3.魔王集結
ゲートをくぐるとユーリ達は始まりの地『シャンバラ』の街にたどり着いた。
「ここは…シャンバラ?こんなことって…」
フィリアは驚いた様子だった…
-ストルとは一緒にここに来れないなんて…
「ユーリ達の旅立ちの地を魔王サタナスが知っているという事か…」
イロスは腕を組み考え込んだ様子だった。
-つまりこれはいつでも俺達や家族を殺せるという、魔王の脅しか…
フィリアとイロスの後ろにいる筈のユーリは静かだった。それも当然だ。ユーリは地面に倒れているからだ。
ユーリが倒れているのに2人は気付く
「えっ?ちょっとユーリ…」
フィリアは泣きそうな顔になりながらユーリをゆする。
「俺は近くの人を呼んでくる。フィリアはユーリを見ていてくれ!!」
イロスはそう言って走り出した。
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-ユーリはそろそろ時間切れかな?
魔王サタナスはユーリが既に倒れていることを予測していた。
これはユーリとサタナスが同時に活動出来ている理由に関係する。
まず何故サタナスの活動中にユーリが行動出来ていたかだ。
これはサタナスがユーリの時間を戻したからだ。正確には就寝しているユーリに、時を操る能力『ジキル』でユーリの時間を数時間戻したのだ。
サタナスの時間を操る力『ジキル』は自分の時間を消費して、他人の時間を操る事が出来る。およそ自分の1日を消費して、他人の1時間に干渉する。
魔力による能力でない為、光魔法では消すことは出来ない唯一の力だ。
-なんとか作戦はうまくいったか…
サタナスがユーリを一方的に痛めつけるのは作戦であった。
と言うのも、ユーリ達はサタナスの空間を操る能力『ハイド』が無ければ、リリスから遠く離れて逃げ切る事は出来ないのは分かっていた。
サタナスの力で一方的に逃がすのは簡単だ。しかしそれではフィリアやイロスに疑問が残る。特にイロスは聡明である為、何か不自然さを感じる可能性が高かった。
つまりユーリとサタナスは必ず対峙しなければならない…対峙する際には必ずリリスがいる必要がある。
リリスには勇者を逃がすのを確認させる必要があったからだ。リリスがいないまま勇者を逃がすと、次はリリスに勇者と繋がっている可能性を疑われる。これでは魔王としての今後の地位にもかかわる。
だからこそ必ず勇者を痛めつける必要が出て来る。
更に勇者を痛めつける際には、リリスに干渉させてはならない。リリスの能力を更に知るには良いかもしれないが、干渉される事で本当に勇者ユーリを殺してしまうのは避けなければならなかった。
だからリリスに干渉させず一方的に攻撃するにはどうすれば良いのかをひたすらサタナスは考えていた。それはサタナスがユーリを仲間に誘う事…
仲間に加わるまで攻撃を続ける理由が出来、更にリリスにはユーリに対して余計な干渉をさせられなくなる。
後はひたすらユーリを攻撃するだけだ。最初の両手首と両足首だけは本当に空間ごと斬り飛ばした。これはユーリに不自然な演技をさせないため。
その後は能力『ハイド』により、両手両足の空間を少しずつ切り取って、亜空間に保管し続けるだけで良かった。
更にはユーリが失血死しないよう、ハイドの空間操作で血管を塞いでいた。
問題点としては『ジキル』の力で他人の時間に干渉する間、更にジキルで時間に干渉することが出来ない。つまりユーリの時間が切れるタイミングでなければ、ユーリの両手両足を蘇生させられない。
それまでに時間をうまく稼がなければならない。実際にユーリが両手両足を切断されダルマになった際、彼には『ジキル』で干渉した時間が少し残っていた。これではユーリを蘇生出来ない可能性が出て来る。
