第20話 またあの世で
少し話しているうちに、すぐに日が沈んでしまった。
俺たちはいよいよ帰路に就くことになった。
城の入口まで見送ってくれるというので、アルドルと一緒に執務室を出る。
道中、すれ違う兵士たちは皆、立ち止まって礼をしていた。
彼らは誰も、明日アルドルが死んでしまうことを知らない――
いよいよお別れだというところで、アルドルは「リラ殿よ。少しいいか?」と尋ねた。
「せっかくだ。二人で少し話をしよう。こちらに来るがいい」
「えっ……!? はっ、はいっ……!!」
リラは振り向きもせず、ついていってしまった。ただ、それほど舞い上がった様子でもなかったので、別に引き止めはしなかった。
「……二人きりにして大丈夫かな」
独り言のようにそう漏らすと、ソデコがすぐに反応した。
「心配ない。お主はもっと、リラ様を信用しろ」
「まあ、お前らに比べたら百倍は信用してるよ……」
とは言え、この二人もよくやってくれた。コイツらが来てくれていなければ、俺は心が折れたままだったのだから。
もしかしたら、俺が本気を出すまでアルドルは戦いをやめないつもりだったかもしれない。
アルドルに殺すつもりがなくても、俺はそのうち死んでいただろう……。
「にしてもお前ら、よく助けに入ろうとしたな。死んでてもおかしくなかったぞ?」
「う、うん~……。でも、あんな状況で隠れて見てるだけなんて、逆に無理だよ~」
「全くだ。なんとしてでもリラ様を救わねばと思った」
ソデコはキザったらしくフッと笑って、さらに自信満々にこう言い切った。
「拙者たち三人の絆はな、お主が思うより遥かに強固なのだ」
「……そうみたいだな。なんだか羨ましいよ。それだけ大事に想い合える、仲間がいて……」
ふと夜空を見上げると、満天の星が輝いていた。
地球から見えるのとは違う星座。孤独な宇宙に描かれる星の絵。
この世界にも、この星にしかヒトはいないんだろうか――
「何を言っている? お主もすでに、拙者たちの仲間だろう?」
「えっ……?」
「そうだよ~! 同じ秘密を共有する仲間だよね~!」
「そ……そうか……?」
俺が、コイツらの仲間……? そんなこと、一回も考えたことはなかったが……。
言われてみると、自分でも意外だったが、何故かしっくり来た。
今日一日ちょっと一緒にいただけなのに、同じ時間をずっと過ごしているような気がする。
思えば、最初からそうだったんだろうな。
同じ作品が好きで、ベクトルは違っても、同じぐらい作品について深く想像を巡らせてきた。
両親より、クラスの男友達より、コイツらの方が俺に近い存在だったんだ。
もしかしたら、ソムニアサーガを愛する三人だったからこそ、この世界に入れたのかもしれないな――
「ああ、お主は拙者の心の友だ。だから今回のテストは、合格ということでいいな?」
「…………んっ?」
「次回はぜひ拙者のリクエストに応じて、魔王城へ行ってもらいたい。さっそく、明日の放課後にでもどうだ?」
「あっ、あっ、わたしも行く~! 次は設定帖にね、魔族の皆さんの〇〇になって、✕✕されたり△△される~って書くつもりなの~!」
「…………」
なるほど……そういう魂胆だったか。
一瞬でも、コイツらに仲間と認められて喜んだ自分を記憶から抹殺したい。
「テストは、不合格だ」
「え~っ!?」「なん……だと……!?」
「決まってるだろそんなもん! 一から十まで全部減点! 失格だっ!」
「だ、だがな……。こうして共に困難を乗り越えたからこそ、生まれた絆がある」
「雰囲気でごまかそうとするな! とにかくお前らは、二度と連れて行かないっ!」
「そ、ソデコちゃ~ん……不合格だって~……」
「……案ずるな。いざとなれば、コイツの秘密を世間にバラすと脅してやればいい」
「勝手にしろよ。どうせ誰も信じないさ」
「ええ~……じゃあ、どうしよう~……」
「ではノドカよ、『胸をさわっていいから連れてって』と交渉しろ」
「ほえっ!?」
「お主の武器だ。変態だから簡単に釣れるぞ」
「釣られるかっ! つーか、大事な仲間にそんなことさせるなよ……!」
*
しばらくすると、リラは戻ってきた。
案の定と言ってはなんだが、泣き濡れてグシャグシャの顔で――
「おい、大丈夫か?」
返事できる様子ではなかったが、こくりと頷いた。
「ハッハッハ! リラ殿ならもう大丈夫だ! その娘は、強いぞ!」
「アルドル、今日は……いや。今まで、いろいろすまなかったな……」
「いいや、ありがとう。……ポルタよ。お前と出会えて、本当によかった」
こんな短い言葉に、彼の心が全て詰まっているように感じた。
「……俺まで泣かせる気かよ」
「ハハハ! すまんすまん!」
最後は、アルドルらしく豪快に笑っていた。遠巻きに見ていた兵士たちが何事かと驚くほどの大声で、別れを告げる。
「皆の者、達者でな! さらばだ! またあの世で会おう!」
あの世なんてものがあるかどうか――
あったとしても、俺と彼の魂の行き先は違うところじゃないかって思ったけど。
「……ああ、必ず!」
俺は、そう答えた。アルドルは白い歯を見せて笑った。




