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夢宵人形館  作者: 秋月真鳥
本編
9/36

 人形達の朝は遅い。

 すでに日も高く上ってから起き出す人形達。アサヒは起きるとすぐに厨房に行って野菜を洗い出す。厨房の壁に寄りかかって、女用心棒のヴィラが眠たそうにあくびをかみ殺していた。用心棒とは名ばかりで、仕事がない時には彼女は人形の世話をする。むっつりとした顔で芋の皮をむいているのは、男用心棒のガイ。いかつい彼も店長のアケビにかかればどうしようもなく、毎日人形達の食事の準備を手伝わされていた。

「もう年が改まっちゃったね。八月もすぐに来るよ。」

 鍋に油をひくヴィラに声をかけられて、アサヒは嬉しそうにこっくりと頷いた。

「あんたがいなくなると、わたしたちは困るんだけどね。」

 他の人形達は火を怖がったり面倒くさがったりして、用心棒達の食事作りまで手伝ってはくれない。アサヒ用の踏み台ももうすぐいらなくなるのかと思うと、ヴィラは一抹の寂しさを覚えた。


 人形は数年で入れ替わる。

 期限の切れた人形は、廃棄される。


「八月でおいら、いくつになるのかな。」

 数えてもいない年を思い出そうとしても思い出せず、アサヒは洗った野菜を切り始める。

 廃棄になった人形がどこに行くのかは人形と店長以外誰も知らない。

 けれど、その日を指折り数えて待ち遠しそうにするアサヒの様子から、悪いようにはされないのだろうとヴィラも安心していた。

 褐色の肌に筋骨隆々とした女用心棒ヴィラ。灰色の髪のちょっと陰気な男用心棒ガイ。

「ガイの好きな豚肉のカシューナッツ炒めも作ろう?」

 ねだるようなアサヒの言葉に、灰色の前髪に隠されたガイの視線がちらりとアサヒに向かった。アサヒはにっこりと笑顔を返すが、ガイは興味なさそうにまた芋の皮向きに戻る。

「あんたがどうしてガイに肩入れするのか、私には全然分からないんだがね。」

 呆れながらも油で豚肉を炒めだすヴィラ。

 他の人形達が目覚めるまで、時間はあと少ししかない。


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