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「おおっと、どした?」


 クラウスが離乳食を食べながらパタパタと手足を振り回していた頃、神王国とサンストーン王国の衝突は避けられないところまで迫っていたが、あまりにも対照的だった。


(き、緊張する……すっごく緊張する……初陣でもここまでじゃなかった……)


 国境貴族の中心的立場まで上り詰めているエバンは、自領にいる者達から勝手にプレッシャーを受けていた。


(アマラ様、ソフィー様、イザベラ様に加えて石の王冠まで俺の領地に……神様、何がどうなっているか教えてください)


 このエバンの気持ちを知れば、多くの貴族は羨ましく思いながらも心底同情するだろう。


 普通に考えれば古代王権の双子姉妹とエレノア教教皇が自領に訪れたなら、末代まで語り継ぐに相応しい名誉である。


 それに加え伝説に語られる石の王冠まで加わっているのだから、この名誉を明確に上回るのは神の来訪しかないと断言されるだろう。


 つまり普通の王でも手に余る事態なのだから、エバンには少々荷が重かった。


 なお、イザベラは神を喰らった悪神だし、紛い物の自称神もやって来ているので、この地は混沌という言葉が最も相応しいのかもしれない。


(俺に絵心があればなあ。領地にあの旗がある光景を絵にするんだけど)


 武功で成り上がった逞しいエバンは芸術的感性が無いのを残念に思う。


 サンストーン王国の旗、古代アンバー王家の旗、エレノア教の旗が揃っているのは内乱を終わらせた大義の軍勢以来で、二度あることは三度あると言えない大事件だった。


(よし、現実逃避は終わりだ。これで間違いなく勝てる!)


 流石は百戦錬磨の男、切り替えが早い。


 奇妙な違和感を感じる敬意で浮足立っていた国境だが、古代王権とエレノア教が共同で相手を神を偽る偽神、神敵と認定した上で、王権そのものである石の王冠が背後にあるのだ。


 惑わされそうになっていた者達は、上回るのは明確な神の復活以外に存在しない最上の権威でぶん殴られ正気に戻った。


 そしてこのままでは戦わずに敗北するかもしれないと危惧していたエバンを安堵させ、盤石な軍勢が整えられていた。


 一方……。


 ◆


「はあ、はあ……」


 夜が近くなり野営をしている神王国の兵達は息も絶え絶えだ。


 補給が乏しく行軍中に倒れる馬が続出し、何とか国境沿いに辿り着いたが戦える状態では全くなかった。


 しかし、元々戦うことを想定しておらず、ひれ伏すサンストーン王国の民達が捧げる物資でなんとか一息付ける筈だと思い込んだ楽観の軍は、待ち受けている軍勢を知らない。


 一部は知っていたが。


「ドナ様。軍勢が国境に集結していますが、その中にサンストーン王家、古代王権、エレノア教の旗を見つけました」


「なにっ⁉」


 念のために偵察を行わせた部下からの報告を聞いたドナは、驚愕と歓喜で飛び上がりそうになった。


(出迎え……の筈は無いな。エレノア教の旗などすぐさま折る必要がある)


 一瞬だけ神を出迎えた殊勝な心掛けを持つ者達かと思ったが、軍勢であるならばその可能性は少ない。そしてエレノア教の旗があるとなれば、明確な敵と言っていい。


 だからこそドナが喜んだ理由は……。


(王とイザベラを殺せば私の功績が最も大きい!)


 慢心と過信から生み出された妄想だ。


 デクスターの最側近を巡って争っているドナは、分かりやすい功績に目が眩んで他のリスクを一切無視した。


(双子姉妹に関しては……どうされるのだろうか? よくよく考えてみれば、デクスター様の古代王権や古代アンバーに対するお考えを聞いていないな。一旦だが保留しておくべきか……)


 ただ引っかかりも存在しており、ドナはデクスターの持つ古代王権への考えを知らなかったため、とりあえずジェイクとイザベラに狙いを定めることにした。


 ここでデクスターの話を聞く発想を持たないということは、つまり……。


「軍勢に忍び込んでサンストーン王とイザベラを討つ」


「はっ!」


 ドナは今から内密の独断専行を行うのだ。


 確かに彼と背信者の精鋭が集まれば、軍の中枢まで忍び込み王を討つことも難しくない。


 難しくないのだが情報を自分の物にして、武功だけを求める辺りが無能としか言いようがない。情報を共有したところで大した違いはなかったが、少なくとも出くわすのは少し後になっただろうに……。


「なに? 軍勢だと?」


 同じタイミングでドナの双子の弟、ナタンも独自に派遣した部下から報告を受けていた。


「軍勢に忍び込んでサンストーン王とイザベラを討つ」


 流石は双子。流石はおままごとで遊んでいるお友達。


 ドナと全く同じ思考から全く同じ結論に至ったナタンは、兄や同僚のバティストを出し抜くため部下を引き連れ夜の闇に紛れる。


 奇遇なことにドナとナタンが率いている精鋭はそれぞれ十人。全てを合わせて二十二人。


 誰も気が付かないうちに二十一人になった。


(アルバート教の聖印。軍の中に入って混乱を引き起こせる手練れ。普通の兵は足手纏いになる。それならここで殺す)


 単なる軍なら王の首だろうと狙えた者達は、蜘蛛の巣よりももっと悍ましい探知網に引っかかり、よりにもよって夜の森で全力稼働している【傾城】に捕捉された。

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― 新着の感想 ―
カウントダウンは早そうだな。でも22から開始してるから最短22秒はもつんじゃないかな?まあ分だとしても結果は大して変わらんかも知れんが。去らば最精鋭部隊!
「22人の刺客がいた」 「一人が傾城に捕まり、21人の刺客になった」 ……さて、『そして誰もいなくなった』になるまで後何分……
あー終わったわ…いや始まったのかな?
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