七
ホタルのところに、ホクトは夜に仕事がない場合はいつもやってくる。人形を借りる料金は決して安いものではない。けれど、高位の軍人であるホクトにはそれほど大きな金ではないのかもしれないと、ホタルは思う。
それでも、自分なんかにお金をかけるよりも、もっと実のある使い方をすればいいのにと、思わずにはいられない。
「どういう使い方がいいと思うんだ?」
長い足をこれまた長々と伸ばしてテーブルの上に置くホクトに、それ、やめてくださいと懇願しつつ、ホタルは考えた。
実のあること。
「結婚して奥さんと子どもを守るとか……。」
言ってから、ホタルは胸が小さく痛むのを感じた。その痛みが何なのか、ホタルには分からない。
「もうすぐ死にに行くのに間に合わないよ。それに種なら色んなところで撒いてるから、どれか成功してるだろ。」
それを産み落とすか産み落とさないかは本人の自由だけど。
そんな冷たいことを言うホクトに、ホタルは相手のことを本気で同情してしまう。それと同時に、その相手にどんな睦言を囁いたのだろうと考えると、脳みそが煮えてくる気がした。
「死なないで下さい。」
そっと寄り添って手を握る。ホクトの手は分厚くて硬い。それを握るにはホタルの手は小さすぎる。
「どうせ人はいつか死ぬ。死ぬなら派手に死にたいんでね。」
ホタルの頼みをホクトは聞いてくれる気がないようだった。
「それより、碁を打とう。」
誘われてホタルは渋々碁盤を押入れの中から引っ張り出す。客の求めに応じて碁やチェスは一通り習っていたが、ゲームというか競争がホタルは得意ではなかった。
「ホタルは分かりやすいな。」
眉間に皺でも寄っていたのか、髪をくしゃりとなでられて、ホタルは顔を赤らめる。サユキほどではないが、自分も客のあしらいは上手くなってきたと思っていたはずなのに、ホクトの前ではそれが通用しない。
「負けませんからね。」
一応宣言してみるものの、ホタルには勝つ自信は全くなかった。
「俺が好きか?」
ふと、遠い目をしてホクトが問いかける。
ホクトは時々、こうやってホタルに確認する。答えてしまえばもうホクトが来ない気がして、ホタルは聞こえなかったふりをする。
勝負が終わるとホクトはホタルを抱きしめて眠る。
ホクトの体温にどきどきして、ホタルは眠れないままに朝を迎えるだろう。
人形が恋をしてはいけない。