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夢宵人形館  作者: 秋月真鳥
本編
30/36

二十九

 人形館の利益がどこに消えているか、誰も知らない。

 アケビがスズオトに「どれだけ金がかかってもいいから移植手術を受けな。」と命じたことも。

 アケビが人形達の行く末をひっそりと見守り続け、その危機には手助けをしていることも。

 誰も知らない。

 知らなくていい。



 長い黒髪の美女が人形館に現れたのは、アサヒが出て行ってから二年の後のことだった。おっとりとした風情で、逞しい夫と一緒に来ていた彼女を見て、コナツは呆気にとられた。

「だ、駄目だよ、こんなところに来ちゃ!」

「大丈夫ですよ。店長はもう、私が誰か分かりません。」

 おっとりと微笑むのは、確かに美しい大人の女性へと成長したホタルだった。年の頃は二十歳前後だろうか。ほんの二年半でこんなにも急成長できるとは思えなかった。

 サユキもヒサメも出てきてホタルを迎えた。隣りにホクトが立っているから、アケビは分かっているだろうに知らぬふりを決め込んだ。

「新しい子達ですね。初めまして。」

 極上の笑顔を振りまくホタルに、サユリもミホシもぽぅっと見惚れている。

「俺のだ、手を出すなよ。」

 十やそこらの子どもに対して敵対心をむき出しにするホクトに、ホタルがくすくすと笑う。その笑顔を見ているとサユキは自分まで幸せになれるような気がした。

「ホクトから話を聞きました。その節は本当にありがとうございました。」

 今更ながらに頭を下げられて、コナツはどきどきして真っ赤になる。まさかホタルがこんなに早く美しい大人になるなんて思いもしていなかった。

「ホタルが幸せなら、いいんですよ。」

 きっと、アサヒがいたら「ホタルが幸せなのが一番だよ、おいら。」と言っていただろうと思い、サユキがそれを口にする。

 サユキとヒサメの年季は後二年しっかりと残っていた。それを終えた後、自分たちはアサヒのように輝く笑顔でここを出て、ホタルのように幸せになれるのだろうか。

 ここを出ることに幸せがあるのだろうか。

 サユキにはまだ分からない。ただ、言えることは、未来は闇ではないということだけだった。

 未来は未定。

 だからこそ、希望を持って生きられる。

「客が来るからそろそろ帰ってくれないかね。」

 アケビに言われてホタルは何度も頭を下げながら去っていった。その隣りには変わらずホクトの姿がある。

 片腕を機械にしたホクトは、軍を辞めて遠い辺境の地で教師をやっているらしかった。その教える教科の中には、体術も含まれている。

「皆さんお揃いで、どうしたのかな?」

 トーノの来訪に、人形達は慌ててガラス窓のある部屋に走っていく。アケビはトーノにいつものように長々と注意事項を告げてから、コナツを呼ぶ。

 弟分が出来てから落ち着きが出てきたと人気の高いコナツは、喜び勇んで駆けて来た。その様はまるで子犬のようである。

「前のお客さんは僕にメイド服着てって言いました。トーノさんにも着ましょうか?」

 無邪気に問いかけられてトーノは複雑そうな顔をした。

「それは、遠慮しとこうかな。」

 そのままで充分コナツがかわいいことをトーノは知っている。

 多分、誰もが、自分の借りる人形が一番可愛いのだ。

 夢宵人形館は人形を変え、用心棒を変え、続いていく。

 長い長い神のように長いアケビの生の続く限り、場所を変え時を超え。

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