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第12話 西の森へ

 それから俺たちは、ミコを探して町を歩き回ったが――結局見つけられないまま、小一時間が経過してしまった。

 

「あれ? あそこにいるの、マルムとピルムじゃない?」

「本当だな。なんでこんなところに来てるんだ?」

 ちょうど城下町の入口近くに戻ってきた時、冒険者ギルドから二人が出てくるのを見つけた。

 ギルドは冒険者向けの仕事斡旋所のようなもので、普段から様々な人の出入りがある。二人も何か仕事を依頼したのだろうが―― 


「こまりましたね、おねーさま……」

「ええ、そうですね……」


「二人とも、どうしたんだ?」

「あ、ポルタさま!」


 聞くと、治療に使う薬草が足りなくなってきたので、今のうちに集めに行くところだったそうだ。

 いつもならフォルトゥナさんが一緒だから、この辺の雑魚モンスター程度なら脅威にならないけど、今日は彼女が身動きを取れない。二人だけで森に入るのはさすがに危険なので、護衛を雇うつもりだったようだが――


「いまは、だれも手があいてないそうです……」

「ああ……そうか。こんなタイミングだもんな」

「ええ、そうなんです。兵士の皆さんも復旧作業などでお忙しい折ですし、お手を煩わせるのも申し訳ないですね……」

 近場の森に行く程度の護衛なら、すぐに見つかると思っていたんだろうけど……今は修理の依頼なども多く入っているだろうし、どこも人手が足りていないのだろう。


「なんだ、そんなことか」

 と、俺の後ろから出てきたソデコが偉そうに言った。

「タダ飯を食らうわけにはいかん。拙者たちが付き添ってやろう」

「今夜も泊めてもらうんだから、それぐらい手伝わなきゃね~」

「ちょっ――」

 ノドカまで便乗してきたが、お前らはキーエス家のメイドの設定だろ。


「えっ……? ソデコさんやノドカさんは、モンスターと戦えるのですか?」

「拙者たちはリラ様の護衛も兼ねているのだ。この辺の雑魚なら魔法で瞬殺だ」

「ま、魔法が使えるんですね……?」

「使えるだけではない。拙者は――」『闇魔法の達人だ』とでも言い出しそうな空気を察して、俺は強引に割り込んだ。

「二人が使えるのは、簡単な攻撃魔法と補助魔法ぐらいだけどな! この辺りの魔物相手なら、問題なく護衛は務まると思うぞっ!」

「す、すごいですね……」「おふたりとも、すごいです!」

「あはは……そうだな。すごいよな……」

「えへへ~、それほどでも~!」

 姉妹は素直に感動してくれていたし、ノドカはデレデレと鼻の下を伸ばしていた。


 だがソデコは予想通り、不服そうな顔を近づけてきた。

「おい……このポルタが。ふざけるな。拙者のことを過小評価しているのか?」

「お前が強いのはわかってるけど、本当のことをベラベラ喋る奴がいるかよ……。実力は絶対に隠しといた方がいい。強いってバレたら、魔王軍との戦いに駆り出されるぞ?」

「そうだよソデコ。そうなったら、四天王や魔王とソデコが戦うことになっちゃうかもしれないし……」

「ふむ……。それはそれで、面白そうな展開だが」

「全然おもしろくねーよ! とにかく、俺たちは【護身術程度の魔法は使えるけど、最前線に立てるほど強くない】ってことでいく。実力は隠せ。誰の前でもだ。いいな?」

「はい!」「は~い」「はいはい……」


 ヒソヒソ声での会議はこれにて一段落。

 その間、マルムとピルムは不思議そうな顔で見守っていた。


「ポルタ様、どうかなさったんですか……?」

「なんでもないよ。君たちに怪我をさせないよう、気を抜くなって話してただけだ」

「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」

「おねがいしまーす!」


 正直、こんなことしてる場合じゃないんだろうけど……。

 ミコをひたすら追い回したところで、状況が良くなりそうな気がしないしな。

 マルムとピルムが困っているのを放っておくわけにもいかないし、少しぐらいの寄り道はいいだろう。



 そんなこんなで、俺たちは城の西にある森へやってきた。城門を出て、徒歩数分のところにある広い森だ。ただ、深いところまで入り込まなければ危険な魔物が出ることもない。


 近くに魔物がいないことがわかると、ピルムとマルム、リラの三人はすぐに薬草やハーブを摘み始めた。残る俺とメイド二人は護衛役で、周囲を見回して気を配っている。


 俺は設定帖に書いてあった【探知スキル】を、さり気なく常時ONに切り替えていた。魔物だけでなく周辺の小さな気配まで全て察知できる便利な能力だが、またチート呼ばわりされそうなのでソデコたちには説明していない。


 しばらくは周囲に警戒を払っていたが、時間が経っても魔物が寄ってくる気配がない。この森に入るのは初めてではないけど、ここまで何も出ないのは珍しい。


「暇だな……。拙者たちも薬草を集めるか?」

「ポルタ様、いいですかぁ~?」

「かまわないよ。俺、ちょっと向こうの方を見てくる。静かすぎて逆に気になるから」


 こうして一人、森の奥へ向かう。やはり魔物は一匹もおらず、やたらと静まり返っている。

 いくら戦闘があった直後といっても、おかしい。野性の本能で、危険でも察知して逃げ出してるのか? 俺の探知スキルに何も引っかからないということは、そう言うことでもないような気がするけど……。


「ん……?」

 道の先に、何者かの気配を探知した。あの茂みの向こう……この反応はモンスターじゃないな。どうやら人間のようだ。

(誰だろう……こんなところで何やってるんだ?)


 さらに近づくと、キンキン、カンカンという妙な音が聞こえてきた。

 なんだろうと思って覗き込んでみると――

(あっ……――)


 そこにいたのは、ラピス。

 木の枝にロープでくくりつけた無数の木片や丸太が、彼女に向かって飛んでいく。それを次々に剣で打ち払っていく。マンガなんかでしばしば見られる、非常にベタな訓練模様だ。


「くそっ……。この程度で息が上がるなんて……」

 こんなところで、一人で修行していたのか。というか、彼女は朝からずっと仕事をしていたはずなのだが……。仕事が終わったばかりでいきなり訓練なんて、さすがに無理しすぎだ。マルムたちが知ったらまた心配するだろうな……。


「くっ……!!」

 その時、攻撃が外れた木片が、彼女の額を掠めた。バランスを崩したところで、残りのトラップが一気に襲いかかる。


「うあっ……!!」

(お、おいおい……!)

 全身におびただしい数の打撃を浴びて、彼女は倒れた。

 すぐに半身を起こしたので、深刻な怪我まではしていないようだが――


「うっ……。う……、くっ、くそっ…………!!」

 ……泣いてる? あのラピスが? 


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