プロローグ・不老不死たる【毒婦】と【妖婦】の双子姉妹。その事情
本日投稿2話目です。ご注意ください。
ハイファンランキング5位になってて狂乱しながら、それなら勢いのままゴールデンウィーク中に全ヒロイン出さないとと思ってやり切りました!
不老不死。永遠の若さ。永遠の命。なんと甘美な言葉なのだろう。
そんなものは呪いに決まっている。老いず、朽ちず、そして死なず。ではない。死ねず。友人知人親類縁者に愛する者。その全ての死を看取り、それでも自分は決して死ねないのだ。しかしそれはジェイク達の世の1000年ほど後、世界に平穏が満ちて寿命も遥かに延びている国、もしくは時代での価値観だ。もっと死が身近で国家は弱肉強食、人より遥かに強靭なモンスターと呼ばれるモノ達が蔓延る世界では、常に人は死の恐怖に怯えているため、叶うのならば誰もが望むだろう。その永遠を。それが頂点に立ち、富も名誉も女も望みのままならば、猶更手放したくないに決まっている。
そして不老不死は夢物語ではなかった。
◆
「よくぞ来てくれた」
「退屈だったからな」
「ええ」
アーロン王が女2人に声を掛けるが異常なことだ。幾ら王城の中とはいえど、アーロン王はお供も連れず、外部の女2人と会っているのだ。しかもである。その女達の言葉使いときたら。王に対するものとはとても思えない。通常ならそのまま首を撥ねられるだろう。
いや、実は逆だ。アーロン王こそこの2人に内心どうあれ敬意を払わなければならなかった。
その女達こそ不老不死である“女帝”アマラと、その妹である“占い師”ソフィーだ。まだギリギリ神々が形を保っていた時代。既に滅んでいるが、石の冠を戴いた原初の王が太古に打ち建てた、アンバー王国の王族の末裔として生を受けた彼女達は、今に至るまで若さと美貌を保ったままであり、関りがあった幾つかの宗教派閥は、彼女達を正式にその太古の王族であると認めて、それに準じた扱いをしていた。その上、殆どの国の王家が原初の国の流れを汲む、またはその血が流れていると自分達の王権の正しさを主張しており、それはサンストーン王国も例外ではなかったため、彼女達は非常に権威ある存在なのだ。
しかし双子の姉妹なのに対照的な2人だった。
琥珀色の髪と瞳、溢れるような気品は同じだが、姉のアマラは腰まで届く長い髪で、服の上からでも分かる程起伏の激しい男好きする体をしている。そして今は不遜な笑みを浮かべて足を組み、スリットの入ったスカートから艶めかしい肌が見えており、アーロン王は相手の歳を考えず好色を覚えていた。
一方のソフィーは、この時代の女性では珍しいほど短い髪で、アマラに比べてスレンダー。しかもやはりこの時代では異端なことにズボンを履いているため、物語の中でしか登場しない男装の麗人と呼ぶに相応しいのだが、その表情は冷たいものだった。尤も、別に長生きしすぎて精神が摩耗しているという訳ではなく、元々そういう顔付なのだ。
そして実はとんでもなく強くて、今まで不老不死を求めて監禁しようとした者をぶっ飛ばしたりなどの逸話を持つ彼女達だが、何より有名なのはアマラが持つスキル【製薬】が極まった結果、不老不死の薬を生み出せることだろう。
そう、太古の神が生み出した秘宝ではなく、現実として不老不死の薬を現代に生み出すことができる。というのは少々虫が良かった。彼女と同じアンバー王家を由来に持つ者に限った上で、この薬と完璧に適合した者が不老不死になれるのだが、それは現在のところまでアマラとソフィーしか確認されていなかった。
しかし、実例があるのなら自分もそうなると思うのが人間だ。その上スキルで作った薬は元手が掛かっていないこともあって、アマラはその薬をかなり気軽に渡すので、非常に多くの人間が飲んでいたが、やはり適合した者はいなかった。
一方、妹のソフィーもアマラ程ではないが有名で、在りし日の王国の宮廷魔法使いに、史上最も偉大な魔女になるだろうと言われたこともそうだが、スキル【占い】を持ち、中でも人物の将来を占うと必ず当たると言われていた。
「ところで薬は」
「心配せずとも持って来ておる。尤も、不老不死になるのは薬に適合出来ればという条件があるが」
「おお!」
アーロン王の目的もまた不老不死だ。永遠の玉座。永遠の至高。永遠の命。永遠の享楽。永遠に女を貪れる。欲するのも、そして保ち続けるのも人の望みだろう。
「そういえば聞きたかったのだが、占いで適合するかどうかの判別は?」
「双子なのが悪い方に働いているようで、姉さんの力から生み出された薬に関しては見通せない」
「なるほど」
そこでふと、アーロン王が長年持っていた疑問を口にするが、どうやらソフィーの占いは姉の薬に関しては通用しないようだ。
「それでは占いだ」
「ああ」
