後世から見た神王国との戦い
神王国の王を名乗ったデクスターが、明らかに弱っている王政同盟ではなく、サンストーン王国を狙った理由は諸説ある。
その中で可能性が高い説は、アマラ、ソフィー、イザベラを排除したかったというものだ。
正しい神に従う国家の主を自称する者から見ると、古代アンバー王国の血と、エレノア教の名は目障りこの上ないものだっただろう。それ故にサンストーン王国に攻め入ったと思われるが、説の中にはサンストーン王家が隠している秘宝を狙っていたとか、生まれたばかりのクラウスを危険視したから。などの荒唐無稽なものも多い。
このような説が生まれた背景には、サンストーン王国王家の血脈が長く繁栄を続けている理由付けに、神の時代の秘宝が絡んでいるとか、神々の力が宿っているから。などという陰謀論が生まれたからである。
そしてもう一つ、デクスターがクラウスを危険視していたという説だが、中興王の子は神の血が濃いという噂が後に大流行りしたことが原因だろう。
誰もが自然と敬意を抱いたクラウスの生涯は、常に神の血を継いでいるという評価が付き纏い、臣下や関わった者達。果ては国外の使者すらも、恐らくこの噂は事実だと思っていたようだ。
話は逸れるが、その神の血が事実と仮定すると説が三つ存在する。
最も有力なのは、サンストーン王の血脈だ。特に初代王は古代アンバー王国崩壊直後に活動していた人物のため、神との関わりがあっても不思議ではない。
二つ目の説は、クラウスの母である第一王妃レイラだが、かなり謎が多い人物でもある。というのも出自が完全に不明で、関わった人間もそれほど多くないのだ。
その僅かな人間達から、必ず世界一の美女という評価をされている彼女は、ある日突然、アゲート大公時代のジェイクの婚約者として歴史に現れ、それ以前の人生は殆ど何もわかっていない。
それゆえに、彼女こそが神の生まれ変わりで、偉大なる支配者のジェイクと結ばれた。というかなり突拍子がない意見もある。
最後の三つめは、クラウスの祖母。つまりジェイクの母だ。
しかしこの人物の評価は特筆すべきものがなく、また彼女の実家も大した人間が生まれていないため、可能性は無いに等しいだろう。
話を戻すが、このようなクラウスが成長する前に始末するため、デクスターが行動した。という意見だが、確かに後年、下手をすれば神と同格視すらされた人間ならば、デクスターも殺したいだろう。
しかし、幾らスキルが存在しているとはいえ、会ったこともない生後数か月の赤子の素質を見抜き、殺そうと思うのは無理があるため、やはりデクスターがサンストーン王国に攻め入った理由は、アマラ、ソフィー、イザベラのはずだ。
戦いに関しても述べよう。
なぜか二千の神王国と、三万のサンストーン王国軍が激突したのだが、特筆すべきはソフィーが攻撃したことと、神王国が【死霊術】と思わしきスキルを使用したことだ。
古代王権の生き残りが戦場に直接赴き、攻撃スキルを使用したのは最初で最後だ。
この意味は非常に大きく、石の王冠と共にジェイクへ神敵討伐を依頼したアマラと、攻撃に参加したソフィーの行い。これら二つだけで、あらゆる国家が破綻しかねない破壊力を宿していた。
戦場に、死体で形作られた巨人が現れたことも大きい。
明確な証拠はないものの、背信者が所持していたと思わしきスキルは強力かつ悍ましいものだ。そのためデクスターは、アルバート教の総本山から離脱する際、表に出せない人材を引き抜いていた可能性がある。
そしてこの死体の巨人は、デクスター達が邪法を用い、偽りの神の敬意を宿したことを表している様なもので、神敵という評価が後世でも明確に定まった瞬間だった。
しかし戦い自体は単純というべきか。
多勢に無勢な神王国は当然敗北し、神敵デクスターは討たれることになる。
◆
☆サンストーン王国vs神王国☆
神王国が、奇妙な敬意に全振りしていたことがよく分かる戦い。
二千で三万に突っ込んだんだから、何かしらのどんでん返しがあると思うじゃろ? ないんだなこれが。
多分、マジでデクスターは、サンストーン王国が敬意で跪いて歓迎してくれると思ってた。
この戦力差で勝てるのは御伽噺の中だけである。
スキルは数あれど、単独で国家を相手取れる力など存在しない。多分。恐らく。きっと。そうだといいなー。
というのも、伝説の禁忌スキル【傾国】の力が言葉通りなら、国家を打倒する可能性はある。実際、幾つかの【傾国】が関わっていると思わしき事例では、国の背骨が折れたような事態が起こっている。
なお、ジェイクの奥さんたちが美人揃いで有名なため(特に第一王妃レイラ)、現代では【傾国】が混ざってたんじゃね? とか言われることもあるらしい。
その場合、我らがジェイク国王陛下は、伝説の禁忌スキルに打ち勝ってサンストーン王国を繁栄させてるんですがね。
うん?つまりなんちゃって【粛清】となんちゃって【傾国】が組んでたんじゃなくて、このスキルによる争いだった?ははははは面白い冗談ですね。
伝承通りのスペックでこの両者が争ったら、天変地異が起こる筈だけど、この当時にそんな記録は存在しないので、あり得ないっすわ。
【粛清】vs【傾国】vs【通りすがりの一般スキル】
(お約束)
話が逸れました。
デクスターは、死体の巨人を操る奴以外にも、切り札的人間を抱えてたんじゃね? みたいな意見が偶に出るけど、アルバート教の総本山が人員名簿なんて出すわきゃないので、確固たる証拠は存在しない。
そしていた場合は、そいつら戦場で何してたの? という話になる。
直前にサンストーン王国との暗闘が繰り広げられて命を落とした? つまりデクスターは、直前に切り札を失っても戦いを挑んだ馬鹿になるんですが……いや、まあ、可能性はあるかもなあ……だってそういう時代だもん。
本当に頭がおかしくなる……。
というわけでもうとっとと終わらせよう!
神王国の王、デクスターはサンストーン王国に敗れ去った! それ以上でも以下でもない!
難しい話は終了! 変な陰謀とか暗闘もなかった!
そしてこの後は、いたって普通。
ジェイクはサンストーン王国の黄金時代を築き続け、クラウスがそれを引き継いだ。めでだしめでたし。
終わったああああああああ! もう当分この時代については調べねええええええええ!




