後世から見た第四王妃イザベラ
イザベラ
エレノア教女教皇。ジェイク・サンストーンの第四王妃。
彼女の人生を纏めると一つの辞典になるため、サンストーン王国と関わる以前の出来事は大幅に省略する。
前女教皇に育てられたとされるイザベラは、幼少期から次期教皇の立場として尊重され、エレノア教内では特別な存在だった。
興味深いことに、古代アンバー王国崩壊直後に成立したエレノア教では、長い歴史を持つ宗教勢力とは思えない程に教皇争いが起こらず、常にスムーズな権力譲渡が行われていた。
イザベラも同じで、当時の教皇が死去するとすぐさま地位を引き継ぐ。そしてエレノア教の習慣に従い各地を巡礼し、各国の王家や宗教勢力との関わりを維持する。
しかし各地を巡礼することから、放浪や流浪の女教皇とまで言われた代々のエレノア教皇とイザベラが違った点は、サンストーン王国に正式な大神殿を建設したことだろう。
当時の王と会談したイザベラは突如として大神殿建設を決定し、以降は紆余曲折があったものの、サンストーン王国を中心にして活動した。
この千年間の習慣を破り、一か所で活動したイザベラは改革派と呼称されることもあるが、あまり主流な考えではない。
単に千年の習慣を破るのならば、多くの信徒が動揺しただろう。しかしそのような痕跡はどこにもない上に、このすぐ後、目に見えて分かりやすい理由が発生した。
エメラルド王国が引き起こした奇襲戦争は、サンストーン王国周辺を混沌の渦に叩き込む。そして後に誕生した遠方の王政同盟にまで波及したことを考えると、とてもではないが巡礼が行える治安ではなくなったのだ。
つまりイザベラは改革を行いたかったわけではなく、恐らくは途轍もない人脈でエメラルド王国を中心にした混乱を予想し、大神殿を中心にして生き残りを図ったものと見られている。
実際、大神殿にいるエレノア教の教皇と信徒を襲うなど、『少なくともこの当時は』絶対にあり得ないため、一か所に留まり様子を見ようとしたイザベラの判断は正しいだろう。
更にこの後、アマラ、ソフィーという生きた王権が大神殿に宿泊したため、この地の権威は比類無いものと化した。
ただし、そんなイザベラでもサンストーン王国の後継者問題。もっと言えば王の優柔不断は頭痛の種だったことだろう。
そして案の定、第一王子レオと第二王子ジュリアスが争う奇妙な内戦に発展し、イザベラたちは騒動の中心で孤立することになる。
これを油断や慢心と評するのは酷だろう。
この状態の大神殿が戦乱に巻き込まれる。などと当時の人間が言えば、その日のうちに関わってはいけない人間の烙印を押されるに違いない。それだけの権威が彼女達にあったのだ。
しかし起こった。
王都で反乱を起こしたジュリアスは大神殿を囲うどころか放火し、一時期だがイザベラは生死不明になる。
その後、凶行は瞬く間に拡散されジュリアスに致命傷を与えたが、当事者であるイザベラはアゲートで確認された。
脱出に成功したイザベラは、アゲートの地に多少の関わりがあるアマラ、ソフィーの勧めで避難したものと思われる。
そして経済的に困窮していたレオを頼らず、アゲート大公ジェイクに逆賊ジュリアス討伐を依頼。
エレノア教の旗まで貸し出し、後の王へこれ以上ない大義を提供した。
内乱終結後は、大神殿が焼け落ちたため一時的にサンストーン王国の王城に滞在。
特に影響力は発揮しなかったようだが、ジェイクとの交流は度々行っていたようで後の騒動に繋がる。
次にイザベラの名が大きく歴史に刻まれたのは、隣国に神王国が成立し、奇妙な敬意が人々に伝播した時だ。
伝説に語られ、千年間エレノア教が保管しているのではないかと噂された石の王冠を持ち出し、ジェイクが行う偽神討伐の大義を提供した。
ただこの石の王冠は、ジェイクではなく再びエレノア教が保管しており、それは現代においても続いている。
