コミカライズ連動 “エメラルド王国とパール王国の戦争直後” 【戦神】
コミックの裏話的投稿
「レオ様、パール王国は相変わらず組織的な抵抗が出来ず、敗退を重ねています。報告によれば今現在のエメラルド王国軍はこの辺りに」
「うむ」
部下が齎した報告に、サンストーン王国が誇る【戦神】レオが頷く。
その顔には隣国の戦争に影響されたのか、抑えきれぬ笑みが浮かんでいたが、思考はかなり冷静だった。
(まだだ。勝てるが今動けば妙な痛手を受けかねない。動くならエメラルド王国がパール王国に、もっと深入りした後だ。こちらが補給線を断って陣を敷き十分な備えをしたのと、連中が返ってくるのがほぼ同じになるように調整する……容易いことだ!)
パール王国に攻め入ったエメラルド王国の補給線を断つ戦略上、戦う場所はどうしても相手の地元になる。そして中途半端なタイミングで攻撃を仕掛けると、戦地から戻ってきた遠征軍と現地の軍に挟撃される恐れがある。
このリスクを嫌ったレオは、浮かれる気持ちを抱きながらも、冷徹に彼我の戦力と編成、状況を見定めていた。
そして踵を引っ張られていない今現在のレオは、持ち帰られた情報と今現在の時間差を容易く修正し、エメラルド王国軍がどこにいるかをほぼ誤差なく把握していた。
「改めて述べるが、戦地では俺も前に出る」
それから暫く、基本的な戦略を武官と確認したレオは、家臣たちの懸念を理解した上でこう断言した。
「【戦神】が前に出て調略をするのと、後ろで腕を組んでいるのとでは効果が違う」
単純にレオが最前線に出たいという気持ちもあるにはある。だが最大効率を求める【戦神】としても、それが最適解だった。
エメラルド王国が、サンストーン王国を横やりを入れてきた連中だと思うのと、神の名を冠するスキル持ちが、奇襲戦争を仕掛けた卑怯なエメラルド王国軍を征伐するために、軍を率いてきた。とでは、与えるインパクトがまるで違う。
そしてこの名分は自軍にも有効で、これを上回る大義と士気の上げ方があるとすれば、古代アンバー王国の双子姉妹が絡んだときだけだろう。
後年、本当に形になるが、今は関係ない話である。
「これも重ねて述べるが、弱兵は連れてくるなよ。末端も必ず演習に参加した者だけにしろ」
「はっ」
常備軍の考えを持っていたレオの言葉に貴族達が頷く。
大雑把な地図を眺めるレオの目は、エメラルド王国の補給路を正確に捉えており、大小関わらず全てを寸断する機動戦を展開するつもりだった。
その後はエメラルド王国の遠征軍を待つ忍耐も必要なため、長距離の移動や待機中に文句を言い始める農民は数に入れられないのである。
(エメラルド王国の戦い方に見るべきところはない。奇襲で慌てふためいているパール王国を叩き潰しているだけだ。両軍ともに妙な軍師やスキル持ちが紛れていたとしても、戦略で負けているならどうしようもあるまい)
レオが見たところ、奇襲で腰が砕けているパール王国も、そして遠からず自分の手によって補給網が寸断されるエメラルド王国も戦略で負けている。
ならば後は遠慮くなく粉砕するだけだ。
(あとはどれほど俺の軍が実戦で動けるかにかかってるな。エメラルド王国の薄い防衛線を破り、満身創痍で戻ってくる遠征軍を叩きのめし、将兵に実戦と勝利を経験させる。その後に士気が高い状態で都市を囲み、救援にやって来た寄せ集めの軍を決戦で破る)
レオに懸念があるとすれば、訓練は十分積んでいる自軍が、実戦でどれほど動けるかという点だ。
そのためいきなり敵主力とぶつかり合うようなことはせず、比較的弱い獲物を狙い勝利で自軍を酔わせた後、なけなしのエメラルド王国を粉砕するつもりだった。
(世界にサンストーンの、俺の名を轟かせるのだ!)
彼は彼なりにサンストーン王国を愛していた。
だからこそ偉大なる自身の名と太陽石を永遠のものとするべく剣を手に取る。
「出陣する!」
ついにその時が来た。
まさに太陽が煌めくその日、覇気を漲らせた戦神の軍が出陣する。
嫌々ながらも国体のために弟ジュリアスが後方で物資を整えた万全の軍は、当時の軍事的常識を遥かに超える速度でエメラルド王国に雪崩れ込む。
「ふふふ。ははははははははは!」
戦神が笑う。
戦場で敵は何をされたくないのか。自分はどうすれば最大の傷を与えることが出来るのかが手に取るように分かり、人馬一体となったレオを止められる存在は、少なくともこの戦いではいなかった。
完成した粛清機構リリーならば殺せるが、逆に言うと史上最高の暗殺者を引っ張り出さねばならないのが、戦地にいる戦神だ。
「粉砕せよ!」
目は敵のあらゆる動きを見逃さず、指のように軍を動かすレオは役割を将に限定すれば無敵だった。
こんな完璧な戦神だからこそ、余計な横やりを入れてきて軍の戦略方針をぶち壊す父が許せなかったし、行軍停止の王命を持ってきた無能も許せないのだ。
レオは軍事的正解を選び続けている確信があるし、客観的に見てもその通りだった。しかし、いつの時代も軍事的正解が国家の正解になるとは限らない。
『……』
神の名を持つスキルの脅威度を測っていたナニカがじーっと見つめ続けていた。
偉大なる軍が疾駆する。
緑玉を完全に粉砕し、蒼玉を弾き飛ばし、水晶を握り潰し、ついには神の国にすら刃を届かせた軍は、間違いなく世界最強の代名詞だった。
例え途中で戦神を失ったとしても。
十分な支援体制で戦争させたら、マジで手が付けられない男。
但しなにやってもハンニバルとスキピオには負ける。




