序
その少年少女は性別すら明かされない。
性的な行為を目的とせず、ただ客と共に時間を過ごすだけ。
時の止まった人形のような年をとらない姿から、彼らは「人形」と呼ばれているが、実際には生きて呼吸をし食べて寝る生物である。
時折顔ぶれが入れ替わることから、交代はしているのだろうが、原則的にその人形館には五体の人形……少年少女がいる。
顔見世のためのガラスケースに収まっていても、そわそわとして落ち着きのないばさばさの赤毛の子どもは、アサヒ。彼(便宜上、人形は全て「彼」と呼ぶ)はこの人形館の一番の古株といわれている。
本当に人形のようにおっとりとした黒目がちの長い黒髪の子どもは、ホタル。彼はいつもガラスの向こうから手を振る子どもに微笑み返している。
面倒くさそうに腕を組み、寝たふりを決め込んでいるのはサユキ。銀髪に水色の目の彼は賢く、みんなのまとめ役だという。
じーっと見つめてくる子どもをじーっと見返しているのが、ヒサメ。ヒサメはサユキと双子で、彼のほうが髪が長いということ以外は鏡に映したようにそっくりだった。
最後に椅子の上に小さくなって座っているのがコナツ。黄色い髪に緑の目のタンポポを思わせる彼は、小心者でいつも小さくなっている。
店の端でチャイナドレスのスリットもきわどく足を組んで座っているのがこの人形館の女店主、アケビ。どの客も自分で選ぶことなく、彼女に人形を振り分けられているが、不思議と不満の声は出ていなかったりする。
彼女と用心棒二人で切り盛りするこの人形館に、夜な夜な客がやってくる。
今日のお客は誰か。
人形達は胸をときめかせて待っている。




