クローン・オブ・ゼウス
博士たちは、細胞生物学研究室の実験室の前に来ていた。
「This is the lab for cell biology. (ここが細胞生物学研究室ですね)」
ウェイが、扉の前に立つ。
ドガシャーン
ウェイが扉を開けようとした時だった。
その扉は、内側から開いた。
いや、正確には、内側から壊された。
「Oh, shit! (ぐぅあ)」
ウェイは、壊れた扉とともに、後ろに吹っ飛んだ。
「えっ!」
「おい、なんだこれは!」
シンシアと博士は大声をあげた。
博士たちの目の前にいたのは大きな黒い熊だった。
博士が以前に海賊船の中で遭遇した黒い熊と同じような熊だ。
「おぉ、パパ! これは、ゼウスだよ! ゼウスそっくりだよ!」
シンシアは目を丸くする。
(なんと言うことだ、俺がいる?)
博士の背中で、アムルも驚きの声を出す。
アムルが最高神ゼウスであった時の姿と同じ姿をしたものが、アムルの目の前にいる。
「なるほど……、やはり、クローンを完成させていたわけだなぁ……。」
博士は、ゴクリと唾を飲む。
最高神ゼウスの細胞が採取され、維持されていることは、マイケル・ワトソン教授から聞いて、博士は知っていた。
しかし、ここまで大きな個体になるまで育て上げられていたのは、博士にとっても意外だった。
扉を破壊した1匹と、その扉の向こうの実験室の中に4匹の熊がいた。
2メートルほどの大きさの黒い熊が、全部で5匹だ。
「ふぅ、念のため確認しに来て正解だったな……。」
博士は、ボリボリと頭を掻いた。
「This is an order of our boss! I am sorry for making you be killed by the bears. (ボスの命令だ、悪く思うな、死んでもらう!)」
5匹の熊の向こうに数人の研究者がいた。彼らは、博士たちに向かって声をあげていた。
彼らが、この大きな熊を、実験室に放ったのであろう。
「研究者か……。まぁ、あいつらは後で説得するとして、この熊をなんとかしないとなぁ……。とりあえず、1匹だけ生け捕りにしたいんだけどなぁ。シンシア、できるか?」
博士はシンシアに視線を向ける。
「生け捕り? うん。気絶させるだけでしょ? 簡単だよ」
シンシアは、コクリと頷く。
シンシアは、そう言って、神具トライデントに力を入れる。
「えい!」
シンシアは、熊の血を操って、血の流れを止めた。
ドスーン
大きな熊は、血の流れが止まり、そのままそこに倒れる。
「これで、気絶しただけだよ」
博士たちのすぐ前にいた1匹は、そのまま、壊れた扉の横に倒れこんだ。
シンシアの手にかかれば、大きな熊も、手に取るように気絶させられる。
「でかした、シンシア! じゃあ、残りは、みんなやってしまって大丈夫だ。でも、注意しろ、こいつらもゼウスと同じ力を持っているかもしれない」
博士は、シンシアに向かって叫ぶ。
クローンの大きな熊たちが、最高神ゼウスと同様に雷を操ることができるとすれば、それは脅威だ。
「4人のゼウスと戦うのかぁ……。」
シンシアは、ゴクリと唾を飲む。
(兄者、あれは俺ではない。俺の形をした別のものだ、遠慮はいらない)
アムルは、シンシアに脳波を送る。
「わかっているよ……。でもほんと、気持ち悪い奴らだよ……。悪いけど、死んでもらうよ!」
シンシアと博士は、実験室に足を踏み入れる。
その実験室の中には、大きな熊がまだ4匹もいた。
それらは、博士とシンシアを睨んでいた。




