第7話 おひさしぶりですねー
(まさか……ラピスが生き残っただけじゃなくて、他にも変化が生じているのか?)
俺がそこまで思い至った瞬間――
前触れなく、底抜けに明るい声が飛んできた。
「あっ! ポルタさまだー!」
首を回すと、ピルムがいた。隣には姉のマルムもいる。
ちなみにこの二人はラピスとは気心の知れた関係にある。ラピスは小さく舌を打って、決まりが悪そうに顔を背けた。
「ポルタさま、こんにちは! おひさしぶりですねー!」
「お、おう……こんにちは」
そういえばピルムたちも、前回会ったことは覚えてないんだよな……。
変な感じはするけど、「久しぶりだな」と付け加えて言った。
そして、例によって――
「ほあああああ~っ! つるぺた幼女ピルムた――」
(《サイレンス》)
「んっ……? …………? ~~~~……っ!?」
(ふぅ……危ないところだった)
変態メイドが騒ぎ始めたので、即座に口を封じる。ただでさえややこしい状況なのに、これ以上問題を起こされてたまるか。
「ポルタさま、このひと、どうしたんですか……?」
「気にするな。パントマイムの練習だよ」
「ぱんとまいむ……?」
「ふふ、不思議なお連れ様ですね。ポルタ様、お元気そうで何よりです」
マルムは今日も優しく微笑みかけてくれたが、心なしか少し疲れが見えた。
「君たちこそ……元気そうでよかった。フォルトゥナさんたちも無事なのか?」
「はい、幸い私たちは怪我もしていません。ですが、兵士の皆さんは……」
「おねーさまも、いんちょー先生も、ずっとチリョーで、おおいそがしなのです……」
「そ、そうだよな……」
彼女たちの住む修道院は、この国では病院のような役割も担っている。
きっと負傷した兵士たちの治療で、息をつく暇もなかったはずだ。
「これでも、数日前よりはだいぶ落ち着きました。こうして持ち場を離れる余裕も出てきましたし……」
「そうか……無理はしないでくれよ」
「ありがとうございます。しっかり休憩しながら、がんばります」
「きゅーけいは、たいせつですよね! ラピスさまもそろそろ、おひるにしましょう!」
どうやらピルムとマルムは、ラピスを呼ぶためにわざわざやってきたようだ。彼女たちは身分や立場に関係なく仲良くしているので、原作中でも食事を共にする場面は何度か出てきた。
しかしラピスはすっと背を向けて、二人に冷たく言い放つ。
「いや……私はいい。休んでいる暇などないからな」
「いけません。最近、一日中働き詰めではないですか?」
「そうですラピスさま! いんちょー先生もしんぱいしてます!」
「いいんだ、放っておいてくれ……」
「で、ですが……」
「私の好きにさせろと言ってるんだ!」
「あっ……」
伸ばした手を乱暴に振りほどかれたマルムは、それ以上は追いすがらなかった。このやり取りを見る限り、ラピスはこの一週間――アルドルが死んでからずっと、こんな調子なのだろう。
「ねぇ、ラピス……。みんなを困らせちゃダメだよ……」
その時、マルムの後ろからもう一人、女の子が出てきた。
存在感が薄すぎてすぐに気付かなかったが、最初からそこにいたようだ。
「……げっ!?」
そして思わず変な声が出た。そこにいた小柄な少女は、俺がこれまで最大限に接触を避けてきた人物だったからだ。
「あ……ポルタ君。どうも、久しぶり……」
俺の不審な反応も気にせず、少女はおずおずと微笑みかけてきた。
「お、おう……」
ピンク色の外ハネショートボブ、緑色の目。いかにもファンタジーじみた配色の、ボーイッシュな格好をした女の子。ただし、ゆったりと巻いたマントの内側から、体つきに不似合いな巨大な鞘がはみ出している。
「やめろ、ミコ。そんな奴にまで媚を売るな」
ラピスは厳しい声を飛ばしたが、ミコは不思議そうに首をかしげるだけだった。
「え……? ボク、媚なんか売ってないよ……?」
「立場をわきまえろと言ってるんだ……。賢者様の言葉が間違っていなければ、貴様は偉大な勇者様なんだからな」
「ん…………」
そう――彼女こそがこの物語、『ソムニアサーガ』の主人公。
光の勇者、ミコ=サンクトゥスだ。




