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2.魔王達の襲撃

「この度はナーガの件でご迷惑をお掛けしました。」

 着物を着た美女リリスはサタナスに深々と頭を下げた。妹のエヴァとは違い黒髪の(はかな)げなサキュバスだ…


「ナーガの件は非常に残念であった。だが勇者達が近くに来ており、奴らを殺すチャンスだ…必ずナーガの仇を取るぞ!!」

 サタナスは力を込めてリリスに言う。


そうは言うもののそれはサタナスの本心ではない。『色欲』の魔王に恩を売りつつ、魔王の持つ力を確認し今後の戦闘に役立てる作戦なのである。

 その為に勇者ユーリの身を多少危険に晒すが、リスクは承知だ。



 リリスは手招きをして、部屋の奥から人間を呼び寄せる。ナーガの討伐隊の隊長だった。

「さてぇ…勇者達がどの方角に行ったか、答えてくれなぁい?」

 リリスはナーガの男の首筋に手を当てる。そして妖艶な笑みを浮かべながら男に聞く。


 男は抵抗することなく、すんなりと口を開く。

「勇者ユーリ達はリリス様の領地を西に離れ、我らの街『サクリ』に討伐の報酬を取りに向かったものだと思います。」

 隊長はリリスに見惚《みと》れて、完全に骨抜きにされている。



-あっさりとしゃべったなぁ…こいつ

 サタナスは男の口の軽さに呆れていた。せめて人間としての誇りを持ち、勇者の居場所を教えないまま殉死《じゅんし》して欲しいと思っていた。だがここからリリスの能力が探れないかどうかを考えていた。

 サタナスは地面を向いて口に右手を当てて考え始める。



-精神に干渉する…だがどのレベルだろうか?こいつの能力は…


 サタナスがリリスの能力を考えていると…

「ワタクシの能力ですかぁ?サタナス様」


 サタナスはハッとした。

-こいつ心が読めるのか?

 サタナスは焦っていた。もしもここで心が読めるのならば…

-正体がバレてしまう…

 サタナスはエヴァを見た時とは違った意味で体が固まっていた。



「うふふふふ。どうやら当たっていたようですね。考えを当てられて固まってらっしゃる…」

 リリスは楽しげに微笑んだ。


「あぁ…お前の力を知る事が出来れば連携が取れると思ってな…」

 サタナスは返答はしたものの、完全に焦っている。まだ心が読まれている可能性もあったからだ。


 リリスは何かを悟っているかの様に、妖艶に笑みを浮かべる。



「ワタクシの力は『手の届かない幻想(シンデレラ)』と言いまして、相手の認識をワタクシの思うがままに出来る力ですわ。」

サタナスはあっさりと能力を答えるリリスに驚いた。口がぽかんと開いていた。



「うふふふふ。思ったより感情が豊かなのですねぇ…エヴァはいつも険しい顔をされて、何を考えているか分からない…と言っていたので、怖い方だと思っていましたのよ。」


 リリスの動作は魔王らしい強者の余裕があった。まるで蛇が心にまとわりつくかの様な気味の悪さをサタナスは感じていた。

 その場の空気は完全にリリスが支配していることを実感していた。



-だとすれば、俺も既にその力を使われているかもしれない…

「その力を俺には使わないのか?」

 サタナスはおそるおそるリリスに聞く。


「うふふふふ。使いませんわ。本当に欲しいモノは自分の力で手に入れると決めているので…」

 リリスは再び妖艶な笑みを浮かべ微笑んだ。

 常に凛としているエヴァとは違う意味で美しかった。


-------------------------------------------------------------------------------------

「はっ」

 深夜にも関わらず、ユーリはベッドから起き上がる。だがサタナスであった時の記憶はなく、眠りに就いた時の記憶しかなかった。

 本来は眠っている時間帯はサタナスとしての意識の筈であった…


-魔王にはならなかったのか?

