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夢宵人形館  作者: 秋月真鳥
本編
17/36

十六

 人形は育たないように薬を服用している。

 ホタルは毎日欠かさずそれを飲んでいた。苦くて嫌な匂いのするどろりとした薬。

 それは義務であり、責任だった。

 それなのに。

 着る服の袖丈が短くなっていることに気付いて、ホタルは愕然とする。

 育っている。

 育ってはいけないはずの人形が、育っている。

 出来るだけ大き目の服を着て、踵の高い靴を履いてごまかしてもいつかはばれてしまうこと。

 これがこのまま止まればいいが、進んでしまったらホタルはもう人形館にはいられなくなる。

 人形館にいられなくなった人形がどうなるか、ホタルは知らない。ちゃんと年季を終えて出て行く人形達の顔は明るかったから、決して悪いようにはされないのだろうが、年季を終えていない自分が使い物にならなくなったと知られれば、最悪の場合、裏路地に死体が一つ転がることになる。

 アケビは厳しいが筋の通った店長で、年季の終えた人形を決して酷いことにはしない。けれど、自分はまだ一年以上もそれが残っている。

 ホクトが来なくなってから、ホタルの心は鈍色に沈んでいた。ホクトは最後にホタルにキスをくれた。あれは愛の証だったのではないかとホタルは思う。そうであってほしいと。

 それならば尚更に恋しくて、ホタルは他のお客と普通に接することが出来なくなってしまった。

 ぼんやりすることの多いホタルに、苦情が殺到する。


「あたしは嫌じゃないけど、そのため息、他の男に聞かせちゃ駄目だよ?」

 ミワに言われてホタルは自分がため息をついていたことに気付く。気付かないほどに頻繁に、ホタルはため息をついていた。

「ミワさん、今日は何をしますか?」

 慌てて笑顔を作ると、ミワは皮肉げに口を斜めにする。

「一曲、歌ってもらおうかね。」

 言われてホタルはベッドに寝そべったミワの傍に腰掛けた。

 歌うのは異国の言葉で綴る古い子守唄。ホタルは色々な歌を歌えたが、ミワはそれが一番好きだといっていた。


 精悍な顔を緩ませることなく眠るホクト。

 彼に子守唄くらい歌ってやればよかったのに、ホタルはその寝顔に魅入ってそれすらも思いつかなかった。


 歌が終わるとミワはホタルを抱いて寝転んだ。抱きしめられて、柔らかな胸の感触にホタルはどきどきする。


 自分にもこんな柔らかな体があれば、ホクトはもっと抱きしめてくれただろうか。


「眠っていいよ。今日はあんたの寝顔を見たい気分なんだ。」

 涙の滲んできた目を、ミワが閉じさせてくれる。ホタルは目を閉じてミワの鼓動に耳を澄ました。

 暖かく力強い音。

 穏やかな気持ちで目を閉じ憩うた瞬間に、アラームが響き渡った。


「アサヒが盗まれた!」


 用心棒の声と足音に館内が騒がしくなる。

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