その不老不死の薬を飲むには条件があり、まず双子姉妹とその当人の3人だけの空間を用意し、そこでソフィーの占いを受けてからでないと、アマラは薬を出さなかった。国王としては護衛がいないなど避けたい条件なのだが、不老不死の薬には誰もが目が眩み、その条件を飲むしかなかった。なお余談だが、その条件を破って、影に潜めるような闇スキルを持つ護衛を配置していたらバレてしまい、話がご破算になって泣きながら謝り倒した王がいた。尤も、許して貰えて薬は飲めたが適合しなかった。
「では占う」
ソフィーがどこからともなく大振りな水晶玉を取り出した。異空間に仕舞ってあった物だが、そんな芸当が出来るのは極一部の魔法使いだけだ。
「避けられない死が迫っている。まだ詳しくは分からないけれど、藻掻き苦しんで死ぬのは間違いない」
「げえっ!?」
少しの間水晶を覗き込んでいたソフィーが、アーロン王にその悍ましい未来を告げると、彼は王にあるまじき悲鳴を上げて顔を蒼白にしてしまう。
「い、い、いったい何が!?」
「まだ分からない」
「なに、これを飲んで適合すれば問題ない」
「お、おお! こ、これが!」
焦ってソフィーに詰め寄るアーロン王だが、アマラが懐から透明な液体が入っている小瓶を取り出して手渡すと、救いそのものを手にしたとばかり喜んで一息に飲み干した。
「ど、どうだ?」
「残念だが適応しなかった。すれば妾は一目で分かる」
「そ、そんな……うん?」
そして自分に何か変化はないかと尋ねたが、アマラの答えは非情であった。それに絶望していたアーロン王だが、何か変なことがあったのではと不思議そうな表情に戻った。
「事前に言っていた占いはしなくてよかったのか?」
「ああ」
「ええ」
確かに自分の死を宣告されたのに、それを完全に忘れているアーロン王を、双子姉妹は気にしていない。
「ところで聞かれた事に答えてほしい」
「なんだ?」
「子供は第一王子と第二王子だけか? 結構あるのだ。隠し子がいて見落としが」
「追放した第三王子がいる」
「やはりか。どこにだ?」
「知らん」
「なんとまあ」
アマラから聞かれたことに素直に答えるアーロン王だが、実はこの男、第三王子、つまりジェイクを追放したが、屋敷の手配は官吏達が行っていたため、どこにいるか全く知らなかったし知ろうともしなかった。
だが……そんな存在のことを話していることが異常だ。
「よろしい。なら次は第一王子から始めよう。ではさらばだ」
「不老不死が……ああ……」
アーロン王は不老不死への望みを未だに持ちながら部屋を去っていった。
◆
「ジュリアスです」
「うむ」
(レオは失敗したようだな)
態と第一王子の次を意味する第二王子を名乗らずジュリアスが部屋に入るが、彼より前に入ったはずのレオは騒いでおらず、それは不老不死となれなかったことを意味していた。
そう、レオもジュリアスもそれを求めていた。いよいよ火花を散らし始めたこの王子達は、刺客が襲い掛かってくることを本気で考え、命を落とすことを危惧していたのだ。
「早速始めよう」
アマラがソフィーに目配せする。
「王位に就く貴方が見える。第一王子を押しのけて玉座に座っている貴方が。アーロン王がレオ王子を指名したけれど、あなたはそれを全て押しのけた」
「本当ですか!?」
(父上め、やはりレオを!)
その言葉に喜色を浮かべながら、ただ先に生まれたという理由でレオを優先したであろう父王を心の中で罵倒した。
「でもその後に訪れる惨たらしい死。無念の死。苦しみ抜く死が見える」
「そ、そんな!?」
アーロン王よりかは無様はさらさなかったが、それでも唾を飛ばしてしまうほど驚くジュリアス。
「これがある。さあ飲んでみろ」
「おお!」
そしてアマラから渡された小瓶の中身を一息で飲み干した。
「う、うん?」
「どうした?」
「手順は占いをしてからだと聞きましたけど」
「なに気にするな」
まるでアーロン王と同じだ。そしてレオ王子も。薬を飲むと、予言された死について忘れてしまっていた。
「ではな」
「不老不死が……」
そして部屋を出る際の不老不死に対する未練も親子一緒であった。
「第三王子がいるみたいだが望みは薄いな」
「ええ」
その親子の姿にアマラが苦笑いしてソフィーも同意する。
この双子姉妹だが幾つか知られていないことがあった。そして間違いも。
アマラは確かに【製薬】を、ソフィーは【占い】を持っている。それは間違いない。彼女達が太古の王国の末裔なのも間違いない。そして不老不死なのも。
では何が間違いか。
アマラは不老不死の薬を作り出せない。
「いつになったら呪いが解けることやら……」
そして知られていないことは、彼女達が不老不死になった原因が薬ではなく、神の傲慢と悍ましい呪いであったことだ。
原初の王国であったアンバー王国の末期では国が複数に割れ、何人もの王族が王を僭称することになったのだが、初代国王の血を引く者が王権を継ぐことを認めていた神々は、血を引く者達が乱立した状況に混乱してしまい、解決策として神の領分を犯さぬ者を選ぼうとした。つまりは不老不死であり、それを餌にした上で拒絶した者を欲したのだ。
