老兵は死なず
シンシアは、氷の塊をジャスティン目掛けて発射した。
2つの氷の塊は、彼女に向かって一直線に飛んでゆく。
パリン
パリン
ジャスティンに向かって飛んで行った氷は、彼女にたどり着く前に、部屋の真ん中で、砕け散った。
「なん……だ?」
シンシアは目を丸くする。
「Are you stupid? There is tempered glass in the middle of this room. Do you think if I would meet you guys without any preparation? I thin that was just an ice. I agree the ice couldn’t go thorough the tempered glass. (お前たちはバカか? 強化ガラスだよ。私が無防備で、侵入者に対峙するわけがないだろう? 所詮は氷だろ? この強化ガラスには敵わなかったようだな。ははっ)」
ジャスティンは声をあげて笑う。
透明な強化ガラスが、部屋の真ん中に貼ってあったのだ。
いくら高速で飛ばしたとはいえ、シンシアが飛ばしたのは氷の塊であった。鉄の弾丸すら跳ね返す強化ガラスの前では、氷の塊は無力であった。
「そうか、強化ガラスか……。さぞかし強いんだろうなぁ。なぁ、アムル……。」
博士は、自信満々なジャスティンを鼻で笑った。
(仕方ないなぁ。えい!)
博士の背中で、アムルが神具ケラノウスを振りかざす。
バシバシ
ゴゴゴゴゴ
パリーン
神具ケラノウスの先端から放たれた稲妻は、強化ガラスに当たる。その強化ガラスは音を立てて割れた。
部屋の真ん中にガラスが粉々に砕け散る。
「You can see that. I guess you do not have aother option. I bet the game is over! (割れたなぁ……。ジャスティン。他に手は用意してないんだろう? 観念したらどうだ?)」
博士は、部屋の真ん中の割れた強化ガラスの残骸の上を歩き、ジャスティンに近づこうとした。
「大城戸教授! 待ってください。教授が、手を汚す必要はありません!」
沖田船長が、博士の後ろから声をあげ、博士を止めた。
「私が行きます。大城戸教授は、どうかここで……。」
沖田船長は、真剣な眼差しで、博士を見つめる。
「……、はい」
博士は、沖田船長の気迫に負け、頷くことしかできなかった。
沖田船長は、口元に笑みを作ると、視線をジャスティンの方に向けた。
絨毯の上に散らばった強化ガラスのかけらの上を沖田船長が歩く。
ガシャリ、ガシャリと音を立てて。
なす術が無くなったジャスティンは、ただ椅子に座り、沖田船長が近寄ってくるのを待った。
この状況に陥っても、その目は、沖田船長の目を睨みつけていた。
「Do you understand what you’ll be? (さて、覚悟はできているんだろうな?)」
沖田船長は、ジャスティンの目の前に立つと、右手で拳を作り、それに力を入れた。
「Do you hit me? (殴るのか?)」
ジャスティンは、じっと目をそらさず、沖田船長を睨み続ける。
彼女はこの状況でも、目つきと威勢は変えない。
「Yes! There is no difference between male and female in the sea. I guess it is the same situation in researchers. (もちろんだ。海では、男も女も関係ない。研究の世界でも、そうだろう?)」
沖田船長は、ジャスティンの目をじっと睨む。
「You are right! Go ahead! (その通りだ。やれ!)」
ジャスティンは口元に小さく笑みを浮かべた。
ボゴッツ
沖田船長の拳がジャスティンの右頬を撃ち抜いた。
「Oops. (ぐっ……。)」
ジャスティンは、椅子から吹っ飛ぶ。
倒れたジャスティンの服を掴み、沖田船長は、彼女を起き上がらせた。
そして、もう一度、殴った。
ボゴッツ
「これが、佐伯のぶんと山本のぶんだ」
沖田船長は、拳を振るった。目にうっすらと涙を浮かべながら。
ボゴッツ
「そして、パーズと、研究者たちのぶんだ……。」
ゴホッ
沖田船長の右拳は、ジャスティンのお腹に突き刺さる。
「Ummm. (くっ……。)」
沖田船長は、倒れたジャスティンにもう一度目をやる。
そして、博士の方を振り返り、帽子を脱ぐ。
「大城戸教授。私のわがままに付き合っていただいてありがとうございます。しかし、復讐は何も生みません。私は、もう先が長くないので……、これは老人のわがままと思って許してください」
「いいえ、ありがとうございます。沖田船長」
博士は、小さく頭を下げた。
確かに、復讐は何も生まない。
ジャスティンのやっていたことは許せないとはいえ、これから研究者として生きていくのに、人を殴ったと言う過去は必要ない。
「老兵は死なず、去るのみです。これが最後の航海です。日本に帰れば、引退しますよ。さぁ、みんなで日本に帰りましょうか? もちろん、安全運転で」
沖田船長は、帽子をきっちりと被り直した。
「ええ。ジャスティンも他の研究者も殺しはしない。みんなで一緒に日本に帰りましょう」
博士は、口に笑みを浮かべ、頷いた。




