十八
アサヒが戻ってきた。
その知らせに人形達はほっとため息をついた。
閉店時間を過ぎた早朝、アサヒはガイと一緒に戻ってきた。何故か照れ笑いをするアサヒを、アケビはぎゅっと抱きしめる。
「怖かっただろう?無事でよかった。」
普段は取り乱さないアケビの様子に、サユキが目を細めた。その笑顔を見てヒサメが面白くなさそうに眉根を寄せる。そんなヒサメの頭をホタルが撫でてやった。
「踏み入った時には、アサヒは裸だった。」
淡々とした報告に、アケビが目の端を吊り上げる。
「なんてことだい!何もされなかったかい?」
「おいらが脱いだんだよ。大丈夫だから。」
強く強くアケビに抱きしめられて「むぎゅー。」と言いつつも、アサヒは笑顔を保っていた。
人形達が寝静まった頃、ガイはヴィラとの交代時間を待ちながら薄暗い半地下の休憩室で仮眠を取っていたが、扉をノックする音に目を覚ました。交代時間かと思って時計を見るが、まだ時間にはなっていない。あのがさつなヴィラがノックなどしないと言うことを思い出し、ガイは扉のところへ行ってそれを開けた。
立っていたのは眠たげな様子のアサヒ。
ガイはぐしゃぐしゃとアサヒの髪をかき回す。
「どうした?」
無表情なガイに、背伸びをしてアサヒは抱っこをせがんだ。ガイは陰気な表情のままアサヒを抱き上げる。
「おいら、ちゃんとガイが迎えに来てくれるって信じてたんだよ。」
言い訳するようなアサヒの言葉に、ガイは無表情のまま冷たく言った。
「油断しすぎだ。」
「ごめんなさい。でも……ガイが来てくれるって、思ってた。」
それでも。
そうアサヒは続ける。
「ちょっとだけ、もう戻れないかもしれないって思った。そしたら、どうしても、ガイに会いたかった。」
ぎゅっとガイの陰気な顔を抱きしめてアサヒは囁く。
「おいら、ガイが好きだよ。人形じゃなくなっても、いつか戻ってきて、ガイを迎えに来るよ。」
密やかな囁きに、ガイは応えない。
その代わりに、ぐしゃぐしゃとアサヒの頭を撫で回した。
「おいら、もっと強くなる。ガイを守って上げられるくらい。一人で痩せ細ってうずくまってたガイを、迎えに来れるくらい。」
その言葉にガイが僅かに頷いたような気がして、アサヒは嬉しくなってガイの頬にキスをする。ガイは用件は終わったとばかりに、アサヒを腕から下ろした。
「アサヒがガイをね……。」
廊下の端からそれを見ていたサユキがぽつりと呟くのに、ヒサメが眠たい目をこすりながら縋りつく。
「所詮、僕らは人形でしかないのに。」
サユキの暗い目にヒサメが悲しそうに眉根を寄せた。




