二
サァヤがアサヒを見て最初に言ったのは、こんな言葉だった。
「あなた、男の子?女の子?」
その問いかけに、慣れた様子で赤いぼさぼさの髪のアサヒは、いたずらっぽく緑の目を細める。
「駄目なんだって、そういうこと聞いちゃ。人形にちんちんついてるかどうかなんて、気にしないの。おいらはただの人形。今日あなたに貸し出された人形だから。」
言いながら、アサヒはテーブルの上に次々と料理を並べていく。中華料理なのだがそれほど油っぽくなさそうな風体のそれらに、サァヤは自分が朝から何も食べていなかったことを思い出した。
「うちの息子がね、小さい頃、あなたそっくりだったのよ。今は憎たらしく育っちゃって、都会で大学に行ってるんだけど。」
喋りながら勧められるままに箸をとると、料理は全てさっぱりとして美味しかった。野菜が中心の、サァヤの好みの料理。
「おいらが作ったんだよ。おいら、料理が得意なんだ。」
へへっと得意そうに笑って鼻の下をこするそのしぐさも、やっぱり小さい頃の息子と似ていて、サァヤはますますアサヒから目が離せなくなる。
アサヒの部屋は真ん中に大きな丸テーブルがあって、奥に簡易キッチンがある。寝台はとりあえずあるだけ、というような簡易なものだった。
「おばさん、顔色悪いんだもの。もっとちゃんと食べなきゃいけないよ?」
言われて、自分が息子に言っているのと同じようなことだと思うと、思わず笑ってしまうサァヤ。その笑顔に、アサヒの笑顔が深くなった。
「子どもがいなくなって、夫は仕事ばっかりで、することがなくなって、ふらふらと歩いてたらあなたを見て、つい入っちゃったんだけど、お食事は別料金かしら?」
この部屋に入るだけでかなりの料金を払っているサァヤは不安になって問いかけたが、アサヒはきっぱりと首を振る。
「これはおいらの趣味だもの。サービスだよ、サービス。」
そう言われてもう一口口に運んでから、サァヤは自分の目から涙が零れていることに気付いた。
「誰かにご飯を作ってもらうなんて、どれだけ久しぶりだろう。」
作るばかりで作ってもらったことのなかった食事。
サァヤは自分が子どもの頃に帰ったような気がした。
子どもの頃の自分が、子どものアサヒと対峙している。
「食べたくなったらいつでもおいで。おいら、もっと色々作れるようになっとくから。」
アサヒの笑顔に、サァヤの胸がときめく。
「あ、これ、店長に内緒ね。うちは飲食店じゃないから、保健所の指導が入っちゃう。」
慌てて口止めするアサヒに、サァヤは深く頷いた。