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4.『憤怒』の魔王vs『暴食』の魔王

「ロトス師匠……何でここに?」

 一番驚いているのはサタナスではあるが、この場にいるストルも驚くのも無理はない。ロトスは『傲慢』の魔王を倒した後隠居し、その際ユーリとストルの剣術の師匠にして、魔物と戦う心得を教えた人物。



 ロトスはある日寿命を迎えて死んだ為、シャンバラの実家で葬儀を挙げた筈だった。この場のユーリとストルは墓まで見送り、別れを告げた。


 別れを告げる際に勇者ロトスの顔を目に焼き付けていた。ユーリと同じように大きな蒼い目の長い白髭と短い白髪の長身の老人。そして聖剣であるエクスカリバーを携えている。

 目の前にいる『嫉妬』の魔王はロトスの姿そのものだった。




「何でロトス様が魔王に?」

 ストルが驚いて『嫉妬』の魔王に向かって質問する。


「黙れ。人間ふぜいが…」

 リリスは冷たい声で一瞬にしてストルを黙らせる。

「後でお仕置きしなきゃ…」

 その後一瞬にして微笑むいつものリリスに戻る。

「この場にいる『嫉妬』の魔王は、相変わらずリヴァイアス様ですよ。」



「あぁ、そうだったな…」

 バルバトス、ベルフェス、ベルゼブルスは3柱とも勝手に納得したようにおとなしくなった。全く争う様子が無いようだった。

 他の魔王は警戒を解いてリラックスしているようだったが、サタナスだけは緊張したままだった。



-誰か、『嫉妬』の魔王について言及してくれよ…全く理解できん。

 サタナスが内心『嫉妬』の魔王について考えを巡らせていた。




「で、俺様達を呼び出した理由は何?眠いんだけど…」

 バルバトスは目の赤い光をユラユラと揺らしながら、不機嫌そうにサタナスに聞く。


「先程まで勇者ユーリと戦った。そして見逃した。」

 サタナスは無表情に淡々と言った。


「あの…その…勇者を見逃したの?下水道で暮らす僕は不安なんだけれど…」

 ベルフェスはオドオドとした様子で、心配そうに不満を漏らす。スライムとしてグニャグニャ揺れる彼の足元は、緊張からか強力な毒で溶けていた。


「何故逃した?」

 ベルゼブルスは今にも火を噴きそうなほどに怒りの表情を浮かべている。


「いつでも殺せると思った。」

 サタナスは途中までの経緯を省いてしまった。そのせいでその言葉を聞いたベルゼブルスはサタナスを殺そうと鋭い爪で彼を引き裂こうとする。

 が、目に見えない壁でベルゼブルスの攻撃は弾かれる。



「貴様のせいで我らが危険に晒されるのだぞ。その意味が分かっているのか?」

 もっともらしい理由である。勇者を殺し損ねたことで、勇者のいない安寧(あんねい)の日々を過ごす事が叶わないのだ。

 勇者の持つ『光』の力…これは魔を浄化する為、この力で魔王が倒されると魔王の能力を継承できなくなる。

 つまりその代で魔王の称号が一つ消滅する。


 その為ロトスが倒したとされる『傲慢の魔王』の能力は誰にも継承されることは無くなり、7大魔王から6大魔王になってしまった。



「俺の力を100としたら、勇者の力は1程度だ。いつでも殺せる。お前らが負けるとは思わない…まぁもし貴様らが危険に晒されるのならば、俺が助けてやるさ。」

 正直サタナスである方が勇者よりも強いと本人が分かっている。だがこの時のサタナスの「助けてやる」と上から目線の発言が火に油を注ぐことになった。



「ならばそのお前の力を見せて見よ。ワシを圧倒することが出来れば、今回の件は不問とする。だがもしワシに殺されるようならば、その『憤怒』の魔王は別の者にやって貰う!!」

