それぞれの道
「勇者ユーリよ、1週間も起きないから皆心配しておったのだぞ。魔王サタナス・及び魔王リリスと遭遇しよくぞ、無事に戻って来てくれた。」
シャンバラ城の煌びやかな謁見の間にて、勇者達はサトル王に今回の件についての報告を行っていた。
1週間もの間ユーリは眠っていた。眠っていたと言っても、ペナルティとして意識が無いまま日数が経過しただけだ。その間疲労は全く取れない。
魔王サタナスがユーリと同時に行動する、又は自らの分身を作り行動する。本来あり得ないものが同時に存在することで、世界からペナルティを受けてしまう。
この際にサタナスとユーリは両方とも行動不能になる為、身を守る準備をしっかりと行わないと目覚めない可能性もある。絶対強者であるユーリとサタナスの唯一の弱点であった。
勿論これは仲間には伝えていない。仲間を信用はしているが、弱点を知られたくなかった。万が一の為に…
「はい…この度はストルの犠牲により、私達一同無事に帰ってくることが出来ました。遺体は…無理でしたが…」
ユーリは悔しそうな顔をしてサトル王に告げた。
「…………そうか………息子は立派な最後を遂げたのだな……」
サトル王は涙ぐみ言葉に詰まりながらも、息子ストルとこれまでの事を振り返っていた。
「して、ストルは頑張ったのだろう。息子の死は必ずや人類が魔王を倒すきっかけになってくれると信じている…」
サトル王は泣き崩れる。1週間前に聞かされた報せだが、ストルの仲間を前にどうしても耐えられなかった。
サトル王の涙に貰い泣きしたフィリアがユーリの前に立つ。
「はい。必ずや魔王サタナスを殺してみせます。どんな手段を使ってでも!!」
フィリアはずっと泣いていた。恋人を失った悲しみ、魔王への憎悪の感情が消える事が無かった。
「魔王の力の一部を知る事が出来、これが希望になるように研鑽を積んでまいります。」
ユーリもフィリアに続き王に宣言する。
「必ずや、必ずやストルの仇をとってくれ…そのために協力は惜しまない。」
王も彼らの言葉に安堵して自らの決意を伝える。
「だがな……我々には問題が山積みなのだ…」
「我が領地のスレイブの街の突然の消失、魔王ベルゼブルスの領地に隣接する『エイジス』での突然の疫病の流行、極めつけは聖剣『エクスカリバー』の盗難だ…」
サトル王は溜息をつきながらユーリ達に伝えた。
-勇者ロトス…いや魔王リヴァイアスか…
ユーリは前回、魔王が邂逅した時の事を覚えている。祖父の携えていた聖剣を思い出す。
「エクスカリバー……魔を消滅させる聖剣が盗まれたとなれば魔王達が血眼になり探すのでは?」
イロスは聞く。
「そう…それは魔力をもつ人間をも滅することが出来る聖剣だ…魔王の手に渡り適合者が出れば、人間の勝機は低くなってしまう。」
-では嫉妬の魔王は一番危険なのでは?だが何故行動をしない…
「その為、君達にはまずエイジスにて疫病の対策をして欲しい。我が娘『剣姫シルビア』が既に現地に赴いている。なんとか頼む…」
王の頭には娘をも失ってしまうかもしれないという不安があった。
「エクスカリバーも余裕があれば探してくれ…平和の為に…どうか頼んだ。」
王はユーリ達に懇願した。
「必ずや使命を果たしましょう。」
ユーリは自信満々に王に返答した。それを裏目にイロスが気まずそうに口を開く…
「そのまことに申し訳ないのですが、自分は魔王討伐は出来ないです…特別な力のない人間の力では無理だと確信しました。だから……俺は旅を辞めて平和に暮らしたい。」
イロスが悩んだ末に出した結論は勇者のパーティから抜ける事だった。
続けてフィリアも口を開く。
「それは私も思いました。魔術の天才と呼ばれた私さえ、魔王の力の前では無力でした。人の力だけでは足りないと…」
天才の味わった挫折、聡明な者の出した結論はユーリ達に新しい選択肢を与える。
ユーリもそれに続いて口を開く。
「だからこそ人間だけではなく、魔物と分かり合い共に魔王の討伐の可能性を自分は見つけたいと思う。魔物の中にも魔王のやり方が気に入らず、同じように平和を望むものがいる筈だ。」
ユーリが本来目指すべき魔物との共存の道。この提案をすることから、ユーリ達の本当の旅がスタートする。
「だからサトル王よ…もし人間に友好的な魔物がいるという情報をお持ちならば、ぜひ私達に教えてください。」
ユーリの真剣なまなざしを見て、サトル王は口を開いた。
「エイジスに向かう途中に、魔王リヴァイアスには属さない竜人の里があると聞いた事はある。だが敵の可能性が高いとは思う……すまん、これくらいしか分からない。」
王は気まずそうにユーリに謝る。
「いえ、少しでも希望があるならば…そこを目指します。」
そしてサトル王との謁見は終わった。シャンバラ城から出て3人に別れの時が訪れる。
「すまないユーリ…俺にはお前みたいに勇気がないんだ…」
イロスは涙を流す。ユーリ達との3年間の旅の中で初めて見せた涙だった。
「気にするなよ。いつか立ち上がる日が来たら立ち上がれば良いさ。」
ユーリはそうやってイロスの肩を叩く。
そしてフィリアの方を向く。
「じゃあ行こうか。」
「私は貴方とは行かないわ。貴方といたら私は堕落してしまう。だから私は貴方とは違う道をすすんで魔王サタナスを倒して見せる。」
フィリアの目には強い決意があった。必ずサタナスを倒すという憎悪の念にかられていた。
-怖いな…本当に倒しそうな勢いだぞ…
サタナスであるユーリはストルの事を教えたかった。しかしそれを教えたら怪しまれる。
だからこそ早いところ、ストルと合流させたかった。
「そうか…お互い道は違うが頑張ろうな。」
そうやってユーリはシャンバラの島を出る為に歩き出した。仲間との一旦の別れ…
寂しいが目的の為に違う道を歩むだけだ。違う道の先は必ず同じ平和にたどり着くとユーリは信じていた。
ユーリ達と別れた所でフィリアは呟いた。
「もしかすると次会う時は敵同士かもしれないわね…」
フィリアの目にはサタナスの瞳の様な、深紅の憎悪の炎が浮かび上がっていた。