そこで目を付けたのがアマラとソフィーの姉妹だった。当時は王と言えば男であったため王権を継げず、その上神との力の親和性が高かったため、神々は彼女達を使って王権を継ぐに相応しい者を選別させることにした。それがアーロン王達に行った様に、占いで死への恐怖を煽り、その後不老不死の偽薬を渡して選別をする方法だったのだが……神の傲慢だろう。誰も合格できないとは思っていなかったのだ。
そう、神々が消え去った今現在まで。それなのに役割という呪いは残っており、彼女達はずっとそれに縛られ続けていた。
「代わりに尽くす女が2人手に入るんだがな」
「ふっ」
だからこそ彼女達は決めていた。この呪いを解いてくれるのが女なら終生の友として居続け、そして男なら変わらぬ愛を捧げようと。摩耗もできなくなった精神で数千年に渡ってである。
◆
◆
◆
「は? アマラ様とソフィー様が?」
「は、はい!」
ジェイクは自分の部屋で【無能】の講義を受けて勉強していたのだが、イザベラが初めてやって来た時と同じように、慌ててやって来たリリーの姿に嫌な予感は感じてたらその予感は大当たり。またもやって来たビッグネームに目を剥いていた。
「お待たせしました」
「気にするな。急に押しかけて悪かった」
慌てて駆け込むジェイクを出迎えるアマラだが、これではどちらが屋敷の主か分からない。
「早速で悪いが占わせてくれ」
「はあ」
ジェイクが来て早速選別が始まった。
「貴方に死が近寄っている。藻掻き苦しむ死が。永遠にのたうつ様な死が」
「心配せずとも解決策はここにある。不老不死の薬の話は聞いたことがあるだろう。尤も適合すればの話だが」
ソフィーがジェイクの死を予言し、アマラが懐から薬を取り出す、今まで気が遠くなるほどの回数行った選別だ。
「いやいりません」
だがここからはそうではない。ジェイクは押し売りされそうだった薬を受け取り拒否した。
「は?」
「は?」
外見と性格は似てなくとも双子は双子で、ぽかんとした姿はそっくりだった。
「その不老不死の薬は、古代アンバー王国の流れを汲む者にしか効果がないと聞いてます。僕は愛する人と生きて共に死ぬので必要ありません」
いよいよ自分がレイラ達に惹かれている自覚があるジェイクにとって、自分ひとり残って生き続けるなどまっぴらごめんであり、ほぼ不老不死だが望めば死ねるイザベラとも既に話し合って、一緒に眠ることを決めていた。なおその後イザベラは、思い出し笑いでずっとニヤニヤ笑っていた。
しかし、まだ双子姉妹の呪いは解けていない。
選別はまだ続いていた。
「それを飲めば不老不死になれる上、第一王子と第二王子を押しのけて、いや、アーロン王を廃して直ぐに即位出来る未来が待っているのに?」
「気が変わりました。貰っていいですか?」
「あ、ああ」
(やはり)
(ダメか)
ソフィーが水晶玉からジェイクに視線を移して、彼に待っている輝かしい未来を語ると、ジェイクは立ち上がってアマラから小瓶を受け取り、それに双子姉妹は気を落とす。
だが……
「な!?」
ジェイクは貰った以上は自分の物だと小瓶を壁に叩きつけて、壁に飾られている剣を手に取ると
ガシャン!
「妖言は止めろ。正統の王を決めるのは王権であり王権は王の物だ。それを侵そうとするなら不老不死だろうが次は首を撥ねる」
それをソフィーの前にある水晶玉に叩きつけた。
呪いが解けた。
傲慢極まる神は、不老不死の誘惑ですら人の手に余るというのに、その後さらに妖言を撥ね退ける精神を求めたのだ。これを傲慢と言わずなんという。
だがもうそれは関係なくなった。
だがもうそれは過去のものだ。
「え? ちょ? むぎゅっ!?」
「かなり嫁き遅れだが、なに、肌の張りは小娘共に負けておらんぞ」
「ごめんなさい。ああしろと神に言われていたの。お詫びに何でもするわ。ええなんでも」
ジェイクが剣を戻し終えると、なんと彼は双子姉妹の体で挟まれてその肉に埋もれてしまい、口から空気が漏れだした。だがそんな状況でもなんとなく、彼女達が涙を流していることにだけは気付いたのであった。
◆
『毒は、まあ薬だから【毒婦】、妖言の役割だから【妖婦】。言葉遊びなんですの? っていうか、これで薬と占いが来たらコンプリートとは言いましたけど、来るどころかまた女にしてますわ。私が【女殺し】に改名しろと? それになんか、選別をクリアしたから古代アンバー王国の正統名乗れるし。あ、そう言えばまだ王を破滅させるのが残ってますわ。これで王の耳にいらんことを囁く奴がいたら完璧ですわね。……うん? 』
なかなか大変でしたwようやった、面白いと思ってくださったら作者が報われるので、もしよかったら下の☆で評価して頂けると心底嬉しいです!