第10話 城下町散策
「お疲れ様です。さっきはどうも……」
「ああ、どうぞお通りください」
顔見知りの門兵と軽く挨拶をして、城門をくぐると――
「わあ、すごいね……。人がいっぱい……アニメの中に入った気分……」
「全くだな。普通に感覚があるし、未だに信じられんが……」
「見て見て~! あれが、城下町名物の魔法時計だよ~!」
「おおー!」
「まさしく、アニメで見たままの――」
馬車の三人は窓に張り付くようにして外を観察していた。さっきの今で不安はあったが、「降りていいぞ」と声をかける。
ソムニア城下町はいわゆる城郭都市だ。堀で囲まれた巨大な円形の壁の内側に、城や教会、住居や商店が詰め込まれている。町の中心部には教会と噴水広場があって、広場を中心に放射状で道が走っている。真上から町を見下ろせば、まるでピザみたいな感じだ。
このまま奥へ真っ直ぐ進めば城に辿り着くわけだが――城に続く中央道路の道沿いには、主に旅行者や冒険者向けのショップが多く並び、さらにあちこちに屋台が出ている。
馬車を繋場に預けてすぐに戻ると、リラとその従者二人は、食べ物の屋台に興味を奪われているようだった。
「ふわ~……あちこちからいい匂いがする~……」
「そういやあたし、おなか空いてたんだった……。なんか香ばしい、いい匂いがする……」
「あれは串焼きの屋台ようだな。おい、ポルタ様。一体なんの肉だ?」
「あの店は……マッドボアだな」
俺がそう答えると、三人は揃って顔を向けてきた。
「マッドボア!?」
「それ、モンスターだよね……!?」
「でも凶暴化した巨大イノシシみたいなもんだしな。毒もないし、普通に食用だぞ」
「ならば豚肉のバーベキューのようなものか……?」
「あの店のは野菜と一緒にパンに挟んでるけどな。気になるなら試しに食ってみるか?」
「い、いいの……?」
「そもそも拙者たちは、この世界のものを食べられるのか?」
「普通に食べられるし、味もするよ」
「すご~い! リラ様、いろいろ食べてみましょうよ~!」
「うん、そうしよっか! ……あっ、でもあたし、お金持ってないかも……?」
「拙者も持っていない……。設定帖に書きそびれた」
「大丈夫。これ使ってくれ」
懐の財布から小銀貨を三枚取り出すと、みんなに一枚ずつ手渡した。
この辺の屋台で買い食いするぐらいなら、これで十分だろう。
「小銀貨の価値って、確か一枚で~……」
「日本の貨幣価値だとだいたい、一五〇〇円ぐらいだっけ?」
「しけてるな。遠足のおやつか。もう少しよこせ」
「ダメだ。余分な金を渡したら、どうせすぐにトラブルに巻き込まれる。どうしても足りないようなら出してやるから、まずはそれだけでなんにかしろ」
「チッ……。チート野郎が、偉そうに……」
ソデコの文句は軽く無視して、俺は屋台の方へと歩き出す。
「俺、マッドボアの串焼き買うけど……みんなは?」
「あたしもほしい! ノドカとソデコは?」
「う~ん……。わたしは、甘い物の方がいいかな~? ポルタ様が『豚は共食いでもしてろ』ってなじってくれるならそうするけど~……?」
「いや、普通に好きなもん食えよ」
「拙者は一通り候補を見て回って決める。たったの一五〇〇円では食べたい物を全部買えそうにないからな」
「ねちっこい奴だな……。見て回るのはいいけど、あまり遠くに行くなよ。ずっと見張ってるからな」
「はいはい」「は~い!」
メイド二人は並んで歩いていった。何かやらかしそうで心配ではあるけど――ソデコがどんなにバカだとしても、こんな人通りの多い場所で闇魔法を使ったりはしないだろう。ノドカは人に危害を加えたりするタイプじゃないし、かわいい幼女さえいなければ大人しくしてるはずだ。
「わー! これ美味しいね、ポルタ様!」
「ああ、うん。口に合ったなら、よかった」
とりあえずリラと俺はマッドボアを食す。食べさせた後で、貴族のお嬢様が口にするような上品な物じゃないかと思ったけど、気に入ったようなので何も言わなかった。
「何か飲み物もほしいなぁ……。飲み物の屋台なんてあるのかな?」
「だったらそこで売ってるオニザクロのジュースがおすすめだ。グァバみたいな味で、甘すぎなくて飲みやすくていい」
「へー! 試してみようっと!」
店員からカップを受け取ったリラは、ジョッキのビールのようにグビグビと飲んでいた。これは令嬢ではなくて、完全に普通の女子高生の仕草だな。
「んー、美味しい! ……っていうかさ。ポルタ様って意外と、手慣れてるよね」
「ん……? 手慣れてるって、何が?」
「やっぱり女の子たちを魔法で魅了したりして、デートしてたりするんじゃないの?」
「い、いや……。だから俺は、そういうのはしないんだって……」
「ホントにぃ? アヤしいなぁー」
リラはやはり、山吹史織とは別人みたいだ。俺と普通に会話して、無邪気に笑う。俺は元々、山吹には人間扱いすらされていなかったように思うのだが――彼女の方も、同級生の男子ではなく、ポルタとして接しているからだろうか。
「ねぇ、ポルタ様。あの人だかりは何だろう……?」
と、不意にリラが質問してきた。
「……ああ。あれはたぶん、腕相撲の屋台だな」
「腕相撲? 勝ったら賞金がもらえる的な?」
「そうなんだけど、関わらない方がいいよ。あんなのに興味を持つのは金欠の荒くれ者だけだ。近づくだけでもトラブルに巻き込まれかねないし――」
「でも、ソデコとノドカが参加しようとしてるよ?」
「……はあっ!?」
慌てて目を向けると、本当にいた。筋骨隆々としたモヒカン男と向かい合って、椅子に座るノドカ。その隣に、セコンドよろしく腕組みをして立つソデコ。
「へっへっへ……。お嬢ちゃん、やめとくなら今のうちだぜ?」
「ううん、やるやる~! わたし、こう見えて結構強いんだよ~!」
「ノドカの実力を甘く見ていると……お主、死ぬぞ?」
「ハッハッハ! そりゃあいいや!」
いつの間にか、かなりの数の野次馬が集まってしまっている。謎のメイド二人組が力自慢相手に腕相撲で挑戦するなんて、そりゃまあ見ものだろうけど……。