 考え事をしながら、一旦水を飲むために部屋の外に出る事にした。現在ユーリは城下町の宿屋に来ている。



 部屋の外にはイロスが腕を組みながら壁にもたれて立っていた。


「ん?イロス…深夜にどうしたんだ?」


 イロスは呆れた顔をして溜息をついた。

「はぁ…お前この部屋からの大声が聞こえないのか?」

 イロスはストルの部屋を見る。


-ん?大声?



「あぁ。んん。いいぃ。もっとぉ。もっと突いて。ストルぅ」

 どうやらストルとフィリアが(さか)っている最中だった。



-知らなかった。普段はこの時間は魔王でいるからな…

 基本的にユーリが魔王に変わるのは、ナーガと戦った時の様に『感情の高まった時』と休息をとる為の『眠りに就いた時』だ。


「イロス…何か嫌な事が起きそうだ…だから準備を整えておいてくれないか?」

 ユーリは考えながらもイロスに言う。何か不穏な事が起きそうな予感…それを直感が理解していた。



「安心しろ。城下街である以上は、結界の力で魔物は来ない。」

 イロスはユーリを信じてはいるが、結界の強い力も信じていた。


 結界の力…

 それは光の力を授かった『神の使い』が城壁及び城下街に施したものだ。光の力だからこそ魔から生まれる力を無効化出来る。

 だが結界の中では自分たちも魔法や武器に魔力を宿す事は出来ない。



「それもそうだが…今回はヤバそうな気がするんだ…」

 とユーリが呟いた瞬間であった。


 街の至る所から警報の鐘が鳴り響いた。が、一瞬で鐘は鳴り止んだ。無理やり止めたかのように、不自然に鐘の音が止んだ…

 その後すぐに何かが崩れる大きな音が聞こえる。それも止むことはなかった。



「これはヤバそうだな…」

 ユーリとイロスは自分の部屋に戻る。バルムンクを携《たずさ》え窓から飛び出し、宿の屋根に飛び上がる。


 城下町には半身半鳥のハーピィの大群が飛び回っており、城壁にはサタナスの配下の全長30メートルはある|全てを破壊する絶対の巨人スルトが力ずくで結界を壊していた。


 スルトの力は超回復。結界の光の力による魔の浄化すら簡単に回復出来る。だが『有』である為、闇の力の消滅の前には無力だ。

 人間達にとって『災厄の巨人』とも呼ばれ、スルトが来た街は滅びると言い伝えられている。




-スルトがいるって事は、自分の思惑によるものか…なら城下町の人々を見捨てて、逆の方向に行かなければならないな…


 スルトはサタナスにとって絶対に失いたくない魔獣。だからこそ倒してはならない目印だった。



「ストル・フィリア!!急げ。逃げる準備をするぞ!!」

 ユーリの叫び声の後、すぐに上半身裸のストルとバスローブ姿のフィリアが駆けつける。


 イロスは既に準備を整えている。それどころかフィリアの部屋から杖と服などの装備をしっかりと運んでいた。

「俺の装備はないのかよ…」

 ストルはイロスに文句をいうが、イロスに物凄い勢いで睨み返される。



 皆の準備が整ったところで、ユーリは申し訳なさそうに言葉を発する。

「迫るハーピィに遠くのスルト…恐らくここから更に魔王達の精鋭が復讐の為押し寄せて来る。だから…」

 ユーリは言葉に詰まる。これから発する言葉は、勇者としては格を下げる言葉だからだ。


「だから世界の為に俺達だけでも逃げる。フィリア、透明魔法を唱えてくれ!!」

 イロスはユーリの考えを悟っているかの様に言葉を発する。



 フィリアは反論することなくすべてを悟り、詠唱をしながら杖を構える。

「インビジブル」

 その魔法と共に彼らの姿は透明になる。魔力の多い彼女は、半径20メートル内の人間に向けても透明化を施した。

 この後透明化した人間も魔獣たちに殺されると分かっていた。だが彼らが助かる可能性を信じたかった…

 彼らを見捨てる事への、(つぐな)いきれない償いとして…



「生き残るぞ!!未来の為に…」

 ユーリは号令をかけた。

 宿から城壁への距離はおよそ2キロメートル程である。普段の彼らにとっては短い距離だが、今の彼らにはとてつも無く長く感じる距離だった。

 ハーピィの大群が飛んでいる以上、魔法の絨毯は街を出てからでなければ使えなかった。



 透明化のおかげか…特に何かが起きる事もなく、城壁の前にたどり着く。

-心配も杞憂(きゆう)に終わりそうだ…どうやら魔王の時の俺が何とかしていたみたいだな…

「後は門を開いて出るだけか…」

 ユーリはホッと安心したように呟いた。




 油断したのも束の間だった。

 

