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第4話 いざオルタナへ

「おー、来た来た。待ってたぜぇ~」

「うるさい……。少しは俺の気持ちを考えろ」

 モジャのいる部屋には、いつも通りに来られた。念じるだけでひとっ飛びだ。


 あとの三人も気付いたら同じ部屋にいて、山吹は真っ先にモジャに確認してくれた。

「モジャちゃん! オルタナ世界にはもう入れそう?」

「そうだな、やっと安定したみたいだ」

 宣誓台の上に置きっぱなしになっていた赤黒い本を、指で軽くつつく。

 見た目は昨日から変わっていないようだが――

「……もう熱くない。触っても大丈夫そうだ」


 未知のオルタナ世界に入る前に、可能な限り現状整理しておくのは必要な作業だ。

 情報源がモジャしかないっていうのが気に食わないが、今のうちにコイツから聞き出せるだけ聞き出しておかないといけない。


「それで、モジャよ。拙者たちの設定帖はどこへ行ったのだ?」

「昨日見てただろ? くっついて、オルタナに取り込まれちまったよ」

「ってことはさ、もう書き直したり、書き足したりはできないってこと?」

「そーそー。そこら辺も、普段との大きな違いだなぁ」


 おそらくそうだろうとは思ったが、面倒なことになったものだ。

 設定の追加や修正ができないということは、今ある手持ちのスキルでどうにかするしかないってことになる。幸い俺は普段から、証拠隠滅や身の安全のためのスキルや魔法を大量にセットしてあったので、すぐに困ることはないと思うが――


「そうなると、山吹には無理はさせられないな。一人だけ魔法も使えないわけだし」

「え、えっと……。で、でも、あたしもがんばるよ?」


「問題ない。拙者とノドカだけで、魔王軍を壊滅させてみせよう」

「いや、そういうのは勇者の仕事だから……。むしろ、お前は絶対にやりすぎるな。下手に手柄を立てすぎたら、それこそ原作の流れに戻せなくなる」

「チッ……。小言の多い男だな……」

「なんとでもいえ。とにかく安全第一で行く。オルタナ世界は何が起きるかわからないから、いつでもゲートを開けるようにしておきたい。みんな、俺から離れるなよ。単独行動は原則禁止だ」

