前話補完 引っかかった【政神】
エメラルド王国との戦争において、王命を無視して軍を率いたレオは反逆者同然だ。
あくまで軍権はアーロン王のものであり、命に背いて軍を掌握し続けたなら忽ち反乱軍と化すため、常識的に考えるとレオが王位を継承する可能性はなくなった。
ジュリアスがやらかさなければの話だ。
レオに退くなと念押しされていたにも拘らず、身の安全を確保するため後方に移動しようとしたジュリアスは、危うく全軍崩壊の切っ掛けを作りかけてしまう。その上で王に敬意を示さない反逆者ともいうべき男を連れて来たなら、ジュリアスの王位継承も怪しい。
だがエメラルド王国を制圧後、王城の資料を押収したジュリアス派の文官が、奇妙な希望を持ってきた。
「これは……使えるぞ」
思わず手が震える程の興奮がジュリアスの背筋を駆ける。
文官が押収した資料はパール王国の秘密組織の長と、エメラルド王国が裏で繋がっていた証拠で、計り知れない利用価値が存在していた。
だからこうも容易く騙されるのだ。
「ジュリアス様、例の人物から連絡が」
「うむ」
早速行動を開始ししようとしたジュリアスだったが、それより早く接触してきた例の人物ことフランクを脅迫した。
このことをバラされたくなければ協力しろ……と。
するととんでもない厄ネタが飛び出した。
(【傾国】だと⁉)
パール王国は【傾国】や【傾城】を使って、サンストーン王国内を混乱させる計画を実行し、それがほぼ成功してしまっていること。
そのためアーロン王は事実上操り人形で、レオもまたその影響下にある可能性が高いことも知らされた。
(やはりサンストーン王国を救うのは俺しかいない!)
ジュリアスは己の使命を確信したが……。
暗がりで毒蛇が嗤う。
何が至高なる神。何が【政神】。
もう暫くは駆け引きが続くと思っていたら、目先に人参をぶら下げただけで走り出すではないか。
(しかし醜いな……)
ジュリアスが顔も知らないフランクを蔑む。
文面からは自己保身が滲み出て、おべっかいの悪臭がするのだからそれも仕方ない。
(まあ命を握られている様なものだ。如何に裏の組織の人間でも、こうなってはどうしようもあるまい)
ただ、ジュリアスの油断と評するのは酷だろう。
この件を知ればフランクは国を裏切った明確な証拠を握られているため、彼の生死はジュリアスの機嫌次第だと、誰もが思うに違いない。
それ故にもう一度表現しよう。酷だ。
いったい誰が、フランクが祖国を滅ぼすために人生の全てを捧げ、なにもかもを演じていると思うのか。
ジュリアスは至極当然の常識を抱き、これまた至極当然の結論をしたに過ぎない。
なんならフランクはジュリアスを利用しつつも、別に彼の野望そのものには興味がないため、直接害を加えるつもりがない。神の視点で見ると持ちつ持たれつの関係と表現することも出来た。
フランクにとって重要なのは、パール王国の陰謀が暴かれて攻め滅ぼされることなのだから、レオだろうがジュリアスだろうがどちらでもよかったのだ。
「私の暗殺計画だと⁉」
尤もジュリアスは非常に操りやすかったので、フランクにとってはかなり便利だった。
特にサンストーン王家暗殺の計画があることを知ったジュリアスは盛んにフランクとの連絡を取り始め、両者の奇妙な連携は密になる。
実際は計画立案から実行まで、全てフランクの働きかけが原因だったものの、最終的に国王が決定したので、フランクが流した情報は決して嘘ではない。
困ったことに蛇が垂らす毒液は殆ど全てが真実という猛毒であり、パール王国を滅ぼすという一点以外に裏がない。
そのため探ろうとしても、正しい答えに辿り着きようが無かった。
「パール王国め! 必ず滅ぼしてやる!」
真実という毒に浸されたジュリアスが決心する。
彼にすれば【傾国】を国内に持ち込み、更には自身の命を狙う国家など百害あって一利なし。
暗殺騒動の頃には半ば呆れていたフランクの予想通り、ジュリアスはパール王国を滅ぼすことに決めた。
一方、レオもまたパール王国の暗殺者に襲われることになり、支援が届かないこともあって恨みを募らせていく。
事態は全てをぶち壊されながらも、再び修正しきった男の掌の中だった。
『おほほほ。さて、どうなることやら』
この世界においてのみほぼ【全知】に近しい存在は傍観を決め込んでいた。




