月のリザレクション
すぐそばの海中には、シロナガスクジラとなった海神ポセイドンが浮かんでいた。
そのヒレで、神具トライデントを器用に持っていた。
先ほどまで、シンシアが手に持っていたものだ。
まだ子供のシロナガスクジラは、神具トライデントよりも小さかった。
(パパ、ママ、今までありがとう)
海神ポセイドンは、海の中から博士とレイアに脳波を送る。
「シンシア!」
博士は、海の中のクジラに向かって叫んだ。
「うん? どうしたの? パパ?」
博士の後ろで、シンシアは首を傾げた。
博士が、急に自分の名前を叫んだからだ。
「あっ。いや、そこに、クジラがいたから……。はは……。」
博士は、頭をポリポリと掻いた。
今のシンシアは、もはや海神ポセイドンではなく、その記憶もない。
海神ポセイドンであったことも、海神ポセイドンのこともわからなくなっていた。
「あっ。ほんとだ、クジラだね〜」
シンシアは、海に近寄り、しゃがみこむ。そして、海の中のシロナガスクジラを見つめた。
1メートルほどの小さなクジラが、水面近くに泳いでいた。
「なんか、懐かしく感じるね……、このクジラを見ていると……。」
シンシアは、シロナガスクジラの目をじっと見つめる。
クジラの、その青く透き通った目には、シンシアの姿が映っていた。
海神ポセイドンもじっと、シンシアの目を見つめ返した。
(じゃあ、パパ、ママ。今までありがとう。これからも、シンシアと仲良くね)
海神ポセイドンは、博士とレイアの脳に語りかける。
博士とレイアは、無言で大きく頷いた。
2人は、グッと涙をこらえていた……。
(じゃあね)
シロナガスクジラとなった海神ポセイドンは、ゆっくりと海に沈んでいった。
冷たい風が、シンシアの髪をなびかせる。
その青い目には、消えていく海神ポセイドンの姿が映っている。
その姿は、ゆっくり、ゆっくりと、消えて行った。
博士もレイアもさーべるちゃんも、シンシアの横で、海神ポセイドンが海の底に消えてゆくのを眺めていた。
「バウウウ〜」
さーべるちゃんも、悲しい鳴き声をあげた。
「シンシア、大丈夫か?」
博士は、シンシアに言う。
「うん、大丈夫……。」
シンシアは笑って答えた。
いつもとなんら変わらない笑顔である。
瞳の青さが、少し薄くなった気もする。
しかし、何も変わらない、いつものシンシアだ。
シンシアの左手の小指には、プラスティックの指輪が光っていた。
「それじゃあ、日本に帰ろうか?」
博士は、振り返った。
「そうね」
とレイアは頷く。
レイアも、その目には、うっすらと涙を浮かべていた。
その目の青さは、今のシンシアと同じ色だ。
「よし! さーべるちゃん、行くよ!」
シンシアが、さーべるちゃんに声をかける。
さーべるちゃんは、じっと海を眺めていた。海に沈んでゆく海神ポセイドンとの別れを惜しむように。
「ねっ! さーべるちゃん! 行こうよ!」
シンシアはもう一度大声を出す。
「バウウウ〜」
さーべるちゃんは、海に向かって、大きく鳴いた。
そして、立ち上がり、シンシアの方に振り向く。
「バウ!」
さーべるちゃんは、一旦後ろを振り返りながらも、シンシアの方に走り出した。
そして、シンシアに飛びついた。
「きゃっ! もう、どうしたのさーべるちゃん? あははっ!」
さーべるちゃんは、シンシアのほっぺをペロペロと舐める。
博士とレイアはそれを見て、お互いに顔を見合わせ、笑顔を浮かべた。
(完)
応援いただきありがとうございました。
私にとって、本作品が初のファンタジーで、初の長編でした。
これを無事に終わらせることができたのは、皆様の応援があったからです。
特に、レビュー書いてくださった『暮伊豆』さまと『すぎモン』様、いつも感想を書いてくださった、『砂礫零』さま、『シッラ』様、『宇宙ゴミ袋』さま、素敵なバナーを描いてくださった『秋の桜子』さま、さーべるちゃんとシンシアちゃんの素敵な絵を描いてくださった『砂臥 環』さま、本当にありがとうございました。
そして、最後まで追いかけてくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。
テーマソングの歌詞も書きましたので、ぜひご覧くださいませ。最後まで読んでいただいた読者の皆様なら、シンシアちゃんの博士への思いをより一層感じていただけるかと思います。下にリンクがあります。
しばらくは、現在連載中の『魔法少女マンゴスチン』の方に集中する予定です。そちらもどうぞよろしくお願いいたします。全くテイストの違う作品になっております。下にリンクがあります。
しばらく新連載の予定はありませんが、また何か思いついたら書きます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
幸田遥
2020年9月16日




