第13話 フラッシュストーム
「ラピス、これはどういう状況ですか……?」
「下がってくれ、フォルトゥナ。この男は危険な、魔王の手先だ」
「え……ええっ?」
「まってください! ポルタさまは、まおうのてさきなんかじゃないです!」
「そ、そうですよ。ポルタ様が、そんな――」
「お前たちは皆、この悪人に騙されていただけだ。本性はろくでもない、人間の屑。私たちの国に紛れ込み、密かに悪事を働き続けていたわけだ」
ラピスの言葉に、胸を抉られる思いがした。全部、事実のように感じたから。
「まあ、それも今日までのこと。これで、この町も少しは平和になるだろう」
「そんな……」
「ポルタさま、ウソですよね……!?」
「ポルタ様…………」
三人は皆、同じような悲しい目を俺に向けていた。
俺を信じたい気持ちはあっても――騎士の言葉を疑うのも難しかったのだろう。
彼女たちとの楽しい思い出が、走馬灯のように駆け巡った。
この世界に来るたび、いつも笑顔で俺を迎えてくれた三人。現実でどんな嫌なことがあっても、彼女たちと話しているうちに立ち直れた。それを知っているのはもちろん俺の方だけだけど、今までどれだけ支えられてきたことか。
そんな大切な人たちに、逮捕の瞬間を目撃された。魔王の手先だなんて思われた。
最悪だ……死にたい。もうおしまいだ。何も考えられない……――
「では、彼らを連行しろ。抵抗するなら痛めつけて構わん」
「はっ!」
ラピスが部下に命令すると。精鋭部隊の兵士たちは一斉に動き出した。
「くそ! 寄るな下郎ども!」
「ぽ、ポルタ様、助けて~!」
「ちょっと! どーすんのこれ!?」
「…………」
サイレンの音はどんどん大きくなっていくのに、逆に俺の心の中は冷めきっていった。
この世界に来て、こんな気分になったのは初めてのことだ。
……しょうがない。こうなったらもう、どうにでもなれ。
「お前ら、俺に掴まれ」
「えっ……?」
「いいから、早くっ!!」
「う、うん……!」
リラたち三人を左手一本で引き寄せると、残った右手の指先で頭上に円を描く。
その軌跡が光の輪となって、中に魔法陣が浮かび上がり――
次の瞬間には一気に膨張し、周囲を包む光のドームへと変貌した。
(《忘却魔法――閃光拡散》)
そう念じた瞬間、光のドームは弾け飛び、辺りが強い輝きで照らされる。
白い光で塗り潰され、何も見えなくなった。
「なっ……!?」
「なんだ、この光は……!?」
同時に俺は、混乱する三人を抱きかかえて、次の魔法を発動させた。
(《瞬間移動》……――)
「――……あれっ?」
「こ、ここは、どこ~……?」
「この建物は……確か、拙者が燃やしかけた……」
「そう、最初に俺たちが出た場所だよ。……瞬間移動魔法を使ったんだ」
期待した通り、この辺には誰もいない。
さっきまでの喧騒から打って変わって、静かな田園風景が広がっている。
「テレポートってアンタ……そんな設定までつけてたの?」
「……まあ、念のためにな」
「さっきの光はなんだ? あれもチート魔法か?」
「忘却魔法だよ。あの周囲にいた全員の記憶を消した」
「き、記憶を……?」
「しばらくは寝起きみたいにボーッとなるけど、そのうちだんだん元に戻る。この数時間以内の、俺たちに関する記憶を全部まとめて忘れた後でな」
「それは、なんとも……非・人道的な魔法だな……」
「……ああ、その通りだ」
ソデコでさえ少し引いている。無理もない。あんな魔法、攻撃対象を同じ人間だと思っていれば使えるわけがないのだから……。
「人格を無視して記憶を蹂躙するなんて~……ポルタ様、ハアハア、鬼畜すぎ~……」
「う、うるさい……。俺だって、やりすぎだって思ってるさ……」
それでも警告のサイレンは移動直後には止まっていた。
世界はこの状況を【問題なし】と判断したということだ。
だが、俺にとっては大問題だ。
俺にとってこの世界の人々は、ただのキャラではない。
もちろん俺も日常会話で【キャラ】って単語は使うけど――この世界の住人に対しては、一人ひとり心を持つ人間として、かけがえのない友人として接してきた。
元の世界に戻って、再び本の中に入り直せば、全てがリセットされてしまう。だからこそ俺は、一回きりのふれあいを大切にしてきたんだ。
その想いが全て――今まで大事にしてきたものが全て、打ち砕かれてしまったようだ。
「こんなのは、本当の本当に……最後の切り札なんだよ。念のために付けていたスキルとはいえ、罪のないフォルトゥナさんたちにまで、あんな魔法をかけるなんて……俺は最低だ。でも、ああするしかなかった……」
膨らんでいく自己嫌悪に押し潰されそうだ。ここまで気分が沈むのはいつ以来だろうか。
「ポルタ様……ごめんね。言うこと聞けって言われてたのに、こんな……」
「ぐぅ……目眩がする。さすがにこれだけ上位魔法を連発したら堪えるな……」
「だ、大丈夫……?」
リラだけは俺を心配してくれているようで、深刻な表情だったが――
「しかしまあ、おかげで助かったぞ。よくやった赤野ポルタ。褒めてつかわす」
「ありがとうポルタ様~。元気出してね~!」
人の気を知らず、メイド二人は能天気に笑っていた。
悪気はないんだろうけど、だからこそ許せない。
「うるさい……お前らはもう、退場だ」
「へっ――」
二人の顔の前に、左右の手をかざす。
ぱっと閃光が弾けたかと思うと、二人は一瞬で石化していた。
「ノドカ!? ソデコ!? ……ちょっと赤野! 二人に何したの!?」
思わずキャラを忘れて叫んだリラに、俺は淡々と解説する。
「《ストーンスタチュー》、石像化魔法だよ。解呪されるまで永遠にこのままだ」
ただし、石像になっている間はいかなる攻撃も通さない。特殊な保護魔法でもある。
元の世界に帰る直前まで、このままこの小屋の中にでも放置させてもらおう。
「せっ……石像化って! こんなの、いくらなんでもやりす――」
「アルドルに会いたいんだろ?」
「えっ……」
じっと目を見据えると、彼女は固まった。
「だったら、この二人は連れて行けない。でも君だけは何も問題行動を起こしてないし……かわいそうだと思ってな」
「そ、それは……まあ……会いたい、けど……」
「君だけなら、アルドルに会って帰るぐらいは大丈夫そうだ。このバカ二人は後でちゃんと元に戻すから、さっさと行って目的を果たそう」
「う……うん……」
リラはちらりと石像に目を遣り、「ごめんね、二人とも……」と呟いていた。




