六
隣の椅子に腰掛けていたサユキが突いたので、ホタルは目だけそっちに向ける。
「あの人、ずっとホタル見てますよ。絶対ホタル狙いでしょ。」
言われて窓の外に目を向けると、大柄だが内気そうな男性がこちらを見ていた。
「でも、きっと、店長はあの人はコナツに上げると思うな。」
アサヒが小声で口を挟む。
「あっち、可愛い子。」
ヒサメが珍しく口を開いたので全員が目を向けると、カントリー風のデコレーションケーキのようなワンピースを着た十歳前後の子が、食い入るようにアサヒを見ていた。アサヒは視線に気付いてひらひらと手を振る。
「アサヒもてるよねー。」
コナツが羨ましそうに呟くと、アサヒは得意げに胸を張った。
「人徳人徳。おいらって、座ってるだけで後光が差してるから。」
「おいら、じゃないでしょう?」
鋭くサユキに突っ込まれて、アサヒは口を閉じた。
「どうして、田舎の小僧のような喋り方をするんですか?」
追求するサユキに、アサヒは視線をさまよわせて答えない。
「僕、あの人は、中に入れてもらえないと思う。」
さっき話題になった大柄で内気そうな男性を視線で差して、ヒサメが言うと、ホタルも小さく頷いた。
「ちょっと危なそうな感じですからね。アケビさんのおめがねにはかなわないでしょう。」
客を選ぶのは人形ではなく、あくまでも店長。一度おめがねにかなって人形に会えば、その後でクレームが来ることは、驚くほどに少ない。
「賭けようぜ。次の客は誰のか。」
アサヒが言い出すと、仕方なさそうにサユキがため息をついた。
「あなたって人は……。」
「おいら、ホタルだと思うな。あの軍人さん、そろそろ来るよ。」
毎日のように通いつめているホタルの常連客を持ち出したアサヒに、コナツが言った。
「僕です!トーノさん、頻繁に来てくれるって言ってたし。」
負けず嫌いの新参者に、ぴしゃりとサユキが言う。
「僕でしょう。常連客の多さじゃ一番ですから。」
それに、ヒサメも同意してこくりと頷いた。
人形達の夜は、始まったばかり。