第21話 異世界の星空
城下町も夜になると人通りはまばらになっていた。
昼間とはまるで別の街。祭りの後のような静けさの中、俺たちは歩いていく。
「なあ、ノドカ。拙者としては、やはり色仕掛けしかないと思うぞ」
「そ、そういうのは、わたしには無理だよぉ~……――」
すっかり沈み込んでいるリラを気遣ってか、メイド二人は彼女にはあまり話しかけず、少し前を歩いていた。
俺も、今はそっとしておくべきかとは思ったが……
こっそりリラに近づいて、耳打ちするようにして尋ねた。
「あの……聞いてもいいかな?」
「……何を?」
「アルドルと……どんな話をしたんだ」
「…………」
「あっ……」
じわりと涙が滲んだのを見て、瞬時にやってしまったと思った。
「ごめん。もちろん、言いたくないなら無理にはいいんだけど……」
「えっとね……『さっきは厳しいことを言って悪かったな』……」
意外にもすぐに返事があったので、「……それから?」と尋ねる。
「『オレが死んでも、この国の礎となるだけのこと』、『オレのことは歌にでもして、たまに思い出してくれ』って……。優しい言葉を、いっぱいかけてくれたよ……」
「……そうか。アルドルらしいなぁ」
やっぱり原作にはないセリフだったけど、俺は心からそう思った。
リラにとっても――山吹史織にとっても、そうだっただろうな。
「うん、本物の……アルドル様だったよ……っ」
「な、泣くなって……」
「ううん……。つらくて泣いてるだけじゃないから……。ありがとう、赤野……。あたしの夢を叶えてくれて……。あたし、今日の思い出だけで……一生、生きていけるよ……っ」
気恥ずかしくなった俺は、そっぽを向いたまま「……まだ、ポルタだけどな」と呟いた。
ただ、彼女にだけ言わせるのは悪い気がしたので――
「俺の方こそ……ありがとな」
「えっ……? な、なんでアンタが、お礼を言うの……?」
「実は、ずっとモヤモヤしてたんだ。アルドルが……俺みたいなのを友達にしてくれるわけないんじゃないかって。俺は設定帖を使って、いいように彼を操ってるだけなんじゃないかって……心のどこかで、いつも後ろめたい気持ちがあったんだ」
「で、でもアルドル様は、ポルタ様の正体がわかっても、友達だって言ったよ?」
「うん……そうなんだよな。あんなにはっきり、自分の意志で選んだって言ってくれて……なんつーか、スッキリした。……まあ、これも俺の自己満足なんだろうけど」
俺が苦笑いすると、リラはぶんぶんと大きく首を横に振った。
「ううん……そんなことない。そんなことないよ……っ。今日のことは、夢でも、幻でもっ、自己満足でもないんだよ……っ!!」
「なっ、なんでまた泣くんだよ……!?」
「う……うわあああああああんっ……!!」
とうとう大声を上げて泣き始めてしまったせいで、前を歩くメイド二人にも気付かれてしまった。
「ああ~! ポルタ様がまたリラ様を泣かせてる~!」
「まさに外道……。か弱い女を虐めるのが趣味だとは」
「ち、違うって!」
「ポルタ様ポルタ様~! 虐めるんでしたら、どうかこの豚を虐めてブヒ~!」
「ほれほれ、ノドカを欲望の赴くままに使い倒すがいいぞ。その代わり、拙者たちを魔王城へと連れて行くのだ」
「だから、連れて行かないって言ってるだろ……!!」
「ねぇリラ様ぁ~。リラ様からもお願いしてよぉ~」
と、ノドカはまだぐずついているリラに、ぺったりと抱きつきながら言う。
まあ、二人とも半分はリラを励まそうとして、冗談めかしてやってるんだろうけど。
「そうだ、お主がねだればコロリと落ちる。頼むから協力してくれ」
しかし、リラは――冗談でもそんなことは言えなかったようだ。
「ごめん……。あたしは、もう……この世界には、入れない……かな」
その儚げな微笑みを目にして、ソデコとノドカからもふざけた笑顔が消えた。
親友の今の気持ちが汲み取れないほどには、彼女たちは鈍感ではなかったらしい。
「そうか……。ならば拙者たちも、しばらくはいいか」
「そうだね~……。わたしも、しばらく我慢するよ~」
「……しばらくじゃなくて、永遠に連れて行かないからな」
「二人は気にしなくていいよ。あたしはちょっと……もう、無理そうだから。この世界に入り直せば、アルドル様にはまた会えるんだろうけど……。そのアルドル様は……今日、あたしのために話してくれたアルドル様じゃないから……っ」
俺が一人で抱え続けてきた葛藤と、同じだ。
今日で最後にしてしまいたい彼女の心情は、痛いほどよくわかる。もう一度アルドルに会いたいと思うからこそ、別の世界に入り直すことで、今日の思い出を穢すような真似をしたくないのだろう。
「リラ様! わたしは我慢が大好きだから大丈夫だよ~!」
「ごめんね……わがまま言って、ホントにごめん……」
「ううん! リラ様だけ置いていけないよ~!」
「拙者も同じ気持ちだ。魔王城に行く時は、お主も必ず一緒だぞ」
「いや、だから連れてかないって」と、俺はさり気なく念を押す。
リラは再び、「……ごめんね」と申し訳なさそうに頭を垂れていた。