この物理的な権威と古代王権の後押しもあり、ジェイクは神王国に勝利したが、周辺各国が荒れているのは変わらず、イザベラはサンストーン王国に留まり続けた。
そして後に、イザベラ、アマラ、ソフィーを王妃に向かえるという発表がサンストーン王国からされると、世界中が大きな混乱に陥った。
どうやらイザベラは長く交流を続けるうちにジェイクに惹かれたようだし、不老不死でなくなったアマラ、ソフィーがその血筋を残すなら、発展し続けている大国の主、ジェイクが適任になるのだ。
尤もこの騒動、後に神王と呼ばれる長男クラウスがいたため、王位継承などで面倒な話にはならず、イザベラの子供達はエレノア教を引き継ぎ、最古の宗派は今現在も続いている。
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☆王妃イザベラについて☆
四、五、六はヤバすぎトリプル女であるため、なんか書類やら形式的区別をするための順番は単なるくじ引きだったとかなんとか。
幼少時に関してはかなり資料が乏しくはっきりしないが、女教皇として各地を放浪し始めると、現地の貴族や王家が詳細な記録を残したため、人物像はきちんと残っている。
それらによると非常に慈悲深い慈母のような人物だったらしく、彼らがイザベラの定住を求めたのは一度や二度の話ではなかったようだ。
以上、後は専門書で。
手抜きだと言われるだろうが、イザベラはアマラ、ソフィー程ではないが、宗教的な本でこれでもかと研究されている。
つまり本格的に調べるなら、そっちを見る方が手っ取り早いし正確なんだなこれが。
だからあんまり語られてないところを話しましょうねー。
ジェイクの王妃として王城に転がり込んだ教皇様だが、政略結婚じゃないと断言できるほどイチャイチャラブラブだったらしく、他の王妃の日記。特にアマラとソフィーが遠慮なく、まーたイザベラが悶えてるわ。と記録している。
ちなみに子供が生まれた時のイザベラの日記は長すぎるらしく、当事者である長女が恥ずかしいから表に出さないと言っちゃうレベルだったとか。
まさに、愛の女神に仕える教皇と言ったところだろう。
そんなイザベラは大神殿で教皇としての仕事をしながら、後宮で他の王妃とお茶を楽しみ、自分の子供以外も分け隔てなく慈しみ、クラウス王もイザベラの表情が曇っているところを見たことがないらしい。
なおイザベラの長い髪は、幼少時のクラウスの涎でべとべとになったという日記が残されている。流石神王っすわ。
この生活はジェイクの隠居後も同じで、娘にエレノア教教皇を譲り渡していた彼女は、訪れる孫やひ孫を可愛がりまくり、毎日弾むような足でジェイクや他の王妃と楽隠居を満喫したようだ。
ちなみに長生きで、ジェイクとは歳の差がある筈なのに、彼が百歳近い大往生を遂げた後すぐに亡くなっている。
正確な年齢差とか、イザベラの年齢を追求してはいけない。いいね?
アマラ、ソフィーはもっとだ。
更に余談だが後世で、ジェイクとイザベラはもっと早い時期に繋がりがあり、サンストーン王国内乱時には、エレノア教が暗躍していたのではと陰謀論者が囁いている。
事実上幽閉されていて、アゲートなんかに飛ばされた第三王子と、最古の宗派の女教皇がいつ、どうやって繋がりを持ったんだよ!
恐らくこういった陰謀論の背景には、実際に暗躍していたアルバート教の背信者が念頭にあると思われるが、大真面目にそんなこと言ったら底なしの馬鹿扱いされるので気を付けよう。
なおアボット公爵黒幕説はそんなに馬鹿扱いされない。公爵も可哀想に。
愛に生きた女教皇にそんな裏がある訳ねえじゃん。
と言いたいところだが、この時代は本当に滅茶苦茶なので、なにかしらの隠し事はあったかもしれないし、なかったかもしれない。
こんなこと言っても誰にも咎められないなんて、いい時代だなあ!