ポセイドン消失の秘密
3人は居住部屋で、少し遅めの昼ごはんを食べていた。
研究室と居室と居住部屋は同じ区画にある。
博士、レイア、シンシアの3人はいつも居住部屋に戻って昼ごはんを食べるのだ。船内の購買で、食材を買うことができるので、船の上でも普通に食事が作れる。いつもは博士とレイアが交代でご飯を作っており、今日の昼ごはんのミートパスタは、レイアが作った。
あの海賊船は、大きな波に飲み込まれたことになっている。
ただの海難事故として処理されるであろう。幸いにも、あの時、展望台には誰もいなかった。シンシアの姿を見たものもいない。
シンシアがやったということは誰にも知られてはいない。
「いやぁ、すごい力だね。僕らが駆けつけた時には、船の残骸しか見当たらなかったけど。あれはシンシアがやったんだよね?」
博士は、ミートパスタを口に入れる。
「そうだよ。海賊は悪いことばかりするから、懲らしめてあげたの」
シンシアは皿の周りにミートソースをこぼしながらも、懸命にパスタを口に運んでいる。海神ポセイドンはフオークを使うのが上手だったのではないのか?
「はは、いいよ。あのままだと大変なことになっていただろうしね。この船は戦う用には作られていないし、研究者しか乗っていないからね。海賊に侵入されたら、一巻の終わりだったよ。ありがとうね、シンシア」
博士は、シンシアの頭を撫でる。
シンシアは「うぐぅ」と言いながらも、パスタを食べるのに夢中だ。
「ちなみにさぁ、なんでこんなにすごい力があったのに、消失しちゃったの?」
博士はシンシアに聞く。
「詳しくはわからないよ。何か光ったと思ったら消失していたの」
シンシアはミートパスタを食べる手を止めた。
海神ポセイドン自身も、自分が消失した理由はわからない。
前世では大きな魚型をしていたため、海中で何者かに襲われることはまず無い。海水を自由自在に操る力も持っており、よほどのことでも無い限り、打ち負かされることはない。ただ、気が付けば肉体は消滅していた。
「そうか」と博士は頷く。
「I see, then. Where have you lived in? (そうなんだ、じゃあ一体どこに住んでいたの?)」
と、レイアも頷き、シンシアに聞く。
「南の方の海だよ。すごく冷たくて、誰も住まない海底に、わたしの神殿があったんだ。今は、どうなっているのかわからないけど」
シンシアは真面目な顔で答える。
シンシアは英語は聞けるが、あまり話せない。そのため、レイアには日本語で返事をしている。レイアは、それを、頑張って理解する。
「一体何があったんだろうね? 南の冷たいところっていうのは、南極大陸のことだろうか?」
「うん、たぶん。その大陸の近くの海底」
博士の質問に、シンシアは頷く。
「じゃあ、この船も太平洋を一周する途中で、南極の近くも通る予定だから、近くに寄ったら何かヒントが得られるかもね」と、博士。
研究機関パーズは、シンガポールを目指している。その後、オーストラリアを経由し、北アメリカに向かう。太平洋を一周する予定だ。南極の近くと言っても、オーストラリアまでである。
「そうだといいんだけどね」
シンシアは頷くと、ミートパスタを食べだす。
口の周りをケチャップで赤くしている姿は、一瞬で、海賊船を3隻沈めるほどの力を持った海神ポセイドンの姿には到底見えなかった。