コミカライズ連動 サンストーン王国最強
古代アンバー王国が崩壊した直後の動乱が終結すると、世界は表向き平穏になった。
しかし領主間の争いは度々勃発していたし、国境でも国と国が小競り合いを起こすことが多く、雇われ兵の需要は尽きることがなかった。
そして貧しいものにとって、傭兵は手っ取り早く稼ぐ手段だったため、供給の方も途切れることはなく、多くの人間が争いに身を投じ……果てていった。
「ご領主様。どうやら魔物の類が現れたようです。なんでも冷気を纏う狼だとか」
「ちっ。イーライを雇え。多少高くても構わん」
「はい」
サンストーン王国のとある領地で、ジュリアス派に属する貴族が舌打ちした。
魔物とはスキルに似た力を使える動物のことで、強力な個体なら人間を容易く餌にしてしまう。
そのため被害が大きくなる前に手を打ちたい為政者側は、大金を払って魔物退治も出来る者達。単なる傭兵ではなく、自然も相手に出来る冒険者と呼ばれる者を雇うこともある。
イーライと呼ばれる冒険者は、サンストーン王国最強と名高く、それに合った報酬を要求される……というか、かなり金に汚く高慢なのだが、依頼はほぼ確実に達成するので、金より効率を優先できる者達から好まれていた。
特に内政巧者が多いジュリアス派の貴族は重宝しており、イーライの方も金払いがいいこの陣営を優先したため、単に利害関係だけで見るとこの両者の関係は良好だった。利害関係だけは。
「持つべき者は金を持ってるお貴族様だなぁ。依頼金の倍を払ってやるって言えたら、俺の方は敬意ってやつも持てるんだがな」
この言葉からも分かる通り、とにかくイーライという男は品がなく、協調性や社会性を何処かに置き忘れた男なのだ。
それ故に敵も作りやすいのだが、ただただ、強さという一点でなにもかもを押し通し、それが成功体験にしか繋がらないので、反省することもない。
「ま、金を貰ったからには仕事はするけどな」
尤も美点が全く無い訳ではなく、明日の金を稼ぐために今日の契約をきっちりこなす感性はあったので、なんとかサンストーン王国の枠組みで生活できていた。
「へっ。中々いい趣味してるじゃねえか」
依頼を受けたイーライは、傲岸不遜という言葉を体現したかのような雰囲気で森の浅い場所へ踏み込むと、氷の彫刻を見つけて足を止める。
非常に素晴らしい出来栄えの彫刻で、苦悶に満ちた表情は人間の顔を完璧に再現しているし、慌てふためいている姿からは、今にも動き出しそうな生気を感じる。
そう、つい最近まで動いていた本当の人間が、氷に閉じ込められているのだ。
「オオオオオオオオオオオオオオ!」
この近辺に獲物がいる。
そう判断したイーライは慎重に行動するのではなく、逆に大声を出して挑発した。
なんのことはない。イーライを含め異常な力を持ち、プライドが生存本能を凌駕した者は挑発されることを酷く嫌うため、騒げば勝手にやって来てくれることが多くなる。
「所詮は犬っころだな」
急速に膨れ上がった気配にイーライは嘲笑を向けるが、自分も同類だという自覚はあるのだろうか。
「ガアッ」
だがその気配の前に、通常の生物である灰色の狼の群れがイーライに襲い掛かった。
イーライは容易く捌く。
特注の剣を握り締め、常人の頭蓋骨を容易く潰せる膂力と、類まれなる動体視力を駆使して、鼻歌でもしそうな気軽さで次々にやってくる狼を屍に変えていく。
厚い毛皮や骨など関係ない。無理矢理断ち切られた肉塊が内臓をこぼし、瞬く間に周囲は血生臭い地獄と化す。
パキリとなにかが罅割れた音が響いた。
「おっと」
イーライの周囲を侵食するように、あちこちの木々に霜が付くと、彼は念のために地を蹴って距離を確保する。
直後に現れた狼は異常の一言だ。
通常の個体よりは三倍は大きな巨躯。青い体毛には氷が付着し、口からは冷気が漏れ出している。
(思ったよりもちと面倒臭いな)
氷狼はイーライが想定していた倍の速度で、周囲を氷漬けにし始め、彼に若干の面倒を感じさせた。
下手に近寄ると鎧と皮膚がくっ付くが、近寄らなければ報酬を手に入れることができない。
ならば近寄らずに殺せばいい。
「誰も見てないなら使うか。【破壊】発動」
様子見をして隙を突く。駆け引きをする。
それは弱者の行ないだと言わんばかりに、イーライは切り札を切った。
「っ⁉」
氷狼の体が爆ぜて、その周囲の大地も衝撃で陥没した。
圧倒的なエネルギーを叩きつけるスキル【破壊】は、言葉通り万物尽くを破壊する。
それは氷狼も例外ではなく、人を容易く氷の彫刻に変えてしまえる怪物の皮膚や肉は裂け、血管はズタズタになり血しぶきを上げ、単なる肉塊と化して倒れ伏した。
「ふん」
イーライは嘲って鼻を鳴らす。
ただでさえ様々な戦闘スキルと天性の才能。更にはこんな生物への絶対的な有利を持って高慢にならない筈がない。
彼は力で全てを成し遂げてきた。今までも、これからもそれは変わらない。
そう信じてきた。
ただ……。
スライムもそうだが、この魔物と呼ばれる類の存在が、便利な道具を生み出そうとした神の思い付きの一環だと知れば、イーライはどう思っただろうか。
スキル【破壊】にしたって、本来は鉱山やトンネル堀りに用いられる想定だったと知れば、なんと言っただろうか。
「第二王子ジュリアスからの依頼ねえ。こりゃあ金を稼げるな」
その真実を知ることもなく、彼は破滅への選択をした。