「思ったより速かったな!!勇者ユーリよ!!」

 サタナスがどこからともなく現れ、ユーリ達の行く手を阻んだ。

 月明かりに照らされるその姿は、美しく神々しかった。悪魔の姿だが神が作った作品だと思える程に芸術的であった。



「あれはアークデーモン?」

 フィリアは信じられないような顔をしている。

-透明化魔法を施しているのに、何故ユーリがいると分かったの?


 その場にいるユーリ・フィリア・イロスはサタナスの姿を見るや否や立ち止まる。しかし透明化により慢心しているストルは剣を構えてサタナスに斬りかかった。


「ゴミめ…」

 サタナスが右手を振り下ろすと、ストルの両腕はまるで豆腐のようにスッと斬り落とされた。透明化は解除され、斬り落とされた腕からは大量の血が流れる。


「ひぃ…」

 ストルの姿を見ると、フィリアは怖気づいた。



「ぎゃぁぁぁぁぁ。腕がぁ。俺の腕がぁあ。」

 ストルは大声を出しながら地面にのたうち回っていた。痛みを少しでも誤魔化そうと、大声を出し続ける。


「くっ」

 ユーリ・フィリア・イロスは武器を構える。だがストルがやられた今、彼らはどうすれば良いかを必死に思いめぐらせていた。

 相手の力を探ろうにも、全くの正体不明の力だった…




「まだ姿を消したままでいるのかな?」

 サタナスは右手を上空で横に振り払う。すると彼らの透明化は解ける。

「初めましてかな?俺は『憤怒』の魔王サタナス。君達が倒そうとしている魔王の1人さ。」

 サタナスは微笑みながら自己紹介をした。強者たる余裕が垣間見えていた…



「魔王サタナス?えっ?うそでしょ?だってここは魔王リリスの領地じゃあ?」 

 フィリアは信じられない顔をして呟いた。イロスも信じられずに、絶句していた。ストルはただ大声で叫んでいた。


 サタナスはにこやかに微笑んだままで

「リリスに会いたかったのか?じゃあ会わせてやろう!!」

 サタナスは何もない空間にゲートを開いた。するとそのゲートからリリスが現れた。


 その場にいるユーリ達は絶望し、言葉を発せないでいた。一方でストルは痛みに耐えきれずに、状況を理解しないままでいた。



 リリスはストルの方向を向く。

「虫ケラ風情が…」

 リリスが低い声でそう呟くと、一瞬でストルは静かになった。

 ストルはまるで痛みを感じていないように切断された両腕を眺めている。彼女は能力『シンデレラ』により、ストルの痛みの認識を変え無痛の状態にした。



「さてゴミも静かになりましたし、如何(いかが)されますかぁ?サタナス様ぁ?」

 先程の低い声とは思えない位、甘ったるい声でリリスはサタナスに聞いた。




「うむ…先程の件で力の差は理解したかな?だから君では我ら相手には勝てまい!!」

 サタナスは自信満々に言い放った後

「だから勇者ユーリよ、我が(しもべ)になれ!!そうすれば私が皆が平和に暮らせる世界を作ってやろう。」

 サタナスは鋭い目付きで、ユーリの太陽の様な大きな目を見て言った。



 リリスはこの発言に驚いた様子で、サタナスの方向を見た。

「何をおっしゃっているのですか?」


 リリスと同じようにその場にいるサタナス以外の全員が絶句していた。

「バカげた事を…魔王が平和な世界を作る訳がないだろう!!いう事を聞くな!!」

 イロスはそう言い放ち、フィリアは頷く。




「断る!!平和を目指すなら、なぜこの街の人を殺す?」

 ユーリは力強く答えた。


 その瞬間サタナスは右腕で空を切った。するとユーリの右手は綺麗に斬り落とされた。

「うぐぅ…」

 ユーリは必死に左手でなくなった右手を止血しようとする。


