慰霊祭
大城戸博士とレイアは研究船パーズの慰霊祭に参加した。
先日の水爆投下で亡くなった方のための葬儀だ。
都内のセレモニーホールで催される。
そこには研究船パーズに乗っていた人々の関係者、家族が集まっていた。
博士とレイアは、千葉の臨海実験センターから、電車でやってきた。
「あっ、沖田船長」
博士は、目の前に、沖田船長を見つけた。
研究船パーズの船長であった沖田一二三である。彼は、いつもの制服ではなく、今日は、真っ黒な喪服姿である。
左手には包帯が巻かれている。
「あら、大城戸教授でしたかね……。それよりも、ご無事で何よりです」
沖田船長と博士は、研究船パーズの月に一度の会議で何度も顔を合わせていた。
まだ数回しか会話したことはないが、お互いに顔と名前は覚えている。
「はい。大城戸です。ええ、私たちは、幸運にも無事でした。でも、生きているのが奇跡です。なんというか、多くの方を救えなくて……。」
博士は、何を話していいかわからなかった。
それを遮るように、沖田船長が話し出す……。
「いえ。こういうのは海では、珍しくないですよ。誰もが簡単に命を落とす。これまでにも多くの友人が、私より先に、海に帰って行った。私は、また、こちらに残されてしまったようですがねぇ……。海では、順番通りにはいかないもんです……。これは、あなたが気に病むことではない。あなたは、あなたが生きていることを、ただ、喜べばいいんです」
沖田船長は、ふさぎ込む博士を諭すように言葉をつなげた。
「はい……、そうですね」
博士は、小さく頷いた。
他に返す言葉も見つからない。
研究船パーズの船長として、責任を持って航海していた。しかし、あの爆弾で、その半数以上の乗組員と乗客が死んだのだ。
そして、船長は、生き残った。
生きることは幸いなことであろう。だが、同時に、辛いことでもあろう。
「あの、たいへん失礼ですが、娘さんは……?」
沖田船長は金髪青目の少女が大城戸博士と一緒にいないことが気になった。
「あぁ、娘のシンシアは、おかげさまで無事です。ここに連れてくるのも気が引けたので、今日はうちで留守番です。相変わらず元気にしていますよ」
博士は、口元に笑みを作った。
シンシアとアムルは、臨海実験センターの宿舎の篠原陽介とかすみ夫妻に預かってもらっている。きっと、彼らの息子の拓也と一緒に元気に遊んでいてくれるだろう。
「無事ですか、よかったです。そうですね。子供は、ここにくるべきではないかもしれませんねぇ。あっ、では、また」
沖田船長は軽く頭をさげると、人混みに消えていった。
博士は、沖田船長の背中を見送り、横にいたレイアに話しかけた。
「Leia, he told me that we should be happy to be alive, not to regret the missing. So, it should be better to live with happiness. (今、沖田船長が言っていたんだけどね。レイア、僕らは、生きていることを喜ぶべきだって。亡くなった人に申し訳ないと思うより、生きていることを喜ぶべきだって。きちんと前を向いて生きていこうよ)」
博士は、レイアの青い目をじっと見つめる。
ここ最近、レイアの目はずっと潤っている気がしていた。
きっと、何度も涙を流しているのであろう。
「Aha. (うん)」
レイアは、生気の抜けた返事をした。
そのレイアの返事に頷き、博士は言葉を続ける。
「Do you think if Ashley can be happy when she sees your sadness. (なぁ、アーシーも、落ち込むレイアの顔を見て、笑顔になると思うか?)」
「……。」
レイアは無言で首を振る。
「I bet that Ashley and Shinich are doing well there. Who on earth live with happiness if we don’t. Anyway, what we should do is to do our best to enjoy our life instead of them. (信一もアーシーもきっと、向こうで仲良くやっているさ。僕たちが生きなかったら、誰が生きるんだよ。彼らの分まで精一杯生きるのが、生き残った僕たちが、まずやるべきことだよ)」
「Okay, I am OK now. Thank you, Hiro. (うん。わかった。ありがとう……。)」
レイアは、博士の目をじっと見つめ、コクリと頷いた。
泣いてはいけないと、心ではわかっている。
でも、今回は、悲しみで泣くのではない。博士と家族みんなで生き残ったことを、嬉しいと思うから泣くのだ。
レイアは、大きく息を吸った。
そして、ゆっくりとした吐息とともに、涙が目に溢れる。
一筋の涙がレイアの頬を伝った。
レイアの泣き声は、静かなセレモニーホールの中に、小さく、小さく、響き渡る。
他の多くの泣き声とともに……。




