後世からみたジェイク・サンストーン 内乱の終わり
エレノア教大神殿炎上。それから少々後に、もう一つの大事件が起こる。
レオがアゲート大公領に対し約二千程の兵を派遣したのだ。
この原因は困窮していたレオが、旧エメラルド王国領復興の拠点となっていた、アゲート大公国の物資、金銭を狙ったものと見て間違いない。
その上、高慢と表現するべきか、レオがジェイクに協力を要請した資料は今現在も発見されておらず、この行動は事実上の強奪を目的にしたものである。
だがアゲート大公国は、アマラ、ソフィーの古代王権がアーロン王に要請する形で成立しており、単なる属国とは言えない存在である。
それでもレオは強行しているが、恐らくジュリアスを打ち砕きアマラ、ソフィーを助け出した後なら問題ないと考えた。もしくは、そんな配慮も出来ない程に追い詰められていた。あるいはその両方か。
尤も行動を起こした直後に邪魔されるとは夢にも思っていなかっただろうが、よりにもよって派遣した軍が、避難している最中のアマラ、ソフィーに遭遇し、非難声明を送られている。
この古代王権による非難声明は異例中の異例であり、確認されている限り歴史上初となるものだ。
何度か述べたが今とは比べ物にならない程、古代アンバー王国の名は重く、その直系である二人に非難されたレオは、比喩ではなく政治的に死んだも同然だった。
そしてアマラ、ソフィー、イザベラは、大逆悪を働いたジュリアス討伐にレオは相応しくないと判断し、最後に残されたサンストーン王国の血脈、ジェイクに接触する。
幾つかの資料によれば、三人の高貴な者の来訪にジェイクは大いに驚いたとされる。流石に後の再統一王と言えどもまだ二十代の若者では、それこそ世界三指と言っていい立場の者達の相手は荷が重かったようだ。
しかし天からの助けだ。
チャーリー卿の記録によればイザベラが、ジェイクと婚約者(のちの第一王妃レイラ)の結婚に立ち会うことを提案し、アマラとソフィーも出席。
この後押しを受けたジェイクは、サンストーン王国の混乱を治める者であるという大義名分を得て行軍を開始。
失策を重ねていたレオから離反した貴族が合流し、瞬く間に大軍を形成して王都へ向かう。
大義の行軍や正統性の行軍などと呼ばれるこれによってレオ陣営は瓦解した。
しかしレオの末路については諸説あり、はっきりしたものが存在しない。
最も一般的な説は、パール王国への亡命途中に野盗と遭遇し、殺されてしまったというものだ。
そしてその説を信じる者は、野盗に襲われて死んでいるのに、近衛兵百人に囲まれて脱出できるはずがないので、稀に語られる脱出劇は嘘だと断じている。
大義の行軍がサンストーン王国王都に到達すると、近衛兵が裏切りジュリアスを殺害。
サンストーン王国の神スキル兄弟は、あっけなく退場することになる。
更に彼らの父であるアーロン王も末路はあまりよくなかったのか、内乱終結後は公的な記録が存在せず、いつ死んだのかも、死因も分かっていない。
この扱いについて、ジェイクの復讐だった説と、あまりにも失策が多かった父を、ジェイクですら持て余していたから、いないものとして扱ったという説が存在する。
更にアーロン王の死因については幾つもの説が存在し、単なる病死などだけではなく、ジェイクの命令や、不安要素を嫌ったアボット公爵が関与した説などもある。
それはともかくとして、内乱状態だったサンストーン王国はサンストーン姓に戻ったジェイクの手により、強固な体制を築き上げていくことになる。
ーーーーーーーーー
★内乱最後期のジェイク国王陛下について★
なんかこの辺りのジェイク国王陛下はやたらと美化されて語られており、これも使命か……とか、神の御意志か……なんていうシーンで印象付けられることが多い。
貧乏くじ引くしかねえのかよ……みたいな感じだと思うのは我々一部界隈だけだろうか?
元々いがみ合ってた兄二つの派閥を纏め上げ、役に立たない父親を排除して、あれこれしなければならないとか、誰がどう見ても貧乏くじ以外のなにものでもない。
親父がとっとと王位を譲らない上に、教育方針を間違ったからこんな目にあうんだ。
ジェイクがそんなことを思っていても不思議ではない筈だ。
冗談はこの辺にしておいて(割と冗談ではない)、アマラ、ソフィー、イザベラの後押しを受けたジェイクは、完全無欠のパーフェクト超人と化した。
これもまた冗談ではなく、少なくとも逆賊ジュリアス討伐においてジェイクは、政治的に無敵人間であり、公爵相手でもお前内乱に関わったよなと言った瞬間、相手が弾け飛んでしまうレベルである。
だが驚くべきことにジェイクは、大義の行軍中やその後も貴族に対する粛清を行っておらず、国内の再統一を優先している。
なお親兄弟に対しては塩対応な模様。仕方ないね。多分、ジェイクにすれば自分を殺そうとする赤の他人レベル。
結局、神スキルを持っていた第一王子レオは諸説あるものの、恐らくパール王国で非業の死を遂げ、第二王子ジュリアスも裏切り者に相応しい死に様。アーロン王も色々とはっきりしないため、驚くほど血が流れなかった内乱に比べ、サンストーン王家はかなりおどろおどろしい最期を迎えている。
しかしサンストーンという国家自体は最初の黄金時代を迎え……その隣で民意は魔法の言葉ではなく、衆愚と紙一重という教訓を残してくれたありがたい国が誕生する。