「なぜこの街の人を殺す?お前達もナーガを殺しただろう?その後ナーガの守っていた弱い魔物を殺しただろう?復讐だよ!!」

サタナスの返答にユーリ達は絶望した。争いが新しく争いを生む事を理解したからだ…




 サタナスは彼らの絶望した顔を見て邪悪な笑みを浮かべた。

「もう一度聞くぞ…我が僕になれ!!そうすればお前の腕は元通りになり、そこの仲間の腕も元通りに戻してやるぞ!!」


「断る!!お前の手下になれば、俺は多くの人間を殺さなければならなくなるだろう?」

 ユーリは大きな声で拒絶した。それと同時にサタナスは右手で空を切り、それと同時にユーリの左手が斬り落とされた。

「あぁぁぁぁ…」




 ユーリは涙目になりながら絶望の顔を浮かべていた。ストル・フィリア・イロスは歯を食いしばりながら、ユーリから目を逸らした。

 現実を、今の惨状から目を背ける為に…


 それにサタナスは気付いた。

「リリス…あの3人の目を勇者から逸らせないようにしてくれ。」

 サタナスのその言葉と同時に、3人の顔は強制的にユーリの方を向く。目は閉じられる事無くユーリを見続けた。




「さてどこまで耐えられるかな?我が僕になれ勇者よ!!」

 勿論の様に断るユーリ。それと同時にユーリの右足首が斬り落とされる。それと同時にユーリは立っていられなくなり、地面に這いつくばった。


「勇者が可哀想だなぁ…誰かが勇者と変わってもいいんだぞ?」

 サタナスは意地の悪い笑みを浮かべながらリリスに提案した。 

「そうだなぁ…リリスよ。勇者が我が僕になるか、ダルマの姿になるまで耐えられたら、助けてやろうじゃあないか?」


 リリスはその提案に吹き出しそうになる。だが着物の右袖で口元を隠し、笑いを見られないようにする。

「あらぁ、意地の悪い御方ねぇ。ふふふ。」

 リリスは人間には不可能だと確信しつつも同意した。


「では勇者ユーリよ。せいぜい痛そうにのたうち回ってくれ。」




 その後サタナスによるユーリへの勧誘が続く。断るたびに少しずつ体の一部分が斬り落とされていく。

 それでも断り続けるユーリの姿を見て、仲間たちは目に涙を浮かべていた。

「ユーリ!!もういい。諦めよう…」

 イロスはユーリに促す。


 フィリアは涙を流して泣いている。目を背けたい光景を、リリスの力により目を背けられずにいた。

 ストルは涙を流して歯を食いしばっていた。




 数時間に及ぶ勧誘………ではなく、拷問が続いた。

 ユーリの両腕、両足は斬り落とされダルマの様になっていた。

 ユーリの目にはまだ諦めないという光が宿っていた。しかしユーリの惨状を見て、仲間の心が折れかけていた。強大な敵への恐怖…絶対に勝てない絶望感で満たされていた。



 サタナスはユーリを見ながら信じられないような顔をしていた。

「まさかダルマの姿になってまで、我が勧誘を断り続けるとは…」


 リリスはこの光景に驚愕し焦った。彼女は途中でユーリが屈すると思っていたからだ。

「サタナス様……大変恐縮ですが、この勇者は生かさずに殺すべきかと…」




 サタナスはその提案に悩むように口元に手を当てて考える動作をした。

「リリスの言う通りこの勇者は危険だ…だが約束は約束だしなぁ…」


 少しの間考えながら、その場を右往左往した。

「そうだリリス。そこの両腕の無い人間の痛みを戻してやれ。」



 ストルは腕の痛みが戻った瞬間に再び大声を上げる。

「そこの虫ケラよ。我が生贄にならないか?」


 ストルはサタナスの提案にすぐさま答えた。

「はい。なります。だから腕を元に戻してください。あれ?えっ?」


 サタナスはその返答を聴くやいなや失望の表情を見せる。


