雨の日
その日は、朝から雨が降っていた。
シンシアは幼稚園には通っていない。
外出するのは、レイアとともに、さーべるちゃんの散歩に行く時くらいだ。
シンシアは、黄色いカッパを着て、雨の中を歩いていた。足には赤色の長靴を履いている。
さーべるちゃんには、青く小さな傘をさしてあげている。
シンシアは、しとしとと降り続ける雨を見て、あの光景を思い出していた。
水素爆弾で丸焦げに大破した研究船パーズを。
博士もレイアも元気な笑顔を取り戻しつつあった。
一方で、シンシアも元気ではあったが、雨の日は気分が乗らない。
あの日を思い出してしまうから……。
以前なら、黄色いカッパを着て長靴を履き、いつもと様子が違う道をさーべるちゃんと歩くのは楽しかった。
道にできた水たまりで遊ぶのも、もちろん、シンシアの大好きな遊びである。
「さーべるちゃん、楽しい? なんかねー。わたし、雨の日が楽しくなくなっちゃった……。」
シンシアは、さーべるちゃんに話しかける。
シンシアは、近所を散歩中だ。
もちろん、シンシアの後ろには、レイアもいる。
昼過ぎなのに、雨のせいで、辺りはうっすらと暗い。
その雨の中を、さーべるちゃんと歩いていた。
「あっ、シンシアちゃん!」
シンシアの目の前に見えた人影が、声をあげた。
篠原かすみとその息子の拓也だ。
幼稚園からの帰りである。
「どうしたの? シンシアちゃん? 元気ないの?」
拓也は、シンシアの目の前まで走って来ると、シンシアの顔を心配そうに覗き込んだ。
「うん、ちょっとね、雨が降ると、悲しいことを思い出しちゃうんだ」
シンシアは、悲しそうに目を俯けた。
「雨が降るたびに悲しいことを思い出すの? ダメだよ!」
拓也は、シンシアの目を見るように、シンシアの顔を下から覗き込む。
「じゃあ、僕が、元気が出るおまじないをやってあげるよ。ちょっと待ってね……。」
ちゅっ
シンシアのカッパの帽子を下げ、シンシアのほっぺたにチュウをした。
「えっ……?」
シンシアは目を見開き、頬を赤らめた。
「ねっ、元気が出たでしょ。今、幼稚園で流行っているんだ。好きな子のほっぺたにチュウってするとね、2人とも元気になるんだ」
拓也は口元に笑みを浮かべる。
「……。」
シンシアは、目をパチクリさせる。
「だからさ、雨が降ったらさ、このことを思い出してよ。辛いことは楽しいことで忘れるんだよ。雨の思い出は、これ! わかった? シンシアちゃん?」
「うん! ありがと!」
シンシアは、大きく頷いた。
「じゃあ、これをあげるよ、元気になるお守りだよ」
拓也はポケットからプラスティックの指輪を取り出す。おもちゃの小さい指輪だ。
それはシンシアの左手の小指にぴったりとはまった。
「わっ、ぴったりだ。ありがとう」
シンシアは、笑った。
拓也はシンシアの笑顔を見て、頬を赤らめた。
「僕は、シンシアちゃんに会えなくて寂しかったんだよ。本当はずっと一緒にいたいんだよ! 前もどっか行っちゃったし……。ねぇ、シンシアちゃん、今度はいつ帰ってくるの? きっと、帰って来てね。約束だよ! これがあれば、きっと僕らはもう一度会えるからね」
「うん! ありがとう! きっと無事に戻ってくるから……。」
シンシアは、大きく頷いた。
シンシアの目には、涙がにじんでいた。
きっと嬉し涙であろう。
「「うふふ……。」」
2人の後ろで、レイアとかすみは、お互いの目を合わせて微笑んだ。
「あっ、雨が止んできたねっ」
拓也が空を見上げ、声を出す。
雨は小降りになってきた。