 ベルゼブルスはサタナスに戦いを挑む。ベルゼブルスは勿論、サタナスを殺す気でいる。

 自らが無限に強くなれる魔王として自負している為、他の魔王に見下されるのが気に入らなかった。だから圧倒されるとは夢にも思っていなかった。



「では『憤怒』のサタナスが『暴食』のベルゼブルスを圧倒出来れば、今回は不問とするで良いな?」

 それまで黙っていた『嫉妬』のリヴァイアス…いやロトスは低い声で他の魔王に聞く。他の魔王はリリス以外は、めんどくさそうに返事をした。




-ベルゼブルスの実力を知るには良い機会だな…

 サタナスがどう戦うのかを考えようとしている間に、彼の周りを数万の大量の大粒のハエが取り囲んだ。


「宴を始めよう『終わりなき鎮魂歌(ブレーメン)』」

 ベルゼブルスの号令でハエはサタナスに突っ込む。その途中ハエは燃え上がり、数万の小さな隕石の様にサタナスに降り注いだ。


「ハイド」

 サタナスは空間ごと移動し、ベルゼブルスと距離を取る。そして両者睨み合う。

「不意打ちとは随分と()る気に満ち溢れているな!!『暴食』よ!!」



「今のを避けるか…だがまだ攻撃は止んでいないぞ!!」

数万のハエは蝶に変身し、サタナスの周りを囲む。蝶から鱗粉が飛ばされるかの様に、キラキラと水しぶきがサタナスに()りそそぐ。


-恐らく幻覚系の魔法を含ませているな…

 サタナスの予測と違い、水しぶきは幻覚の魔法ではなかった。ベルゼブルスは口から火炎を吐くとサタナスの周辺でオレンジ色の綺麗な大爆発が起こった。



 爆発によりサタナスは全身が真っ黒こげになっていた。サタナスは左手に持つ銃で自らの時間を巻き戻した。その瞬間、まるで攻撃が効いていないかの様に元通りになった。

「今のは油断したな…」



「かっかっか。弱い、弱いにも程があるぞ『憤怒』の魔王よ!!」

 ベルゼブルスは相手を痛めつけられる愉悦に浸っていた。このままじりじりといたぶっていこうと思った瞬間だった。


「あぁ、予想以上にお前は弱いな…もっと本気で来ても良いんだぞ?」

 サタナスは余裕そうな顔でベルゼブルスを挑発した。



「はぁ…ガキが調子に乗りおって…」

 ベルゼブルスは怒りに身を震わせた。一気にけりをつけ終わらせるつもりに変わった。

 一呼吸を置くと

「ブレーメン…最終楽章『バアル・ゼパル』」



 ベルゼブルスの周りには巨人、ドラゴン、魔狼、大蛇、ハーピィなどのあらゆる魔物の群れが隊を為していた。その周りを先程の蝶や蛾にハエ、蜂等の昆虫が飛び交っている。



 魔物の群れはそれぞれの意思で自らを犠牲にして攻撃を放つ。

 巨人はドラゴンと共に炎の巨大な隕石として降り注ぎ…

 大蛇が纏う電撃を魔狼が起こす風により、雷の嵐が巻き起こり

 ハーピィは仲間の心臓をくり抜きながら最後の暗黒魔法を放つ…

 蝶や蛾などの昆虫は幻覚を巻き起こしたり、魔物の群れのサポートを行う。



 虹色の幻想的な攻撃がサタナスに一斉に降り注ぐ。

「綺麗な光ね…」

 リリスは見惚れているようだった。ロトスは終始しかめっ面で、バルバトスとベルフェスは早く終わらないかと退屈そうだった。



「命を犠牲にする攻撃など全く美しくない…」

 サタナスは呟いた。そして左手に持つ銃を右手に持ち直す。

-ハイド

 サタナスは右手に持ち直した銃を撃つ。全くベルゼブルスの向きを向いていなかったが、銃弾は当たった。


 ハイドにより空間を捻じ曲げて、ベルゼブルスの目の前に繋げたのだ。弾丸が当たった瞬間に、サタナスとベルゼブルスの位置は入れ替わった。