「つまらんな…お前は死ね!!」

 サタナスが右腕を振り下ろすとストルの胴体は真っ二つになった。

 サタナスは先程の楽しそうな顔から、一気に興醒(きょうざ)めしたようにつまらなそうな顔になった。


「もうやだ…」

 この瞬間フィリアの心が折れた。



「そこの女は心が折れたか…もう少し楽しめると思ったのに、興醒(きょうざ)めだ…」

 サタナスは溜息をついた。そして銃を取り出し、ユーリに対して数発撃った。

 それと同時にユーリの体は元通りになる。



 リリスはサタナスの行動に驚く。

「まさかサタナス様…こいつらを助けるとでも?」

 リリスは先程までの楽しんでいる表情から、一気に怒りの表情に顔を変える。



「あぁ約束は守るべきだからな…勇者以外は思った以上に弱くつまらなかった。勇者が強くても仲間がこれでは、未来永劫我らにはかなうまい…」

 サタナスはリリスにそう告げた後…


「今回は勇者の代わりにこの剣聖で良しとしてくれ…」



 リリスへの謝罪を済ませるとユーリ達の方を向き

「魔王の恐ろしさを人間どもに教えてやるのだ!!それが今回お前達を生かす理由だ!!」

 威厳ある声でユーリ達に告げた。


 その一言は圧倒的な絶望からの一縷(いちる)の希望だった…

 この絶望から抜ける為、ユーリ達はそれに従うしかなかった…




 だがリリスは未だに納得していないようだった。

「代わりにそこに横たわる虫ケラを治してくれてやる。好きに痛めつけて良いぞ。」

 サタナスが取り(つくろ)うものの


「ワタクシがこいつらを殺し合わせましょう。それならば…」


「いや、いつかここから再び立ち上がった勇者達と戦ってみたい。立ち上がれなければ世界は我らのモノだ。」

「だからリリス…今回は俺に免じて、見逃してくれ。」

 サタナスはリリスに頼む。



 リリスは溜息をついた。

「はぁ…あなたには借りがございますし、今回は特別ですよ…」


 サタナスは安堵の表情を浮かべる。しかしリリスは険しそうな表情で

「今回の件は他の4柱の魔王に報告します。魔王同士の会議によって今後を決める事にしましょう。」



「リリスよ。感謝する。」

 そしてサタナスは右手を空間に差し出し、ゲートを開いた。


「勇者ユーリ達よ。助かりたくば、このゲートをくぐれ…さもなくばお前達はこの場で死ぬ。」





 ユーリはゲートに向かって歩き出した。だがイロスは引き留める。

「罠かもしれんぞ…」


「罠だとしてもここに残れば全滅だ…」

 ユーリは悟った表情で答えた。


 フィリアはストルを見て号泣していた。

「嫌だ…ストルも連れていく…」

 ストルの死体に触れようとしたが、サタナスは空間を右手で払う。その瞬間ストルの死体はその場から消えた。


「悪いな…こいつはリリスへの供物だ…」

 サタナスはそっけなく答えた。まるでおもちゃで遊ぶのに飽きた子供の様に、何も考えていないような無関心な表情を浮かべていた。


 彼らは何も考える事無くただゲートをくぐる。


「いつか……必ず…」

 フィリアはサタナスを憎らし気に睨みつけ、ゲートをくぐった。




 ゲートの先はユーリ達のいた『サクリ』の街から大きく離れた孤島だった。皮肉にもユーリとストルの生まれ故郷『シャンバラ島』であった。

 勇者達の旅が始まった街でもある旅立ちの場所…


 旅立ちの時に抱いていた希望はすっかりと絶望に変わっていたのだった。


 もうすぐ夜明けだ…

 しかし空を見上げても明けの明星は雲に隠れていた…

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