後世から見たクォーツ民意国の戦争
四万以上、五万以下と推測されているクォーツ民意国軍の行軍に関しての資料は、サンストーン王国が作成していた。
アゲート領の戦争分析班も協力したこの資料によると、クォーツ民意国軍の馬車は殆どが不良品で、サンストーン王国に辿り着いた時にはほぼ全員が徒歩。しかも壊れた馬車から物資を運んだため、重労働で疲労困憊かつ、食料が尽きているような有様で、戦う前から死にかけている様な状態だったようだ。
一説によるとクォーツ民意国の指導者層が人気取りのためにギルドを解体した結果、新規参入による手抜きが多発し、その不良品が混ざっていたようだ。
これは上位層に実戦経験がないクォーツ民意国の内情も合わさり大惨事と化す。
貴族や王族を皆殺しにした民意国だが、それは軍事的に高度な教育を受けた層が壊滅したことも意味している。そうなると軍を指揮していた者達は、前線での槍働きはしたことがあっても、軍全体を率いた経験はない筈だ。
言ってしまえば素人に率いられた軍は不備が多発し、余裕が欠片もない物資や日程になってしまったのだろう。
一方のサンストーン王国軍は真逆で、内乱終結後に粛清を行わなかったジェイクは、王国のシステムをそのまま保存しており、優秀な官僚機構や軍を運用することが出来た。
サンストーン王国は元々、旧エメラルド王国との戦争で補給や兵站の不備を起こしていない稀有な存在であり、これを築き上げたジュリアスは実務面で再評価されるべきだろう。
更に軍も確固たる指揮系統や兵種の役割分担が確立済みで、レオが作り上げた軍はこの時代に相応しくない程、高度な存在と評価する人間もいる。
仕上げに情報戦でも圧倒的に有利で、サンストーン王国はクォーツ民意国の襲来を正確に把握しており、彼らは国境付近で激突した。
この専門家を纏め上げたジェイクとクォーツ民意国では、戦う前から勝敗は決していた。
当時の資料によるとクォーツ民意国が渡河した後に橋を破壊したサンストーン王国軍は、クォーツ民意国を圧倒。ほぼ皆殺しに近い形で勝利を得る。
一部の人間は残虐非道な行いであるとジェイクを非難するが、筆者はジェイクの行いを必要なものであると断言する。
確かに当時、ひとつの軍を皆殺しにした例は殆どなく、その点では目立っているだろう。
だがクォーツ民意国は外交上の交流がない状態で戦争を仕掛けてきた、いわば野盗の群れであり、遠慮をする必要が全くなかった。
その上、民衆が民意によって暴走するという実績が存在するため、ジェイクにとって捕虜すらも危険因子になり得るのだ。
よってジェイクには選択肢が存在せず、皆殺しだけが唯一の正解だった。
さてこの直後、サンストーン王国の情報収集能力が飛び抜けていることを証明した戦いが起こる。
王政同盟との戦線において物資と金銭が必要になったクォーツ民意国は、即座に運ぶため海路を選択したようだ。
しかしサンストーン王国海軍がこれを奇襲し、全てを奪い去る戦いが起こった。
この戦いはサンストーン王国がクォーツ民意国の行動を全て把握していた証拠に他ならず、無茶苦茶な騒ぎが起こった国の内部でも、しっかりとした情報網が残っていたのだろう。
結果的になんとか捻出した物資や金銭を奪われたクォーツ民意国は心臓を破壊されたに等しく、債務者が有り金全てを賭けた大博打は失敗した。
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★クォーツ民意国の大暴走と大失敗について★
相手が悪かったですね。以上。それじゃあまた来年。
真面目な話をしろ? 割と真面目なんだなこれが。
救いようがない程に馬鹿なクォーツ民意国の相手は、なんちゃって内乱の混乱があったとはいえ、超大国を維持しているサンストーン王国だ。
野盗と正規軍同士がぶつかり合うようなもので、多少数で上回っていたとしても、覆しがたい差がそこにはあった。
サンストーン王国の構成は国家の支援が無ければ成立しない重装騎兵。長弓隊。スキル所持者の部隊。場慣れした兵。歴戦の傭兵。更には王直轄の常備軍に、盤石の後方支援体制ときたものだ。
クォーツ民意国軍? つい最近まで……というか現役の農民さん、猟師さん、市民さん、ゴロツキさん、若者さん。まあ、そんな感じである。
無理無理。
国全体がいけるいける。大丈夫大丈夫。勝てる勝てる。で、行動した結果、四万以上の人間が死ぬことになった。
後年、こっちが赤面してしまうような妻への日記が漏れてしまうジェイクだが、必要な時に容赦なく振舞える王でもあり、臣下達からは敬意と畏怖が混ざった記載をされることもある。
そして王政同盟との戦いも事実上敗北したことでクォーツ民意国は、二正面作戦に大失敗(負けフラグを回収)して失意のどん底に真っ逆さま。
じゃあ何が起こる?
そうだね責任の擦り付け合いだね!
僅かに残った資料によると、戦争責任を押し付け合ったクォーツ民意国の指導者層が粛清パレードに突入してしまい、かなりの人間が吊るされたようだ。
まあこんなのは古今東西どこでもあることだが、一つ特異な点があるとすれば……。
また変身したことだろう(白目)
個人は苦痛に耐えられても集団は必ず楽な方に走ると表現したジェイクの日記通り、思考を放棄した民意は新たな形の独裁、神王国を作り上げた。
独り言だが、もう少しでこの滅茶苦茶も終わる。よかったぁ……。




