表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ロマンス小説のツンデレヒーローに転生したが、じれったいロマンスを繰り広げるにはもう遅い~俺は迅速にヒロインを幸せにします~

作者: 及川ユギ

絹の真新しいシーツの敷かれた寝台に、少女が一人腰掛けている。

その格好はレースとサテンで飾られてはいるものの、余りに儚げだ。

だがその紫水晶の瞳に宿るものに気付かず、男は冷徹な口調で告げる。

「ひとつ言っておくが、君を妻として扱うつもりはない、」


ここまで言った瞬間、俺は急に目が覚めた。

いや、意識が浮かび上がっていた。

……ここは妹に借りて読んだ、ロマンス小説「絹薔薇令嬢は常冬辺境伯の氷河を溶かす」の世界だ!


俺は「常冬辺境伯」マクシミリアン・ブロンディール、25歳、拗らせイケメン。

そして向かい合うのは「絹薔薇令嬢」シルスローザ・エメライン、18歳の絶世の美少女。

エメライン侯爵家の令嬢だが、生母を失い婿養子の父親が後妻を迎えて以来不遇な扱いを受けていた。

ここに嫁いできたのも本当は異母妹のティナマリアに来た縁談を押し付けられたのだ。

本来の婚約者、幼なじみのガリバルディ公爵家の令息フレデリックとの間を引き裂かれて。


……俺は前世、生前はオタクだった。

そして俺の妹も血は争えずオタクだった。

だから互いお勧めの本やゲームなんかを渡し合っていたのだが、この小説もその一冊だった。

かわいそうな美少女が紆余曲折の末イケメンに溺愛され、虐げてきた連中をざまぁする。

実に王道な展開だ、田舎のばあちゃんが少女時代も人気があった展開だ、うちのオタクは先祖代々受け継いでいるものだ。

実によくある物語なのだが、俺はどうしても気になることがひとつあった。

……このイケメン、クッソバカで失礼じゃね?

いや俺だってツンデレの良さは分かっている。

だがいきなり初対面の美少女に初夜にこんなこと言うか?

妻として扱うつもりはない、黙って大人しくしていろとか、普通に生きてたら発さないだろ。

幾ら女嫌いで拗れてても、あり得なくね??

妹にヒーローがこんな男でいいのかと聞いてみたら、そんな男が後悔してオロオロしつつヒロインを洗脳…もとい口説いていくのがいいんだと。

なるほど。

あとヒーローにむかつく層向けに元婚約者が迎えに来るIFルートもあるそうで。

至れり尽くせりだな。

まあ俺もツンが過ぎる幼なじみもう遅い物を愛読していた身だ、そこまで説明されればよく分かる。

確かに幼なじみと復縁も新たなヒロインとキャッキャウフフも捨てがたい…と、おっと、話が逸れた。


つまり俺は今後の展開を知っている。

やたら罵られたり傷付けられないだけマシとシルスローザが館でひっそり暮らすうちに、その生来の美貌と優しさで館の使用人達の信頼を得、マクシミリアンにもそれはいつしか届く。

段々と距離を近付けていくも、初夜に言い放った言葉のせいで愛を告げられないマクシミリアン、惹かれていっても最初から報われないのだと諦めているシルスローザ。

そんな二人の関係を、何故だかわざわざ訪れたティナマリアが動かすことに__。

とにかくじれったいし物語と為ては必要不可欠なのは分かっている。

フレデリックに振られて勘違いしているティナマリアが、どうやら辺境伯はイケメンだし自分が正しい妻になるわ、とやって来て、シルスローザが館を出て行き、森で彷徨ううちに見つけた森番の小屋で、探しに来たマクシミリアンと告白し合うというヤマ場の為にも。

……ここまで大体10万字?

作中時間は1年くらいかな、多分。

そんなに時間掛けてられるか。

俺は目の前の美少女を今すぐ幸せにする!

これ以上傷付けたりしない!

正直一目惚れです!淡いブロンドにアメジストの瞳の儚げなこの娘に!

イラストも可愛かったけど生で見ると段違いだよ、声も仕草も全部可愛すぎる!


ここまで思考が至るのに、恐らくは数秒もかかってはいなかっただろう。

俺の人生で一番頭脳が回転した瞬間だった、今生でも前世でも。

俺は軽く咳をして、改めて口を開いた。


「無いなんて絶対言わない!俺は君を妻として超大事にする!可愛すぎる!大好き!一目惚れしました!好きです!」

……マクシミリアンのキャラ大崩壊でしょ!と、妹が聞いていたらきっと怒るだろう。

でも俺は魂の叫びで伝えずにはいられなかった、シルスローザ!好きだぁあ!…ry…。


「……マクシミリアン様、あの」

「なんだい?」

俺の愛の叫びからしばらく。

無言でアメジストの目を大きく見開いていたシルスローザが、やっとの事で声を上げた。

長いまつげをそっと伏せる、かわいい。

俺は今更ながらイケメンらしい顔をした。

「……私、そんなこと言われたのは生まれて初めてです。この結婚も、妹の代わりに来たもので」

「君の妹なんかいらない!俺は君と会いたかったんだ、シルスローザ……ローザと呼んでもいいかな、俺の事はマキシーと呼んでくれ」

「マキシー様」

「様はいらないよ」

「…はい、マキシー」

頬を染めて肯く様が可愛すぎる。

天使だろうこれ、この世界天使いたかなまあどうでもいいや俺の嫁超可愛すぎる。


そうして俺、マキシーと愛する天使妻ローザはラブラブでキャッキャウフフでイチャイチャパラダイスな毎日だ。

ブロンディール辺境伯家に先代より仕える老家令が滂沱の涙を流すほどに。

お世継ぎがこのままでは見られないのかと思っておりました…って。

一体どんだけヤバいように見えてたんだマクシミリアン。


一応今生の記憶や経験は前世のそれと同期してるが、妙に白けた感じで受け止めている。

客観視出来るのは良いのか悪いのか。

ひとつ言えることは、面倒臭い状況に陥らないで良かったってことだ。

俺はローザと存分にイチャイチャしまくれるし、ローザを苦しめたエメライン侯爵家を没落させるのに直ぐに全力を費やせる。

王族にも縁故があり、侯爵家と同等、いや以上の地位であるブロンディール辺境伯として行くぜ俺は。


ローザの元婚約者のガリバルディ公爵家にも交渉して繋ぎを付けられたし、後は一番効率的な瞬間を狙うだけだ。

ローザに言えばあの娘は心優しいから心を痛めるだろうし何も言わないけど、存分にざまぁしてやるぜ。

それで10万字埋めてもいいくらいだ、イヤやっぱしやだな。

残りの文字数は俺とローザの愛の軌跡で埋めよう。

気合い入れていくぜ!

俺のラブライフは始まったばかり何だからな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