二十一
夢宵人形館の人形が四体で落ち着いて来た頃、戦争がぱたりと終わった。もちろん、この国の圧勝だった。負けた国は領土を明け渡して降参しているらしい。
そんなことを話しながらの食事風景。普段ならば明るいもののはずなのに、ホタルがいないだけで風穴が開いたようにサユキたちは物足りなさを感じていた。
ホタルが地下室に監禁されて、ヴィラがホタルに食事を持って行くようになってから、半月が過ぎた。
「アケビさんは、ホタルをどうするつもりなんですか?」
冷静を装って問いかけたサユキに、アケビの鋭い視線が突き刺さる。
「あの子は契約を破った。それ相応の罰を与えないといけない。」
ただでさえ、ホタルが店に出られなくなったことで人形館に損害を与えているというのに。
忌々しそうなアケビの言葉に、アサヒが唇を尖らせた。
「ホタルが悪いんじゃないじゃないか。」
「隙があったってだけで、充分、重罪だよ!」
一喝されてアサヒが飛び上がる。
「売春宿に売るか、精肉所に連れて行くか……。」
低い声で呟いたガイに、アサヒが立ち上がってガイの頬を引っぱたいた。
「冗談でも言っちゃ駄目だ!」
引っぱたかれてガイは素直に謝る。
「すまん。」
ホタルに食事を運んでいたヴィラが戻ってきたので、場の空気が僅かに緩んだ。
「心が育っちまったから、体も育った。あの子は、心が育つようなことをあの軍人にされたんだ。」
人形達に言い含めるようにしてアケビが口を開く。
「あんた達もゆめゆめ油断するんじゃないよ!あんたたちは人形なんだから。」
その言葉はサユキの心の一番柔らかい場所に刃を突きたてる。
人形は人形でしかない。
人形が人間の隣りに並ぶことはない。
「ホタルに、ひどいことしないで下さい。」
コナツの懇願にアケビは答えない。
食事が終わってから、人形達はサユキの部屋に集まった。
「ホタルを助けなきゃ。」
意気込むコナツに、サユキが眉根を寄せる。
「助けたら、僕たちも同じ運命になるかもしれません。」
そう言われると恐怖が勝って、コナツは顔色を変えた。そのコナツの肩を抱いてアサヒが言う。
「おいら、年季を伸ばしてもいいって言ってみる。その代わり、ホタルを自由にしてくれって。」
自分の自由をあっさりと捨て去るアサヒの発言に、ヒサメが首を振った。
「駄目。長く人形でいると、体を蝕むってスズオトが。」
元人形であったというスズオトの言葉を持ち出したヒサメに、アサヒはあっけらかんと言う。
「いいよ。」
その潔さこそが、この人形の魅力なのだと思い知りつつも、その無謀さにサユキは頭を抱えた。
ここで共倒れになってはどうしようもない。
「あの軍人さえ帰ってきたら……。」
ホクトが帰ってきてホタルをさらってしまえばいいのになどと、甘いことを考え出すコナツに、サユキは呆れ帰る。あの軍人とホタルが会える確立などないに等しい。
それでも。
それでもと願ってしまう自分は、コナツのことを笑えないほど子どもなのだろうかと、サユキは思う。
「お客さん……。」
人一倍勘の鋭いヒサメの言葉にサユキがはっと息を呑んだ。
まだ開店時間ではない。




