イブカ出産
『イブカ』の赤ん坊が無事に誕生した。
2匹目のイブカだ。
2匹目のイブカも、オーストラリアで生まれた1匹目のイブカと同じように、20cmほどの小さなイルカだった。
「Awesome work, Wei! (でかしたぞ、ウェイくん!)」
博士は、無事に生まれたイブカを見て、大声をあげる。
博士とウェイは、イブカの出産を助けるために、ウェットスーツを着て、イブカの水槽の中にいる。
臨海実験センターに設置された大型の水槽の中だ。
博士は、母親イブカの腹の方で、生まれたての赤ん坊イブカを、水中でそっと抱きかかえる。
「Yeah, indeed eveka did her best! (はい。でも、頑張ったのはこの子ですよ)」
ウェイはイブカの背中を撫でる。
母親のイブカは、ウェイの横で浮かんでいる。
「Exactly, eveka, you did it. Thank you so much! (そうだな、イブカ、よく頑張ってくれた。本当にありがとう)」
博士も、イブカの頭を優しく撫でた。
新しく生まれたイブカは、すぐに動き出し、おぼつかないながらも、泳ぎ始めた。
そして、母親イブカに頬ずりをしている。
その2週間後、博士はペトリディッシュを持って、イブカの水槽部屋を訪れた。
ペトリディッシュには、イブカに移植するために作製した、『シロナガスクジラの受精卵』が入っていた。
イブカの体細胞に遺伝子組み換えを施して、シロナガスクジラ様の細胞を作り出し、それから精子と卵を誘導した。それらを受精させ、シロナガスクジラの受精卵を作り出したのだ。
「ごめんよ、産んだばかりなのに、無理させてしまって……」
体外培養も可能であるが、胎内の方が圧倒的に安定だ。
そのため博士は、作製したシロナガスクジラの受精卵をイブカのお腹に移すことを計画した。
先々週赤ん坊を産んだばかりのイブカであったが、それをまた、妊娠させるのだ。
博士は、申し訳ないと思いつつも、結果を焦っていた。
早くシロナガスクジラの個体を手にしたかったのだ。
キュイー
しんみりとした顔の博士を元気づけるように、イブカは鳴いた。
イブカはイルカと同様に頭がいい。きっと博士の思いを汲んでくれているのであろう。
「はは……。ありがとう。本当に、ありがとう」
博士は、小さく口に笑みを浮かべ、イブカをじっと見つめた。。
作製された受精卵は、ペトリディッシュ内の液体の中にコロコロと転がっている。
ペトリディッシュ上での誘導は一度に数十個出来る。
一番良さそうなものから移植に使うのだ。
「Wei, I made this, so please do your best. Good luck! (じゃあ、ウェイくん。あとはよろしくお願いね)」
「Okay, I will. (はい、わかりました)」
ウェイは大きく頷いた。
そして、体外受精された受精卵の移植を試みた。
受精卵の見た目は、イブカのものも、シロナガスクジラのものも同じようなものだ。
移植の手法は、前回のイブカの時と同じである。
ウェイにとっては簡単な仕事だ。
しかし、産まれるまでには、数ヶ月という長い時間がかかる。
イブカから無事にシロナガスクジラの赤ん坊が生まれる保証もない。
まだ、この試みは始まったばかりだ。




