北へ出発
イギリス各地から、大城戸研究室のみんなが、研究船パーズに戻ってきた。
大城戸研究室も元どおりの賑わいをみせるはずだ。
「Welcome back! (あっ、おかえりなさい!)」
博士とレイアが研究室の居室の入ると、ウェイがいた。
みんなが留守の間、ウェイが1人で全ての動物の世話をしていたのだ。
「There is shortbread for you. (お土産置いとくねぇ)」
居室に入ってきた博士は、居室の真ん中の大きなテーブルの上にイギリスのお土産のショートブレッドを置いた。
もちろん、博士の休暇中にウェイに頼んだ生き物の世話のお礼も込みである。
久保とアーシーはすでに研究船パーズに帰って来ていた。
2人は実験室で作業を始めていた。
「久保くん。アーシー。ただいま」
博士は、信一とアーシーに声をかけるために、実験室に顔を出した。
「あっ、お帰りなさい、大城戸先生」
「教授。お帰りなさい」
信一とアーシーは、信一の実験机のところで仲良く世間話をしていたところだった。
2人は揃って、博士の方に視線を向けた。
「I bet they should have done. (きっと、何かあったのよ)」
博士の後ろから、レイアが嬉しそうに、博士に耳打ちする。
レイアの勘は鋭かった。
普段となんら変わらないはずの2人から、何かを感じたのだ。
「Wait Leia, that is too much speculation. And, this is not our business. (おいおい、レイア、はは……。そんなことないだろ、詮索しすぎはよくないよ)」
博士は、小声で、後ろのレイアに言う。
「Hiro, look that, at Ashley,she has a ring on her ring finger. I bet they have done. (あっ、そらそら。見て、アーシーの左手! やっぱりそうだよ!)」
レイアはアーシーの左手の薬指にキラリと光るリングを見つけたのだ。
嬉しそうに目を大きく開け、耳打ちかどうかわからない声の大きさで、博士に耳打ちした。
「Oh, you are right. (あぁ……本当だね)」
博士も、それを見つけた。
その相手が久保信一とも限らないが……。そうだろうと、博士もレイアも考えた。
アーシーと信一の笑顔が、その説の信憑性を高めていた。
――――――
博士はイブカの飼育室にやってきた。
イブカの飼育室は、大城戸研究室の実験室とは離れたところにある。その部屋には大きな水槽があり、その中でイブカが飼育されている。
イブカは、すでに妊娠しており、お腹の中には胎児がいる。
「I wanna make the next baby, I mean a whale baby after the eveka when she has the baby. (このイブカの子供が生まれたら、次には、クジラも作りたいんだよね)」
博士はウェイに話しかける。
ウェイにイブカの飼育を任せているが、イブカの様子が気になるので、博士はこの飼育部屋に、時々、いや頻繁に、イブカの様子を見に来るのだ。
「Oh, whale. (クジラですか……。)」
ウェイはゆっくりと答えた。
イブカも無事に生まれるかもわからないのに、先の話をするのはウェイは好きではなかった。往々にして、教授という生き物は先の話をするものだが……。
「Yeah, I wanna make a blue whale. (そう、特に、シロナガスクジラを作りたいんだよ)」
「Why do you think so? (それは、どうしてですか?)」
「Um, because my dear Cynthia likes that. (う〜ん……。シンシアが、好きだから、だよ)」
ウェイは、返事をしなかった。
教授という生き物は、往々にして、子どもをダシにしつつ、変なことを言うものだが……。
研究船パーズは、北極海に向けて、発進した。
北へと航路をとる。
北極海を抜けて、日本に戻る予定だ。