「はーい!」「はいはいはいはい」


「ね~、モジャちゃん。物語をちゃんと修正できたら、ポルタ様は――赤野君は、本当に死なずに済むんだよね~?」

「ま、そうだな。あるべき結末を迎えられたら、トビラは助かる」

 これは現状明示されている、唯一の明るい情報だ。

 問題は、それを達成するのがどれぐらい難しいのか、想像もできないことだが――


「その、あるべき結末というのは、具体的にどういうことなのだ?」

「さあねぇ……って言いたいところだけど。ゴールが明確じゃないとヤル気が出ないよなぁ? つーわけで教えてやる。条件は、たった二つだ――」


【主人公である勇者が、魔王を打ち倒す】

【ソムニア王国に凱旋し、民衆と喜びを分かち合う】


「この二つの条件をクリアすればいいだけだ。シンプルな話だろ?」

「……まあ、ソムニアサーガはシンプルな王道ファンタジーだからな」


「勇者以外が魔王をやっつけちゃうのは、やっぱりダメなんだ~」

「確かに、話の印象が全然変わっちゃうよね……」

「フン、つまらん。拙者のヘルファイアで魔王を焼き払いたかった」

「バカ言うな。勇者を差し置いてポッと出の謎メイドが魔王を焼き殺すとか、どんな読者でも納得しないラストだろ……」


「モジャちゃん。町の人たちも無事でっていうのも、絶対条件なの?」

「ま、全員生存しなきゃいけないわけじゃないが、勇者に帰る場所がないっていうのは違うだろ? ソムニアサーガみたいな、ハッピーエンドの物語ならよ」

「ふむふむ、なるほどね……」


 ソムニアサーガはあらすじだけでいえば非常に単純明快だ。勇者が極悪非道な魔王を倒し、世界は平和になりました。めでたしめでたし――っていう物語。

 だから、強引にでもそういうラストに持っていくだけなら、なんとかなりそうな気がする。

 俺たちは陰ながら勇者たちをサポートし続ければいい。ただ、サポートしようとするなら、危険な前線について行かないといけない場面も出てきそうだけど……。


「今のところ~一番大きな問題は~……原作から、どこがどれぐらいズレちゃってるのか、全然わかってないことだよね~?」

「うん……。まず確かめないといけないのは、アルドルが生きているかどうかだな」

 俺がそう言うと、山吹の頬が強張った。

「そ、そうだよね……。原作から分岐した理由は、それが一番ありそうだし……」


 オルタナが発生した原因は、今のところわかっていない。

 ただ、心当たりがあるとすれば――アルドルに死の運命を教えてしまったことだ。

 仮に、山吹が与えた情報によってアルドルが生き延びることになっていたなら、その後のストーリー展開は相当変わってしまうだろう。


 ただ、もしそうだったとしたら、俺たちにとってそんなに困ることはないかもしれない。


「アルドルが生きていてマイナスになることはなかろう。奴は人類最強だ。原作から少々ズレたところで、奴さえいればどうとでもなる」

「そ、そうだよね! あたしもそう思うよ……!」

「むしろ~、いてくれた方が魔王を楽に倒せそうだよね~。とどめは勇者にさしてもらわないと、結末が変わったことになっちゃいそうだけど~」

「うんうん! アルドル様に、『魔王を倒すのは勇者に任せて』って言うだけで、赤野はきっと助かると思うよ!」


「まあ……そんなので済むなら、楽だけどな」

 山吹は内心、期待を膨らませているんだろう。アルドルが生きている世界線を――彼と共に迎える明るい未来を、想像しているに違いない。


「とりあえず、行ってこの目で状況を確かめないと、これ以上は議論できないし――」

 宣誓台の前まで足を進める。三人が俺に視線を集中させた。

「オルタナ世界に入ろう。みんな、覚悟はいいか?」

 全員、無言で頷いた。それを確認した俺は、オルタナの本に目を向ける。

 乾いた血の色に似た赤黒い表紙。まるでこちらを見られているような、奇妙な圧迫感がある。


「トビラ、せいぜい頑張れよ」

 と、モジャが俺を嘲笑うように言った。

「……心にもないこと言うなっつーの」

「ヒッヒッヒ……。テメーがこのまま帰ってこれなきゃ、そのキモい本がテメーの棺桶になるわけだ。ま、すでに片足突っ込んでる状態だからな。安心して死んでこーい」

「だから、黙ってろって。生きて帰ってきたらいいだけの話だ……」


 ……世間的には謎の失踪、行方不明って扱いになるんだろうか。

 でもそんなことを今から想像してたって、今さらどうにもならない。


 意を決して、手を伸ばす。

 ページを開いた瞬間、俺の身体はパッと光って――一瞬で、前回本の中に入った時の服装に変わっていた。

「よし……。ここまでは普段通りだな」

「う、うん……。あたしも前と同じドレスだね」

「暗黒魔族の末裔メイド、ソデコ、見参……ッ!」

「ソデコちゃん、ふざけてたら怒られるよ~」

 他の三人もちゃんと衣装が変わっている。今のところ、特に異変はなさそうだ。


「じゃあ、ゲートを開くぞ……」

 息を呑んで、宙空に手をかざす。

 思いのほかすんなりと、光のゲートが現れたのだが――


「……ゲートの色までいつもと違うのか」

 いつもの白っぽい光のゲートではなく、本の表紙と同じような赤黒い光だ。


「うわぁ……。これは一目で、ヤバい状況なんだってわかるね……」

「う、うん~……。ちょっと入るの怖くなってきた~……」

「怖いならやめてくれてもいいよ。無理強いする気はないからな」

「ううん! 行きます~! この豚にご命令を~!」

「だから、命令なんてしないって……。まずは俺が入るから、みんなは後からついてきてくれ」

「うん!」「はい~!」


「あ、待て」と、袖子が腰を折る。

 思いきって足を踏み出そうとしていた俺は、思わずコケそうになった。


「なんなんだよ、お前は……」

「すまんな。モジャにもう一つ、重要なことを聞いておかねばならんのだ」

「お? なんだい?」

 まだ聞きそびれていたことがあったっけ? 一応、注意を向けたのだが――


「ずっと本の中に入っていたら、早く年を取るのか?」


 モジャも含め、みんな固まっていた。コイツ、そんなことが気になってたのか……。

「取らねーよ。本の世界での出来事が、現実に物理的な影響を及ぼすこたぁない」

「なるほど! 拙者、それだけが気がかりだった!」


「それだけかよ……。もっと他のこと心配しろよ……」

「何を言う。自然に年を取るのはいいが、赤野のために老けるなど、言語道断! この美貌を守ることを優先させてもらう!」

「お、おう……。じゃあ俺、先に行くからな……」

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