その為、予想外ではあるがストルを生贄にすることを選んだ。時間稼ぎの為に、ストルを同様に仲間に勧誘する。勧誘に応じるストルで問答を繰り返しユーリの時間が切れるのを待つつもりだった。
「ハイド」
サタナスはストルの死体に向けて、左手で構えた銃で弾丸を放つ。
ストルはまるで胴体が真っ二つになったのが嘘のように元通りに生き返った。両手も元に戻っている。
「………俺は見捨てられたのか?」
ストルは驚いた様子もなく、悲し気な顔でサタナスに聞く。
「見捨てたのはお前だろう?痛みから逃げる為に…」
サタナスは冷酷な目つきでストルを睨んだ。ストルは何かを諦めた表情をしていた。
-ストル、本当にごめんよ…
「サタナス様…その虫ケラを頂けます?」
リリスはサタナスに微笑みかけながら頼む。
「先程の償いだ…好きにしろ」
サタナスは威厳ある声で返答した。
「では次の勇者達に対しての切り札としますわ。」
リリスは着物の袖で口元を隠しながら笑う。しかし隠されながらもその邪悪な思惑は伝わって来る。
リリスのシンデレラの力で既にストルは人間だった時のユーリ達の仲間だった時の記憶は消え、最初からリリスの部下という認識に変わっていた。
-どうしよう…本当は俺の配下にするつもりだったのに…
サタナスは内心戸惑っていた。
サタナスとリリスが話しているうちに街の蹂躙は終わっていた。
「さて……こうしている間にこの街の制圧は終わったな…」
サタナスとリリスの部下たちが街に勢ぞろいしているのだ。あっという間に街は陥落した…
一言で表すなら、地獄絵図だった。人間が寝ている間に攻め込んだのだ。一方的に勝つに決まっている。
「建築物が邪魔だな…」
サタナスは右手をかざすと、街一帯の建築物はハイドの力で消え去った。
「これで他の魔王を招待するにふさわしい更地になったか?」
サタナスは満足そうな顔をしてリリスに聞くが
「更地で魔王が集まるのは、少し相応しくないとは思いますが…」
リリスは初めてサタナスに対して引いていた…
サタナスは右指をパチンと鳴らす。するとサタナスの城が更地に現れる。
「これで良いだろう?」
リリスはその様子に驚いた様子だったが、それ以上にイロスは腰を抜かしていた。
「では他の魔王達を呼ぶとしようか」
サタナスは右足でダンッと地面を踏みつける。
その瞬間サタナスの周りの空間は乱れ、ゲートが4つ開いた。そしてその場に4柱の魔王が出現する。
「久しいな…」
サタナスは正面の『強欲』『怠惰』『暴食』の魔王を見て呟いた。『傲慢』の魔王が倒された時に会ったのが最後の為、10年ぶりの再会となる。その際には『嫉妬』の魔王とは会わなかったが…
サタナスの正面と左右には依然会った3柱の魔王がいた。
『強欲』の魔王…バルバトス
魔王唯一の元人間であり、宝石の装飾を身にまとった白骨の外見のアンデッド。だが人間らしい一面は無く、魔王の中でも残忍な性格をしている。
『怠惰』の魔王…ベルフェス
魔王唯一の部下を持たず住処が下水道であり、人間の街に住んでいる紫色のスライム。ベルフェスが下水道に住み着く街は皆病気になる。ベルフェスも常に下痢気味である。
『暴食』の魔王…ベルゼブルス
魔王唯一の人型になれない漆黒のドラゴン。食べたものの能力を得られる為、無限に強くなることが出来る魔王でサタナスが唯一危険視している。
4柱の魔王が集結しているが、その場のリリス以外の全員『嫉妬』の魔王を見るや否や驚愕した。
『嫉妬』の魔王…リヴァイアスがその場にいる筈だった。しかしその場にいるのは…
「何でここにロトスがいるんだ…」
サタナスは恐らくその場にいる中で一番驚いていただろう。
ロトスは先代の勇者であり、ユーリの祖父…
聖剣エクスカリバーに選ばれし、『傲慢』の魔王であるアダムスを倒した『神光の勇者』の姿がその場にあった。