九
ガイがアケビに拾われたのは、この年をとらない妖怪女(ガイ談)が今と同じ外見で、ガイがまだ骨と皮だけの十一歳の子どものときだった。
館の正面のガラスに張り付くようにして人形を眺めていた小さなガイを、アケビは食事の下働きとして拾った。ガイは無口で陰気だったが、手先が器用で料理が上手かったから、すぐにアケビはガイを気に入った。
「それにしても、こいつったら、館の外にいた時には穴の開くほど人形達を見てたのに、入ってからは見向きもしなくなったんだよ。」
食事の席でのアケビの昔話を、人形達は目を輝かせて聞いている。
「剣はいつから習ったの?僕も今から習ったら強くなれる?」
コナツの問いかけに、アケビは首を傾げた。
「いつ頃だったかねぇ。いつの間にかにょきにょき背が伸びて、あの子は剣術をしてた気がするね。」
アケビの答えに満足しないコナツは、野菜炒めを箸でつまみつつ、ガイに視線を向ける。ガイは黙ってもぐもぐと咀嚼していた。
「いつから?」
端的な問いかけに、端的な答えが返る。
「忘れた。」
ガイの物言いにアサヒが吹き出した。それにサユキが「汚い。」と眉をひそめる。
「あたしが来たのはアサヒちゃんが来るちょっと前だから……その頃にはいっぱしの漢だったもんね、こいつ。」
ヴィラに肘で突かれても、ガイはむっつりとしているだけだった。でも、アサヒは目を丸くする。
「ガイ、照れてる?」
アサヒの言葉に、サユキが目をむいた。
「どこをどう見ればそう見えるんですか?」
「何も、変わってない。」
サユキの言葉にヒサメが同意する。
「おいらには分かるもん。ガイはちょっと照れてたよ!」
主張するアサヒに、コナツも首を傾げていた。
「そういえば、歴代の人形で、あんただけだよね。ガイに懐いてるのって。」
アケビに箸で差され、アサヒは何故か「へへっ。」と照れてみせる。その表情にガイがちらりと視線を向けたのを、アケビは見逃さなかった。
「ガイもあんたを可愛がってるみたいだし。」
アケビの勘ぐる視線に、ヴィラが笑い出す。
「そりゃ可愛いよ。料理の手伝いはしてくれるし、『ガイ!ガイ!』ってまとわり付いてくるし。」
あたしもアサヒが可愛いよ。
そう示すように手を伸ばして頭を撫でてくれたヴィラに、アサヒは満面の笑顔を見せた。
「私も、ガイさんのこと、頼りにしてますし、かっこういいと思います。」
口の中に入れたものがようやくなくなったのか、少し遅れてホタルが主張したのに、ガイはちらりと視線だけで応える。その視線を受けて、ホタルはほっこりと微笑んだ。
「それじゃ、仕事の準備だよ!部屋はきれいに片付けてるだろうね?」
全員の食事が終わったのを確かめて、アケビが立ち上がる。人形達はそろって手を合わせて「ごちそうさまでした。」と一礼した。
ヴィラとガイは食器を重ねて片付けだす。
「部屋の掃除が終わったら手伝いに行くからね。」
一番早く駆け出したアサヒに、ガイが片手を上げて応えたのに、ヴィラが目を丸くした。
「私も、お手伝いします。」
ホタルが食器を重ねて調理場に持って行こうとするのを、ヴィラは微笑ましく見つめる。いつも部屋がきれいなホタルには、部屋の掃除の必要はなく、いつも食器の片付けは手伝ってくれている。
「あんたたちは本当にいい子だよ。」
ヴィラに褒められて、ホタルは頬を赤らめて微笑んだ。




