っていたのか……?」

「ずっと黙ってたけど……最後にはバレたよ。彼が死ぬ前の日にな」

「そ……そんな……っ」


「おねーさま……ポルタさまは、なにをいっているのでしょう……?」

「ポルタ様…………」

 俺は言葉を失ったラピスから、マルムとピルムへ視線を移す。

「二人とも、黙ってて悪かった。でも……他の人にはまだ内緒にしててほしい。もちろんミコにも。そうだな……フォルトゥナさんだけには、話してくれてもいいけど」

「お、おねーさま……?」

「かしこまりました。神の御心のままに」

 それまで恐怖に揺れていたマルムの目に、強い意志が戻ってきたようだった。これならきっと、黙っていてくれるだろう。


「ポルタ……。本当に、魔王軍は今日明日にでも攻め込んでくるんだな?」

 ラピスが顔を上げた。頭の中はゴチャゴチャだろうが、俺の発言を信じるならやるべきことは決まっている。兵を揃えて迎撃しなければ、国民が虐殺されるだけだ。

「いつかはわからないけど、近いうちに来る。それは間違いないと思う」

「まずいな……。今はどの部隊も負傷者だらけだ。敵が動くかどうか不確定なのに、兵を出したがる将官はいないぞ。迎え撃つにしても、おそらく人数が揃わない………」

「そ、そうなのか……?」

 確かに原作でも、予想外の二度目の襲撃に混乱しきってたもんな。

 ミコがいたおかげでなんとかなったけど、勇者が戦えないとなると――

 あっさり押し切られて、そのまま王国滅亡まであり得るぞ。


「……騎士団長に会ってくれ」

「えっ……」

「何が『えっ』だ。今から緊急会議を開く。ポルタも出席してほしい」

「いや、でも……。俺、部外者だし、ただの魔法研究者って建前なんで――」

「私の報告だけでは、皆を動かせないんだ……。頼むから、力を貸してくれ!」

「ま、マジかよ……」

 こんな展開、今までの俺には考えられなかった。原作に極力関与しないよう、モブであろうと努力し続けてきた俺が、国防の中心になる騎士団の会議に参加だなんて……。こんなの、本当に大丈夫なのか……?

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