第12話 少女騎士ラピス
「無駄な抵抗はするな。今のやり取り、しかと見させてもらったぞ」
「くっ……――」
ラピス=グラチェス……。よりにもよって、彼女と遭遇するなんて……。
ラピスは主人公の姉弟子であり、親友でもある重要キャラクターだ。
実は彼女も――アルドルと同様、明日の戦いで命を落とす運命にある。
魔族に殺されることで、主人公を覚醒させるきっかけになるのだ。
つまり、物語展開を根本から左右し得る存在、ということになる。
それだけでも十分関わりたくない理由になるが、問題は彼女の性格とスキルだ。警戒心が強く疑り深いラピスは、【嘘を見抜くスキル】を持っている。
俺とは最も相性の悪い登場人物の一人だと言っていい。だから普段は極力会わないよう、たとえ会ってもすれ違って済ませるよう心がけてきたのに――
「あっ、あの……。オレたちが、何か……?」
「ちゃんと屋台を出す許可はもらってますぜ……!?」
俺たちが答えずにいると、腕相撲屋台の男たちが慌てて弁解し始めた。コイツらはコイツらで詐欺まがいのことをしていたから、自分たちが処罰されるのかと勘違いしたのだろう。
「貴様らに用はない。下がれ」
「へ……?」
ラピスは彼らの間をすり抜け、俺の目の前までつかつかと歩み寄ってきた。
「観念しろ、ポルタ=リヴェラリス。貴様を内乱罪の容疑で、逮捕する」
「な、内乱罪……? ラピス殿、この俺が何をしたって?」
「白々しい。ついに尻尾を出したな、この魔王の手先め……!」
「えっ……――」
彼女が迷いなく俺を指差すと、サイレンの音がさらに強まった。空全体が赤黒く染まり、まるで脈を打っているかのように蠢いて見える。
「何を言っているんだ! 言いがかりはやめ――」
「そこのメイドはどこの何者だ? 人間に化けているようだが、魔族なのだろう?」
「ち、違うよ……。どこをどう見ても、ごく普通の人間だろ?」
「ごく普通の人間が、闇魔法を使うとでも?」
――どうやら一部始終見られていたらしい。だが、それでもとことん白を切るしかない。
「いやぁ~……意味がわからないなぁ。闇魔法? ソデコがいつ、そんなものを使ったって?」
「ついさっき、ここで。そして先刻、郊外の物置小屋で」
「うっ……!」
あれも見られてたのか? 一体どこから?
確かに混乱してたせいで、そこまで周囲に気は回ってなかったかもしれない。
だけどこんなこと、今まで一度もなかったのに……。
「闇魔法による放火、得体の知れない方法での鎮火……。どちらも普通の人間にできる芸当ではない。なんの目的であんなことをしたのか、まるで理解できないが……」
……はい、俺もソデコの目的は理解できてません。
しかし困ったことになった。全部見られていたのなら、嘘をつく意味もない。
「なんにせよ、貴様は魔族と接点があると見て間違いない。もはや言い逃れはできんぞ」
ラピスは腰の鞘から細身の長剣を抜き出した。動けば斬ると彼女の目は言っている。
「ど、どうするの、ポルタ様……?」
「サイレンが、だんだん大きくなってきてる~……」
リラとノドカが不安そうに呟きかけてくる。ソデコはバツが悪いのか無言だったが、明らかに困りきった顔をしていた。
(今さら反省したって遅いっつーの……。こんなの、どうしようもないぞ……?)
ラピスはさらに一歩こちらへ歩み寄り、剣の切っ先を俺に向けてきた。
「そもそも私は、最初から貴様は怪しいと思っていたんだ。師匠は何故か、妙に貴様を評価しているようだったが……」
「そ、そうなのか……?」
「そうだとも。師匠と気安く喋っているのも不愉快だった」
道理で、すれ違うたび睨まれてたわけだ。設定帖には、彼女に嫌われているみたいなことは特に書いていなかったのだが。
「師匠より私の方が正しかったと、ついに証明されたようだな。私は、貴様の存在を知った時から一切信用していない。……はっきり言って、大嫌いだった」
俺としても、特段好きなキャラというわけでもなかったが……面と向かってここまで言われると、なかなか精神に来るものだ。
「ま、待ってください!」
ここで、リラが前に出た。
「ポルタ様は何も悪くないんです。これには事情があって……。ポルタ様は、私のわがままに付き合ってくださっただけなんです……」
明確な出自を設定していない放浪研究者の俺と違って、リラには領主の娘という地位の設定がある。同じ貴族の言葉になら、もしかするとラピスも耳を傾けてくれるかもしれない。
「貴様は確か、キーエス家の一人娘だな?」
「は、はい。覚えていらっしゃいましたか……?」
「……まあな。学園でいじめられていた私と別け隔てなく接してくれた。そんな人を忘れるほど、私は恩知らずではない」
どうやら設定帖の影響で、二人は同級生の昔馴染みということになっているようだ。これはますます好都合だ。
「な……懐かしいお話、ですね……」
リラは少し安心したように表情を緩めたが――
ラピスは恩知らずではなくとも、任務に私情を持ち込まない人物だった。
「嘆かわしい。弱小とはいえ、まさか貴族までもが魔族と繋がっていたとは」
「えっ……? あの、違います! あたしたちは、魔族となんか……!」
「問答無用。言い訳があるなら、場所を改めて聞かせてもらおう」
……やっぱり無理だったか。俺がどうにかするしかない。
「ラピス殿、待ってくれ! これは誤解――」
何の策も思い浮かばないまま、口を開く。
すると、さらに集まってきた人波の中から、耳馴染みのある声が聞こえてきた。
「先生! 姉さま! あそこを見てください!」
「あれは……ポルタ様?」
「一体、何があったんでしょう?」
「げっ……」
フォルトゥナさんと、マルムピルム姉妹だ。用事を終えて戻ってきたのだろう。
兵士に囲まれた俺たちを見つけて、真っ直ぐにこちらへ向かってくる。
こともあろうか彼女たちに、こんな醜態を見られてしまうなんて――




