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夢宵人形館  作者: 秋月真鳥
本編
16/36

十五

 決まりは決まり。

 無理なものは無理。


「トーノさん、ついに店長にコナツを譲ってくれって言ったらしいよ?」

 人形達の客ならば一度は通る道だが、それが早かったとアサヒがため息をついた。遅い朝食の後、部屋の掃除を終えて一休みしているコナツのところにアサヒが駆け込んできたのだ。続いてホタルやサユキ、ヒサメも集まる。

 サユキのいるところにならばどこでも付いて行くヒサメは別として、サユキやホタルまで来なくていいのにと思いつつ、コナツはため息混じりに零した。

「そんな風に思ってくれるのは嬉しいけど、店長激怒りでトーノさんをもう来させないとか言ってたし、へこむよ。」

 コナツのため息に、最近ぼんやりとすることが多くなったホタルがぽつりと言う。

「でも、来るでしょうね。」

 そして、来たら仕方なく店長はトーノをコナツに会わせる。

「息子にしたいって。僕の性別も知らないのに。」

「あながち間違ってないじゃん。」

 軽く言ったアサヒにサユキがじろりと目を向けた。

「性別の話題はタブーですよ?」

「人形しかいないんだし、いいだろ?」

 どこまでも自由なアサヒに呆れつつ、サユキはホタルに目をやった。ホタルはまたぼんやりとどこかを見つめている。

「ホタル、髪が伸びてきたんじゃないですか?少し切りましょうか?」

 手を伸ばしてホタルのさらさらとした黒髪をつまもうとした瞬間、思い切り腕を払われてサユキはぎょっとした。いつも大人しいホタルがこんなに過敏な反応をしたことは一度もない。

「いいです!」

 強く言われてサユキはヒサメに視線を移す。鏡に映したようには似ていない双子は、目をぱちくりとさせて小さく呟いた。

「ホタル、そんなに背が高かった?」

 問いかけられてホタルは必死に説明する。

「今日は踵の高い靴を履いてますから。」

 言われてみれば確かに、今まで履いたことのないような踵のある靴をホタルが履いていた。

「こらこら、あら捜しするんじゃないよ。おいら達は仲良し人形5人組なんだから。」

 全員を抱きしめるように腕を伸ばすアサヒに、コナツが首を傾げる。

「そういえば、始まりましたね、戦争。」

 サユキの言葉にホタルの肩がびくんと震えた。

「ホタル、やっぱりあの人に何かされたんだろ?言っていいよ?聞いてあげるから。」

 ホタルの様子にたまりかねて声をかけたコナツに、ホタルはゆるゆると首を左右に振る。

「なにも……。」

 されていません、と言う前に涙が零れて、ホタルは走って自室に駆け込んだ。その背中を四人は呆然と見送る。

「まずいですね。店長に知られたらホタルが廃棄されるかもしれない。」

 人形は心を持たないもの。誰か一人に肩入れしては仕事にならない。

 サユキの言葉にヒサメが首を振る。

「そんなの、駄目。」

 サユキ第一主義のヒサメにとっても、ホタルは大事な先輩だった。急に失いたくなどない。

「トーノさんのこともだけど、全員で何とかカバーしていきましょう。」

 サユキの言葉に、ヒサメ、コナツ、アサヒが頷いた。


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