「は?」

 ベルゼブルスは位置が変わる瞬間まで、勝ち誇った顔をしていた。しかし自らの攻撃を目の当たりにして何が起きたか分からない、驚きの顔をした。

 ベルゼブルスに虹色の多重攻撃が降り注ぐ。一瞬で漆黒の体からツヤが無くなり、ボロボロのドラゴンになった。


「許さん…貴様許さんぞ…」

 ベルゼブルスはプライドを傷つけられ、激昂していた。



「まったく、どっちが『憤怒』の魔王だよ…」

 サタナスは呆れた顔をしていた。


「黙れ黙れ黙れ黙れ…貴様は必ず殺してやる。」

 その瞬間ベルゼブルスは自らの心臓に手を当てる。

「『暴食』の魔王の名において顕現(けんげん)する。」


「それ以上はいけない…」

 リリスは自らの力により、ベルゼブルスの認識を変えようとした。しかし距離が離れていた為、うまく認識を変える事が出来ないようだった。



「いや俺1体にすら勝てないお前じゃ、どんなことをしても俺には勝てないよ。」

 するとサタナスは右手の銃で自らの頭を撃つポーズをする。


「顕現せよ『悪夢の狂宴(ジキル・ハイド)』」

 そう言って自らの頭を銃で撃ちぬいた。その瞬間サタナスの姿が増えた。およそ5体のサタナスがその場に顕現した。

 分身体ジキル・ハイドはサタナス本人である。自らの時間を分け与えた、別次元のサタナスである。時空を超越した魔王が使える奥義である。



「俺達に勝てるのか?言っておくが、俺はまだお前に攻撃すらしていないぞ!!」

 サタナスは余裕そうな表情を浮かべていた。



 ベルゼブルスは5体ものサタナスに絶句する。その瞬間勝てないと悟り、怒りを抑えた。

「ワシの負けだ…完敗だ…」



『暴食』の魔王が降参した事でリリスは安堵の表情を浮かべた。

 先程のベルゼブルスの攻撃で、サクリのまっ平らな街とサタナスが召喚した彼の城は半壊していた。


 魔王は各々が先程の攻撃の余波を無効化していたが、城は魔王程強くなかった。


「勝負はサタナス様の勝ちとして…サタナス様の城はどうしましょう?」

 サタナスにどのような言葉をかけるかあたふたするリリスを横目に



「ねぇ…勝負が終わったなら帰って良い?僕、眠いんだけど…」

 ベルフェスは空気を読まずにサタナスに言う。

「俺も早く帰ってカジノに行きてえわ。」

 バルバトスも早く帰りたいようだった。



-やっぱり自分の事以外は、魔王はあっさりとしてるよなぁ…

「では俺の処分に異論がなければ、お前達を元の場所に帰すさ。良いか?」

 リリスを除く他の魔王は皆、あっさりと同意し帰っていった。サタナスは魔王と戦った事以外は何の苦労もなく山場を終わらせることが出来た。



「城はどうしようか…元に戻すか?」

 城に向かって左手で銃を構えたその時、リリスが話しかけて来た。


「あのよろしければ、今度サタナス様に合ったお城を人間から奪いに行きませんか?」

 リリスはもじもじしながら恥ずかしそうにサタナスに行った。


「そうだな。庶民から税金を搾り取って無駄に大きくした城が欲しかったところだ…一緒に行こうか?」


「はい。ではサタナス様…良いお城を見つけておきますね!!」


 こうしてリリスはサタナスと新居を人間から奪いに行く約束を取り付ける事が出来た。




 一方、自らの領地に戻ったベルゼブルスは怒りに身を震わせていた。

「『憤怒』のサタナス…必ず殺してやる。どんなことをしてでもな…」

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